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短編小説どもの眠り場

先生に、渡したいものがある

作者: 那須茄子

 私は基本、先生という大人が嫌いだ。皆うわべだけで、中身は空っぽ。

 先生も所詮は仕事だから、しかたない。


 

 そう思うと、やっぱりあの先生だけは特別なんだ。

 私は胸を押さえて、ふぅーっと息を吐く。

 

 

 教室の扉の窓から中を見て、再度先生がいることを確認する。

 教卓の上に本を広げているから、きっと読書中なんだろう。立ち読みなんて気が散らないのかなと、ちょっとしたことを思った後。

 

 そっと扉を開ける。


 先生は驚いた様子もなく軽く手を上げて、


「おはよう、明日海(あすみ)。今日はまた一段と早いな」


 と少しズレた眼鏡の向うの目が、笑う。

 確か、クラスの皆からは「メガ丸(眼鏡と先生がロボットみたいな歩き方をすることから名付けられた)」と呼ばれている。


「おはようございます。先生も早いですね」


 勇気を持って踏み出したものの、途端にまた気持ちが落ち着かなくなり素っ気ない受け答えしか返せなくなる。

 

 こんな私が先生に渡せるだろうか。


 また一歩、ドキドキしながら先生に近付いていく。

 大丈夫。一生懸命手作りしたんだから、先生にはなにがなんでも食べて欲しい。その思いがある以上、私は諦めない。



「そういや、今日はバレンタインだな。明日海は誰かに渡すのか?」

「え、」


 び、びっくりする。先生がそんなことを聞いてくるなんて思いもしなかったから。

 反射的に持っていた包を、後ろの方に隠してしまった。


「…えっと、その」

「あ、いいんだ。無理に聞いてごめん。デリカシーに欠けていたよ」


 先生は申し訳なさそうに手を合わせて、頭を下げる。

 なんだか渡すタイミングを見失った。一旦席について、落ち着こう。



 椅子に座るが、胸の焦りは鳴りやまない。

 私の頭の中はハテナでいっぱいだ。この後のことを考えると、絶対今しか渡す機会がないのに。


 どうしよう。


 掌には汗が滲み、握りしめているチョコが溶けないか心配だった。

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