お金を稼ぎましょう 3
街を歩いていると露天商人の棚の隅に置かれたぬいぐるみを見つけ、その姿に目を止めた。ぬいぐるみは少し色あせ、古びていたが、どこか愛らしい雰囲気を放っていた。丸い耳、大きな目、そして擦り切れた布の端に、長い時間を経てきたことが感じられる。
商人はそのぬいぐるみを手に取って、見せながら言った。
「これ、川で流れてたんだ。拾ったんだけど、誰のものか分からなくてね」
ぬいぐるみをじっと見つめた。見覚えがあるわけではなかったが、どこか懐かしい印象が心の中でわずかな動揺を引き起こす。ふと、川で出会った少女のことが思い浮かぶ。涙を流し、ぬいぐるみを抱きしめていたあの姿。もしかしてと思い、ぬいぐるみを手に取り、鑑定の魔法を使うと、その結果が浮かび上がった。ぬいぐるみの表面に、ほのかに光る文字が現れる。
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鑑定結果
名前: 不明
種類: ぬいぐるみ
属性: 感情の結晶
効果: 所有者の心の安定を促進する
備考: 「リリアの大切なもの」
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その内容に驚きと共に静かに息を呑んだ。ぬいぐるみがただの玩具ではなく、持ち主の感情を安定させる力を持っていることに気づく。さらに、備考欄に「リリアの大切なもの」と記されていたことに心が揺れる。
これが、川で出会った少女、リリアが大切にしていたものだと直感的に理解した。彼女の悲しみに寄り添ってきたそのぬいぐるみが、今、手の中にある。何かを感じ取り、これがきっと彼女にとって意味深いものであることを確信した。
「リリア…」
小さく呟いた。
「これ、いくらですか?」
商人は少し驚いた顔をしてから、軽く肩をすくめた。
「ん?お前が買いたいのか?まあ、値段は適当で構わんが…どうしても買うって言うなら、10枚の銀貨でどうだ?」
少し考え込んだ後、ゆっくりと財布から銀貨を取り出して、商人に渡した。
「これで、お願いします」
商人は銀貨を受け取ると、にっこりと笑った。
「お前がそう言うなら、いいだろう。大事にしてやってくれ」
ぬいぐるみを大切に手に取ると、軽く頭を下げて商人に礼を言った。
「ありがとうございます。大事にします」
ぬいぐるみを手にし、川で出会った少女のことを思いながら歩き始めた。このぬいぐるみが、再びその少女の手に戻ることを願いながら。彼女が抱えていた悲しみが少しでも和らぐことを信じて。
数日後、市場を訪れるために街を歩いていた。手にはリリアのぬいぐるみを大切に抱えている。あの時、彼女が涙をこぼしながら抱えていたぬいぐるみを、もう一度手にすることになるとは思ってもいなかった。だが、今ではそのぬいぐるみが持つ力や意味を理解していた。あの少女と再び会い、渡すべきだと感じていた。
通りを歩きながら周囲を見渡した。人々の姿が行き交う中、ふと目を留めたのは、前回と同じく、商店の一角に立っているリリアだった。彼女はまだあの時と変わらず、少し沈んだ表情で店の前に立っていた。
「リリア…」
思わず名前を呼ぶ。リリアがその声に振り向いた瞬間、目が合った。少し驚いたような顔をしていたが、すぐに微笑みを浮かべた。
「あなたはあの時の…」
リリアが少し戸惑いながらも問いかける。
「覚えていますか?」
にっこりと微笑みながら、リリアに向かってぬいぐるみを差し出した。
「これ、あなたの大切なものだと思うんです」
リリアの目が大きく見開かれ、驚きと喜びが入り混じった表情を浮かべた。
「そ、それ…」
と、彼女は手を震わせながらぬいぐるみを受け取る。
「本当に......間違いないわ......」
頷きながら言った。
「川で流れて商人が拾い売られていたのを見つけました。きっと、あなたが大切にしていたものですよね」
リリアはそのぬいぐるみを両手でしっかりと抱え、しばらくそのまま黙って目を閉じた。涙が頬を伝うことはなかったが、彼女の瞳には感謝と安心感が浮かんでいた。
「ありがとう…...ありがとう......」
リリアはようやく顔を上げ、涙ぐんで微笑んだ。
少し照れくさい気持ちになりながらも、彼女の気持ちを受け止める。
「良かった。これで、あなたが元気になれたら嬉しい」
リリアは頷きながらぬいぐるみをぎゅっと抱きしめ、深くお辞儀をした。
「本当に、ありがとう…。」
その瞬間、彼女の笑顔がこれからも輝き続けることを願って、心から安心した気持ちになった。
リリアはぬいぐるみを大切に抱えながら、少し顔を赤らめ、見つめた。
「あの…本当に、ありがとうございます」
と、彼女は恐縮した様子で言った。
驚いたように見つめると、リリアは慌てて続けた。
「私はリリア・ヴェルデ。ヴェルデ商会の娘でございます。これまで、こんな風に他の方に助けていただくことなど、ほとんどありませんでしたので…心から感謝申し上げますわ」
リリアはぬいぐるみを大切そうに抱きしめながら、頭を深く下げた。その動作はどこか優雅で、また恥ずかしそうに顔を赤らめていた。
「リリア・ヴェルデ…」
その名前を一度呟き、少し考え込んだ。
「いい名前ですね」
「ありがとうございます」
リリアはうつむきながらも、どこか誇らしげに言った。
「ですが、そんなことはどうでもよいのです。お礼を言わせていただきたかったのです。これほどの恩を返すために、もしお手伝いできることがあれば、何なりとお申し付けください」
リリアの真摯な言葉に驚きながらも、微笑んで言った。
「そんな大げさなことは。君が無事に戻ってきて、元気を取り戻してくれたことが一番だよ」
リリアはその言葉に少しほっとした様子で、顔を輝かせながら言った。
「あ、ありがとうございます。では、何か私にできることがあれば、いつでもお申し付けくださいませ」
その後、リリアは少しずつ、自己紹介をしながらお互いに会話を重ね、少しずつ心を開いていった。最初は少し堅苦しさがあったものの、温かい対応に、リリアの心は次第にほぐれていった。
少し考え込むように視線を落とした。そして、静かに口を開いた。
「リリアさん、君が商会の娘であるなら、ちょっと相談したいことがあるんだ」
リリアは驚いた様子で見つめると、すぐに丁寧に返事をした。
「何でしょうか?できる限りお手伝いさせていただきますわ」
少し言葉を選びながら、話を続けた。
「実は、少し珍しいものを作ったんだ。猫奏輪という、音楽を奏でる小さな装置なんだけど…商会で取り扱ってもらう方法を教えてもらえないかと思って」
リリアは目を輝かせた。
「猫奏輪!あの時頂いたものですわね」
頷きながら言った。
「でも、まだどうやって売り出すか分からなくてさ。君の商会の力を借りることができればと思うんだ」
リリアは少し考え込み、ぬいぐるみを大切に抱きしめながら答えた。
「それは願ってもない相談ですわ。私の商会も多くの品を取り扱っていますし、新しいものを試すのはいつも歓迎されます。猫奏輪は特に今商人の中で話題沸騰中ですのよ!」
安心したように頷き、続けた。
「そうだな。まずはいくつか実物を見てもらいたいんだ。もしよければ、商会に持ち込んで、どうやって販売するのが一番良いかアドバイスをもらえると助かる」
リリアはじっと見つめた後、にっこりと微笑んだ。
「分かりましたわ。それなら、私が商会の方に紹介しますわ。きっと役に立つと思いますので、期待していてくださいませ」
深くお礼を言った。
「本当にありがとう。君にお願いしてよかった」
リリアは少し照れくさそうに首をかしげ
「いえいえ、私もとても面白い提案だと思いましたわ。それに、貴方が作ったものを広める手伝いができることが嬉しいですわ」
と答えた。
リリアの言葉に少しほっとし、これから先の道のりが少し明るく感じたのだった。
「さっそく我が家に参りましょう!」




