人と猫の間の子
応接間の一室。
にゃんまると向かい合うように座っている。
テーブルにはメイドが入れてくれた紅茶が入っている。香り高く心を落ち着かせてくれる。
「主、改めてお久しぶりです。お会いできるこの日をずっと待っておりました。先に紹介しておきましょう。執事のヴァルターとメイドのリセラです」
2人は深々と頭を下げる。
「ご用命があれば何なりとお申し付けください」
「屋敷自体はそれほど大きくないので今は私とヴァルターとリセラの3人です。ヴァルターには仕事を手伝ってもらい、リセラには屋敷の管理を任せています。何かあれば彼らに伝えてください」
できる執事とメイドって感じだ。かなり有能オーラが溢れている。
「さて、主。これから主には強くなっていただかなければなりません。ですが、その前に主は人型の姿になる必要があります。そしてこれはそれを可能にするブレイブハートと呼ばれるアイテムです」
そういうとにゃんまるは自身が付けていたペンダントを渡してくる。それは一見、ただの装飾品にしか見えないものだった。だが、近づいてよく目を凝らすと、その真価が垣間見える。
ペンダント部分には小さな宝石が嵌め込まれている。琥珀のような暖かな色合いだが、よく見ると内部で炎のような光が揺らめいているのがわかる。その光は生きているかのように脈打ち、見る者に不思議な感覚をもたらした。
宝石を包む台座は、鋭い剣の刃を模したデザインだ。その刃は滑らかな曲線を描き、勇者がかつて振るった伝説の剣を思わせる。その表面には古代の文字が刻まれ、今はもう失われた勇者の名とその使命が記されている。
チェーンは銀でできており、一見すると繊細だが、手に取ると驚くほどの強度を感じる。鎖の一つ一つの輪には小さな紋様が彫り込まれており、それは勇者の旅路と戦いの記憶を象徴しているかのようだった。まるで、全ての出来事がそこに封じられているようだ。
その全体の形は、燃え上がる炎が天へと伸びるような躍動感がある。あるいは、大空へ羽ばたこうとする鳥の姿にも見える。その象徴は、勇者が持っていた自由な心と、不屈の意志を宿しているかのようだった。
このネックレスを身につける者は、胸元で脈動する光を感じるたびに、勇者の魂がそばにあることを知る。希望を見失いそうな時、その輝きは静かに持ち主を励まし、道を指し示すのだ。そしてそれは、単なる装飾品ではなく、新たな伝説を生む力を秘めている。
そんなネックレスを受け取ると光に包まれていく。
真っ白な空間、この感覚は2回目だ。あの時はバステトが出てきて転生をさせられたっけ。今回もバステトだろうか。と、考えていると目の前で光が集まりだし人の形をなしていく。その様子を眺めているとだんだん細かな部分まで形作り全体が見えてくる。
それは男性の姿だった。
彼の姿は強さとしなやかさを兼ね備え、まるで鍛え上げられた彫像のようだ。
陽の光を受けると黄金のように輝く髪は、短く整えられているが、ところどころに見える傷跡が彼の戦歴を物語っている。彼の瞳は深い青色で、静かな湖のように穏やかだが、その奥底には烈火のような情熱が宿っている。その眼差しは、相手の内面を見透かすような鋭さを持ちながらも、どこか優しさを感じさせるものだった。
彼の顔には風雨にさらされた痕跡が残り、頬には浅い傷跡が一本走っている。それはかつての激しい戦いの証であり、彼が数多の危険を乗り越えてきたことを示している。しかし、その表情には苦しみの影はなく、むしろ自信と覚悟が漂っていた。
勇者の衣装は実用性を重視したシンプルなものである。丈夫な革の鎧の上に軽やかなマントを羽織り、その色は深い緑。旅の間に擦り切れているが、どこか誇らしげで、それが彼にとって単なる装備以上のものであることを感じさせる。腰には古びた剣を携えており、柄には手で磨かれた跡が残る。剣そのものは質素だが、長年共に歩んできた相棒のような風格があった。
彼の佇まいは、力強いが威圧的ではない。むしろ、誰もが自然と惹きつけられる不思議な魅力がある。どんな過酷な状況でも、彼を見れば希望を見出せるような、そんな雰囲気を纏っている。勇者とはただ剣を振るうだけの存在ではない。彼の姿そのものが、人々に勇気と安らぎを与える象徴だった。
「君がにゃんまるの主君だね。」
声は透き通るような心地よい声だった。
「あなたは......」
「私はリオン・ハート。にゃんまると共に悪竜を封印した1人だ。君には申し訳ないが、しり拭いのようなことをさせてしまう。もっと僕に力があればよかったが......」
リオンは悔しそうな顔で拳を握る。しかし深呼吸して拳を開くと再びこちらを見る。
「悪竜は復活する。これは間違いない。しかし僕はもう死んでいる。だからブレイブハートをにゃんまるに託した。僕の魂の一部をいれ、受け継がれるように」
「にゃんまるは死なないのか?」
「にゃんまるは死なない、死なないが正確には寿命で死ぬ事がない。彼はネコマタと言っていた。たしか、君との約束だとか」
にゃんまるはあの時に言った言葉を理解し覚えていたのか。それだけで涙がでそうになり、幸せなやさいし気持ちになった。ただその代わりに世界を救うという大役を背負うことになったということらしい。
「そうか......にゃんまるが......」
その使命をにゃんまると一緒に背負っていく。そしてそれを乗り越える覚悟ができた気がした。
「このブレイブハートにはいくつかの効果がある。ひとつ、勇者の経験を受け継ぐ。ひとつ、1度だけ死を回避する。ひとつ、状態異常の無効。ひとつ、常時回復。ぶっちゃけチートアイテムだ」
特典盛りだくさんのチート級アイテム。しかしこれくらい無いと勝てない悪竜。いったいどれだけ強いのか。
「そして最後に、君への特典だ、人型への変更。まあ見た目は私に少し似てしまうがそこは容認して欲しい。ちゃんと猫の姿にも戻れるから安心してほしい」
にゃんまるが言っていたのはこれの事だった。
今は猫の姿だが、人の姿になる必要がある。これは何となくだが勇者の経験を受け継ぐのに必要なのではないだろうか。人と猫では体の使い方がまるで違う。故に人である必要がある、と。
リオンはブレイブハートを首にかけてくれた。
すると体がやわらなかな光に包まれていく。
その瞬間、身体に一陣の熱が走った。初めは小さな震えから始まり、次第に全身を貫くような圧力となって広がっていく。猫の小さな身体が歪むように感じられ、骨が軋む音が背筋を冷やした。身体は膨張し、変形する。足元で爪が肉球を離れ、指が伸びて、しっかりと地面に踏みしめる力強い足になった。
背中から力が湧き上がり、猫の尻尾がふさふさと揺れる。感覚として、背後にまだ重みが残っている。
顔が変わり始める。鼻が人間のそれに近づき、口元は少し締まるが、目だけはそのままだ。猫のような大きく、輝く瞳はそのままに、じっと周囲を見据えている。その目は、まだ猫の本能を宿したまま、どこか鋭さを放っている。
そして、耳が生きているように感じる。頭の両側から、尖った猫耳が姿を現し、動きと共にぴくぴくと反応する。人間の形に変わりながらも、その猫耳だけはそのままの形を保ち、周囲の音に敏感に反応している。
すっかり人間の姿になったはずなのに、体の中にはまだ、あの猫の感覚が残っていた。毛がなくなり、皮膚の感触が変わったが、耳と目だけは変わらない。今までと何かが違うと感じていた。
リオンは鏡のようなものを出し全身を見せてくれる。
「これが……新しい姿か。リオンさんがイケメンでよかったよ。」
自分の姿を確かめるように、ゆっくりと手を胸に当てた。鏡のように、内面と外見の変化をじっと見つめる。
リオンは小さく笑う。
「それはありがとう、それとリオンでいいよ。主君、にゃんまるを頼んだよ。僕は常にそばにいる、また会おう」
そういうと、視界が眩しさに包まれ元いたところに戻ってきた。
にゃんまるが胸に飛び込んでくる。
「顔はリオン殿で匂いは主。不思議な感覚だがとても嬉しい」
にゃんまるの目には涙が浮かんでいた。
「リオンは常にそばに居ると言っていた。僕も、リオンもずっとそばにいるよ」
再会を喜ぶふたりをみて、ヴァルターとリセラもじんわりと涙を浮かべるのだった。
まもなく主人公強化の章はいります。
スキル習得ガンガンいこうぜでいこうと思います。
面白いと思ってもらえたらぜひブックマーク登録お願いします!




