トレジャーハント 終
死生の谷。荒涼とした地形の中、冷たい風が吹き抜け、谷を覆う霧がすべてを飲み込むかのように広がっている。そこに立つ黒騎士の影が、霧の中で揺らめいていた。
「この先に、私がかつての主と共に戦った竜――ヴォルガリオスが眠っています」
黒騎士が低く落ち着いた声で語る。その声には深い敬意と、どこか哀しげな響きがあった。
霧をかき分けるように歩きながら黒騎士に問いかけた。
「眠っている、ってことは死んでるのか?」
「ええ、正確にはその通りです」
黒騎士は頷く。
「しかし、ヴォルガリオスの魂はこの谷に縛られ、未だ現世に留まっています。新たな主を待ち続けるために」
霧の奥から巨大な石碑が姿を現す。その周囲には崩れかけた遺跡が広がり、石碑の下には黒く輝く竜の骨が安らかに横たわっていた。
黒騎士はその場に跪き、静かに頭を垂れる。その動作には深い敬意が込められていた。
「この場所こそ、ヴォルガリオスが最後の戦いの後、永遠の眠りについた地です。彼は私と共に多くの戦場を駆け抜けた戦友であり、最強の竜でした」
石碑に手を触れ、その冷たさとともに何か強大な力が眠っているのを感じ取る。
「……そんな竜がまだ待っているのか?」
黒騎士は静かに顔を上げ、向き直る。
「ヴォルガリオスは、主としてふさわしい者を選ぶ力を持っています。私は彼を呼び覚ますことができますが、彼があなたを認めるかどうかは、あなたの力と覚悟次第です」
黒騎士は立ち上がり、石碑に手をかざすと古代語の呪文を唱え始めた。その声に呼応するかのように、石碑から眩い光が放たれる。遺跡全体が震え、霧の中から巨大な影が形作られていく。
光が収まり、姿を現したのは漆黒の鱗を持つ巨大な竜だった。その黄金の瞳が見下ろし、まるで心を試すかのような鋭い視線を向ける。
黒騎士が厳かな声で告げた。
「ヴォルガリオスよ。私はあなたのかつての戦友、そして忠誠を誓った者として、この方を新たな主として迎えることを願います」
ヴォルガリオスは黒騎士の言葉を聞き終えると、一歩前に進み、その巨大な頭を向ける。その眼差しに、動じず静かに口を開いた。
「ヴォルガリオス、新たな主となる。お前と共に新たな戦場を駆け抜ける覚悟はある」
竜の瞳が一瞬光を帯び、続いてゆっくりと頭を垂れる。その動作には確かな忠誠が込められていた。
黒騎士はその様子を見届け、静かに微笑む。
「ヴォルガリオスがあなたを選びました。これで、彼は再び主と共に戦うことができます」
「黒騎士、お前はどうする?」
問いかけると、黒騎士は静かに答えた。
「私は今後もあなたにお仕えいたします。ヴォルガリオスと共に、私の力が必要な時はいつでもお呼びください」
霧が晴れ、死生の谷の冷たい風がようやく穏やかになった。黒騎士とヴォルガリオスの方を改めて見ると、二人の存在感は圧倒的で、その力が周囲の空気を変えるほどだった。しかし、その強大さゆえに、常に共にいるわけにはいかない。
黒騎士が一歩近づき、静かに言葉を紡いだ。
「主様、我々がこのまま常に姿を晒していては、かえって目立ち過ぎ、敵に狙われる原因となりかねません。ですので、普段は私とヴォルガリオスは、あなたの影に潜み、必要な時のみ現れる形といたしましょう」
「影に潜む?」
不思議そうに問い返すと、黒騎士は薄く頷き説明を続けた。
「影であれば、私たちが常に待機できる場所になります。私とヴォルガリオスは一体化して、あなたの影の中に収まります。そして、あなたが力を求める時、いつでも現れることが可能です」
その言葉と共に黒騎士が手を掲げると、彼の姿が徐々に黒い霧となり、足元に伸びる影と一つに溶け込んでいく。黒騎士の声が影の中から響いた。
「このように、私は今から影に留まります。主様が望む限り、いつでも呼び出していただけます」
続いてヴォルガリオスもこちらを向き、その巨大な身体が徐々に縮み、黒い光となって影に吸い込まれていく。最後に黄金の瞳が輝きを放ち、静かに消えていった。
足元にできた影は、一瞬だけ揺らめき、再び何事もなかったように静止した。だが、そこには確かな気配が感じられる。
「こうして影にいると、必要な時に即座に現れることができます。主様、どうぞご安心ください」
黒騎士の落ち着いた声が響く。
軽く頷きながら、自分の影を見つめた。その中に黒騎士とヴォルガリオスが潜んでいると思うと、不思議な安心感と、背負う責任の重みを同時に感じた。
「わかった。力を借りる時は、遠慮なく呼び出させてもらう」
そう言って影に語りかけると、黒騎士の低く響く声が返ってきた。
「はい、主様。私たちはいつでも、あなたと共にあります」
新たな絆と力を得た。その影を足元に従え、次なる冒険への一歩を踏み出した。影の中には、彼を守り導く二つの存在が静かに息を潜めていた。
死生の谷を後にし、相棒であるアークの背に乗って空を飛んでいた。谷での過酷な試練を思い返しながら、赤く染まる夕焼けの空を眺める。冷たい風が頬を撫で、遠くには自宅のある町が見え始めていた。
「もうすぐ帰れるな、アーク」
声をかけると、アークが低い咆哮で応えた。その音には誇らしげな響きが込められている。
やがて、自宅が見えてきた。丘の上に建つその家は、暖かい灯りが窓から漏れている。アークは軽やかに翼をたたみ、庭に静かに降り立った。背から降りると、玄関の扉が開く。
にゃんまる、ヴァルター、リセラが姿を現した。
「おかえりなさい、主」
「「おかえりなさいませ、主様」」
にゃんまるは穏やかな微笑みを浮かべながら出迎える。
「死生の谷から無事に戻られたのですね。さすが主です」
軽く頷きながら答えた。
「ただいまにゃんまる。厳しい試練だったが、その分、得たものも大きい」
そう言うと、彼の足元の影が揺らぎ、黒騎士が静かにその姿を現した。
にゃんまるの目が一瞬驚きに見開かれるが、すぐに落ち着きを取り戻す。黒騎士を見つめ、深く頭を下げた。
「初めまして、黒騎士殿。あなたが主に忠誠を誓う存在であるなら、心強い限りです」
黒騎士は静かに膝をつき、にゃんまるに応える。
「初めまして、にゃんまる殿。私は主様に仕える身。愛竜のヴォルガリオスと共に影の中にて常に待機し、その御意に従います」
意識を集中させると、黒騎士の影がさらに深まり、巨大な竜ヴォルガリオスの姿がその中から現れた。その漆黒の鱗と鋭い黄金の瞳は、まさに圧倒的な存在感を放っている。
にゃんまるは竜の姿を見て感嘆の声を漏らした。
「これがヴォルガリオス殿……かつて黒騎士殿が乗られていた竜ですね。まさかここまでの力を得て戻られるとは……」
ヴォルガリオスは低く咆哮を上げると、主に視線を向けて頷いた。その様子を見て静かに言う。
「黒騎士とヴォルガリオス、これからは影の中で力を貸してくれ。」
黒騎士が恭しく頭を下げると、ヴォルガリオスと共に再びの影の中へと溶け込んでいった。その影が揺れるたび、そこに宿る力の膨大さを感じる。
にゃんまるが満足げに微笑みながら言った。
「無限再生のスキルとネクロマンサーのスキルを手に入れたよ」
「さらに強大な力を手に入れられたのですね。それに加えて、無限再生のスキルとネクロマンサーの力も……まさに無敵といえるでしょう」
軽く肩をすくめて答えた。
「無敵かどうかはわからないが、これで次に進む準備は整った。あとは少し休んでからだな」
にゃんまるは小さく頷きながら微笑む。
「それが賢明です。温かいお茶を用意しておきますね。」
にゃんまると共に家の中へと入っていく。アークは庭でのんびりと横になり、静かな夕暮れを楽しむように目を閉じた。
新たな力を手にし、次の冒険への決意を胸に、束の間の安息を迎えた。
自宅最高!竜騎士ってかっこいい!




