それは猫の大津波
リリアの商会での仕事が落ち着き、再び冒険者としての技術を磨くため、にゃんまるとの訓練を再開していた。商会での忙しい日々の合間を縫って、日々の鍛錬を怠らない。にゃんまるはいつも通り冷静に、そして時には厳しく指導していた。
「今日は、攻撃のタイミングを合わせる訓練です。相手の動きを見極め、隙を突けるようにしてください」
深く頷き、剣を握り直す。にゃんまるは手を広げて、何かを思案するように目を細めた。
「隙を突けと言われても、相手がどんな動きをしてくるのか分からなければ、なかなか対応できません。まずは、相手の行動パターンを読み取ることが重要です」
「うん、にゃんまるが言う通り、見切りを鍛えなきゃ、攻撃のタイミングなんて分からない」
にゃんまるは頷き、深く息をついて言った。
「その通りです。ですが、見切りを鍛えるだけでは不十分です。反射的に、直感で動けるようになるための訓練も重要です。ですから、今日の訓練では、意識的に相手の動きを予測し、攻撃のタイミングを合わせていきましょう」
訓練は続き、ひたすらに戦闘感覚を磨いていった。隙間を見つけ、タイミングよく相手の動きを止め、素早く反撃する――その一連の流れを体に染み込ませるために何度も繰り返した。
「いいですね、その調子です」
にゃんまるの声が響く。息を切らしながらも、訓練を続けた。繰り返しの中で、確かに戦闘感覚が鋭くなっていくのを感じていた。
時間が経ち、疲労感も溜まってきたが、休むことなく訓練を続けた。にゃんまるの指導が厳しくても、それが自分にとっては力になることを知っていた。
その日はいつもの訓練の合間に、少しだけ違った形の演習をしていた。今度は、仮想の敵が数十人の集団となり、主人公がそれをどう乗り越えるかが課題だった。にゃんまるがいくつかの敵役を用意し、その対応をさせる。
「これまでのように一対一で戦っているだけでは、いざ集団に囲まれたときに対応できません。ですので、集団相手の戦い方を学んでおくのも重要です」
そのとき、何気なく周囲を見渡していた。目の前にいる敵を相手にするのはもちろんだが、ふと、自分が相手にできることがないかを考えていた。無意識に、どうしても敵を一気に倒す方法がないかと思案していた。
そのとき、にゃんまるが突然口を開いた。
「猫たちの力を使うのはどうでしょうか?」
にゃんまるの言葉に驚き、思わず足を止めた。
「猫の……力ですか?」
にゃんまるは無表情でうなずく。
「その通りです。主には猫の精霊と相性がいいので召喚する力があるかもしれません。もしそれを利用すれば、無数の猫が一斉に動き、敵を包囲して一気に攻撃を加えることができるはずです。」
その言葉に心を奪われ、深く考え込んだ。猫の精霊――そうだ、これなら集団戦でも圧倒できるかもしれない、と。頭の中で、無数の猫たちが一斉に動き、敵を包囲して攻撃を加える光景が浮かんだ。
「やってみる!」
すぐに手を広げ、心の中で魔力を集める。そのとき、不意に何かが胸の中で爆発したような感覚を覚え、空が一瞬暗くなった。
そして――
空から光の柱が降り注ぎ、その中から無数の猫の精霊たちが現れ、周囲を取り囲み始めた。
《精霊召喚・猫を獲得しました。猫の精霊を召喚できます。》
再び手を広げ、深呼吸をして魔力を集中させる。その感覚を探りながら、思い描くのはより強力な技、無数の猫の精霊を一斉に召喚し、戦場を圧倒する力。だが、今はまだその技には到達していない。
「さあ、もう一度だ」
手のひらから魔力が溢れ、空に向かって放たれる。すると、今度は少し違った反応があった。光の柱が降り注ぐと同時に、猫の精霊たちが現れるが、その数は今までとは異なり、遥かに多い。何十匹、何百匹、もはや数えきれないほどの精霊たちが現れる。
最初は少し不安げだったが、その光景に驚きながらも冷静を保つ。猫たちの動きが、すぐに連携をとり始めた。それぞれが自主的に周囲を確認し、敵を囲み、無駄なく動いていく。
「これだ…! まるで一つの意志で動いているようだ」
猫たちは個々に力を発揮しつつ、周囲の敵を次々と包囲していく。だが、今までの召喚と何が違うのか、その瞬間に気づいた。猫たちの動きが、完全に一体となっており、攻撃の速度も精度も飛躍的に向上していた。
「この連携…! それに、まるで意識を持っているかのように動いている。」
その時、にゃんまるがにその光景を見守り、感心したように口を開いた。
「主、この精霊たちはただの精霊ではありません。まるで一つの存在のように動いています。まるで、猫たちが戦略的に連携しているかのようです」
その言葉に頷きながら、さらに魔力を注ぎ込む。次々と現れる猫たちが敵を包囲し、圧倒的な勢いで攻撃を加えていく。その光景はまさに戦場での圧倒的な優位を感じさせるものだった。
だが、ここで冷静にその力を見つめ直す。数百匹、いやそれ以上の猫たちが戦う光景には圧倒されるが、これではまだ完全な必殺技にはならない。最終的に全てを制御し、一斉に攻撃を加える技に進化させなければならない。
「この技… もう少し、何かが足りない」
少し考え込む。精霊たちが攻撃を加えながらも、まだ物足りない。戦場を完全に支配するためには、もっと深く、もっと精密に調整を加える必要がある。だが、それにはまだ時間がかかると感じていた。
魔力を集中させると、まず猫の精霊たちを召喚した。その精霊たちが無秩序に動き、攻撃を繰り広げていたが、主人公の目は決してその力強さに満足しない。技を完璧にするためには、さらなる力が必要だと感じていた。
「これだけじゃ足りない…」
目を閉じて深呼吸し、自身の内にある「エルドラ」の力を感じ取る。エルドラ。それは、彼が以前から意識的に引き出してきた力であり、竜族に由来する強大なエネルギーだ。その力を呼び覚ますことで、精霊たちへの指示がより強力に、そして精緻に伝わるはずだ。
「エルドラ…力を貸してくれ」
そう言って、エルドラの力を引き寄せる。エルドラの力はまるで大河のように、主人公の体内を流れ、彼の魔力を増幅させる。その力を猫の精霊たちへと流し込んだ瞬間、まるで猫たちが新たな命を吹き込まれたかのように、動きが変わり始める。
「さあ、行け…!」
精霊たちの動きはまるで一つの大きな生命体のように統一され、操る魔力に完全に反応する。猫たちが集まって形成する巨大な形が現れ、その姿はまるで竜のように大きく、壮大なものとなった。
さらに、エルドラの力を魔法に組み込むことで、猫たちが放つ攻撃の威力を強化しようと考えた。これまでの技とは一線を画す、さらに強力で洗練された技を目指して。
「今度は本物の力を見せてやる!」
力を込め、再び魔力を注ぎ込む。その瞬間、空中から光の柱が降り注ぎ、無数の猫たちが一斉に空に舞い上がる。だが、その光景は今までのものとは明らかに違っていた。エルドラの力を融合させたことで、猫たちの姿は次第に竜のような輪郭を持つようになり、攻撃の勢いもさらに強化されていた。
空中で渦巻く猫の精霊たちは、まるで竜の群れのようにうねりながら、敵を包囲する。そして、彼らの一斉攻撃が始まると、周囲に恐ろしい震動が走り、地面を揺らすほどの衝撃が広がった。
「これだ! これが…新しい力だ!」
歓喜の声を上げる。猫たちの攻撃が一気に敵を飲み込んでいく様子に、圧倒的な力を感じた。それはまさに、戦局を一気に覆すような力だった。
だが、その瞬間、膝をつく。エルドラの力を使いすぎたため、身体が重く感じる。無理をして魔力を過剰に消費したことが影響していた。
「…まだ無理があったか…」
それでも、技が完成に近づいたことを確信していた。猫たちとエルドラの力が融合したことで、この技はまさに圧倒的な威力を誇り、これからの戦闘で重要な役割を果たすだろうと心の中で思った。
「これで、最終的な技が完成した…!」
だが、その力を使い果たすと、しばらくは動けなくなることを覚悟していた。次にこの技を使うときは、もっと力を制御し、エネルギーを温存することを考えなければならないと感じながら、静かに息を整えた。




