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短編集

浜辺

作者: 豆苗4

 生きることに特別な意味なんてありやしないのだ。私に肉薄しない意味なんて餅に包んで食べてしまえ。実際、生に何ら意味を見出せないなんてことは日常茶飯事だ。飯といえば、今日の晩御飯は何にしよう。コロッケ。カレー。オムライス。この浜辺まで来ると、出来事に確固たる意味が付着しているのかどうか、いつも疑問に思う。強烈な使命感に身を焦がし、天命を全う出来たのならどんなに良かっただろう。それも今や叶わぬ夢。小さな石を拾って手のひらの上で転がす。どうも手持ち無沙汰だ。波打ち際に向かって石を軽く放る。ぽちゃんと音を立てて沈んでゆく。沖合に浮かぶ遊覧船がゆっくりと通り過ぎていく。ぱしゃ、、、ぱしゃ。規則的な波のリズムに耳を傾ける。遠くで子供達の賑やかな声が響く。すぐそばのヤシの木は心ここに在らずでどこか遠くを見つめているみたいだ。波はどこから来たのだろうか。


 何となく生き延び、何となく死にゆく。砂があまりにもゆっくりと落下する砂時計。まるで止まっているかのように思える。だが決して元通りになる事はない。浮かび上がる事もなく沈みゆく事もない。映画みたいな劇的な展開を迎えることはない。宇宙人とハイタッチする事も、空から飴が降ってくる事も、衝突寸前の隕石をキャッチする事もない。ぐつぐつと沸き立つような青白い情熱が湧き上がることも当分ないだろう。そういえば、晩御飯に鍋も悪くない。どうしたものか。やっぱりすき焼きにしようかな。私にしっぽが生えていたら後ろ向きにすっ転ぶことなんて無かったのかなとも思う。しっぽをぶるんぶるん振り回して空を飛ぶことだって、向こう岸まで悠々と海を渡ることだって出来たのかもしれない。もしそうなったとしても今度は、しっぽが生えてなかったら良かったのに、なんて贅沢な事を言うに違いない。今もあまり変わらないか。なんだかおかしくなって笑いが込み上げてくる。魚がばしゃっと跳ねた。あ、あれはいつかの行方知らずのしっぽ。こんなところで会おうとは。夢のようなしっぽ。夢は何を夢見るのだろうか。


 よし、とりあえず今日の晩御飯はシチューにしよう。そう決めると、仰向けに寝っ転がる。ぽかぽかと照りつける陽光に思わず肩の力が抜ける。太陽が少し眩しい。いそいそと木陰に移動する。そよ風が頬を軽く撫でる。風はどんな記憶を運んでいるのだろうか。心地よいリズムに揺られて眠りにつく。


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