お金を稼ぎましょう 2
にゃんまると共にマーケットへ向かう途中、静かな街の通りを歩いていた。日差しが温かく、周囲の賑やかな音が遠くから聞こえてくる中、ふと目に入ったのは、少し前方に立つ少女だった。
彼女は年齢が15歳ほどに見え、背中を少し丸めて、肩を落としていた。周囲を見渡すでもなく、どこか遠くを見つめるその姿に、何か深い悲しみを感じさせるものがあった。頬をつたう涙は、ほんの少し前まで泣いていた証拠だ。
「どうしたんだろう…?」
にゃんまるに小声で呟く。少女が気になり、足を止めた。
「ちょっと、話しかけてみようか」
そう言って、少女に近づくことにした。
近くに歩み寄ると、少女はまだ気づかない様子で、その場に立ち尽くしていた。その背中を見て、胸が痛んだ。彼女が何か悩んでいることは明白だった。
「こんにちは」
やわらかい声で声をかけた。
その声に驚いたように、少女が顔を上げた。目が合った瞬間、彼女は少し怯えたように目を伏せ、視線を外した。その顔は、どこか引きつっているようで、明らかに気分が優れないことが伺えた。
「こんにちは…」
少女は小さく答えると、再び視線をそらした。その姿に少し胸を痛め、もっと優しく話しかけてみることにした。
「大丈夫?」
慎重に尋ねた。
「何か、困ったことでもあったの?」
少女はしばらく黙っていたが、やがて口を開く。声は力なく、どこか悲しげだった。
「…いいえ、別に」
少女は無理に笑顔を作ろうとしたが、その表情はどこかひどく辛そうだった。
「なんでもありませんわ」
その言葉に、見逃すわけにはいかないと感じた。無理に隠さなくてもいい、と、声をかけ続ける。
「無理に笑わなくてもいいんだよ」
優しく微笑んだ。
「もし話したくなったら、よければ聞くから」
少女はその言葉に少し驚いた顔をした後、ゆっくりと顔を上げた。そして、目を見つめ、心の中で少しだけ迷いを見せた。
「ほんとうに?」
少女の声に、わずかな希望の色が感じられた。
「もちろん」
頷き、もう一度微笑んだ。
「無理しないで、少しでも楽になれるなら僕は何でも聞くからさ」
その言葉に、少女は少しだけ安心したように見えた。そして、深いため息をついてから、ゆっくりと口を開いた。
「実は…」
少女は手を握りしめながら言った。
「大切にしてたものが無くなってしまったの」
少し首をかしげた。
「大切にしてたもの?」
少女はうつむき、言葉を続けた。
「私、ずっと一緒にいてくれたぬいぐるみがあって…それを川に流されてしまったの。この歳でぬいぐるみなんて、お子様みたいだけど私にとっては大切なものだったの」
その瞬間、心は大きく動かされた。小さなぬいぐるみがどれほど彼女にとって大切だったのか、その姿が目に浮かぶようだった。
「それは辛いね」
静かに言った。
「でも、きっとそのぬいぐるみは、君が大切にしてくれて幸せだったと思うよ」
少女は少し驚いた表情を浮かべたが、やがてその顔に少しの穏やかさが戻った。
「ありがとう…。そうね、きっとそうよね」
少女は小さく頷き、少しだけ表情が柔らかくなった。
「本当に、ありがとう」
にっこりと笑い、少女に向かって一歩踏み出す。
「少し気が紛れたなら良かった」
少女はその言葉に少し照れくさい笑顔を浮かべ、手を振りながら答えた。
「うん、ありがとう!さよなら!」
軽く手を振り返し、にゃんまると共にその場を後にした。少しだけ心が温かくなるような、そんな気持ちを抱えながら、マーケットに向かって歩き出すのだった。
少女との会話を終えて、少しだけ歩を進めようとした。しかし、ふと足を止め、再び振り返ると、少女が少しだけ寂しそうに立っているのが目に入った。
その顔を見た瞬間、何かを思い出した。自分が持っていた「猫奏輪」が、もしかしたら彼女に少しでも心を軽くする助けになるかもしれない、そんな気がした。
にゃんまるに少しだけうなずき、再び少女の元に戻った。
「ちょっと待って」
少し躊躇いながらも、少女に声をかけた。少女はその声に驚いたように顔を上げた。
「どうしましたの?」
少女は少し不安そうに目を合わせてきたが、主人公は微笑みながら手のひらに持っていた「猫奏輪」を差し出した。
「これ、君にあげるよ」
少女は一瞬その小さな猫奏輪を見つめた後、驚きの表情を浮かべながらもその手を差し出して受け取った。
「これ…本当に、私に?」
少女は声を震わせながら確認するように言った。
「うん、ぬいぐるみの代わりにはならないけど、君が少しでも気持ちが楽になってくれるなら嬉しいなって思って」
再び微笑んだ。
「この猫奏輪も、きっと君に少しの慰めを与えてくれると思う。もし気分が落ち込んだとき、音を聞いて、少しでも元気になれたらいいな」
少女はしばらくそのオルゴールを見つめ、目に涙を浮かべていた。そして、静かに口を開いた。
「ありがとう…こんなにお節介な人、初めてお会いしましたわ」
少女は手を握りしめたまま、しばらく顔を見つめていた。その目は、悲しみだけでなく、感謝の気持ちが溢れていた。
照れくさいように少し笑い、再び歩き出す。
「大丈夫、気にしないで。君が少しでも元気になってくれればそれでいいんだ」
軽く手を振り、にゃんまると共に足を進めた。
少女はその言葉を胸に、手のひらで「猫奏輪」を大切に握りしめながら、去っていくのを静かに見守っていたーー。
少女が家に帰ると、いつもと変わらない静かな空気が流れていた。だが、今日はどこか緊張した雰囲気が漂っていた。家の玄関に入ると、父親が真剣な顔つきで待っていた。
「リリア、どこに行っていたんだ?」
父親は少し険しい顔で言ったが、その目は心配と興味を交えていた。
「ごめんなさい、ちょっと外で散歩してただけよ」
リリアは笑顔で答えるが、どこかその表情に迷いが感じられた。その言葉に少し安心した父親は、少女の手に何かを持っているのに気づき、目を細めた。
「それは…?」
リリアがポケットから「猫奏輪」を取り出し、それを父親に見せると、父親の顔が一瞬で固まった。目が大きく見開かれ、その手元に視線を集中させた。
「まさか…これが本物か?」
父親の声には驚きと興奮が混じっていた。
「これって、何か特別なものですの?」
少女は首をかしげて尋ねるが、父親は一瞬言葉を詰まらせてから答えた。
「商人の間で噂には聞いていたが、こんなものが実際に手に入るとは…。」
父親はしばらく猫奏輪をじっと見つめ、やがて静かに息を吐いた。
「これは猫奏輪と言われるものだ」
「猫奏輪?」
リリアはその名前を初めて聞いたようで、少し困惑した表情を浮かべた。
「そうだ。これは、ただの飾り物じゃない。音を奏でることで、聴く者の心を癒す力を持っているとされている。商人たちの間では、これを手に入れることで大きな運命の変化が訪れると言われているんだ」
「でも、こんなものが本当に…?」
リリアはまだ信じられない様子で猫奏輪を見つめた。父親はうなずきながら、その猫奏輪を丁寧に手に取った。
「それを見て分かる通り、この猫奏輪にはただの音楽以上の何かが宿っている。商人の間では、すでに幾つかの『猫奏輪』が存在すると言われているが、それを見た者は少ない。実際に本物を見るのは、かなりの珍事だ」
リリアはその言葉を聞いて、ふと頭をよぎる疑問があった。
「それじゃ、この猫奏輪をくれた人、何者だったの?」
父親は少し考え込み、静かな声で答えた。
「それが、まだ私にも分からない。だが、この猫奏輪を渡した人物が、どんな人物なのか、私はとても興味がある。お前がその人物に会ったのか?」
「ええ、少し前に会ったわ。街で…」
一瞬、あの時の出来事を思い出し、少し顔を赤らめながら言った。
「その人、とても優しそうで、なんだか不思議な感じがしたわ」
父親はその言葉を聞くと、すぐに真剣な表情になった。
「その人物、どんな特徴があった?」
少女は少し考え込みながら答えた。
「えっと、背は高くて、優しい笑顔が印象的だったわ。でも、どこか…落ち着いていて、強い感じもした」
「それだけじゃ足りない」
父親は少し苛立ちながら言った。
「もっと詳しく教えてくれ。その人物がどんな服を着ていたか、どんな風に話していたか、すべてだ」
少女は父親の言葉に少し驚きつつ、猫奏輪を握りしめた。
「分かったわ。お父様が言う通り、もっと詳しく思い出してみます」
その後、父親はすぐに商会の関係者に連絡を取り、調べる準備を始めた。その一方で、リリアはあの人物が何者なのかを心の中で問い続け、確かな答えを求めることを決意していた。




