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強くなる為に 5

洞窟内に一歩踏み入れると、空気は急にひんやりとし、外の世界との隔絶を感じさせた。薄暗い通路は岩壁に張り付く青白い苔の光でぼんやりと照らされている。エンバーを腕に抱きながら、慎重に足を進めた。


アークは背後に静かについてきており、その足音は不思議と静かだった。


「……シェリルの言ってた仕掛けってやつ、どんなもんだろうな」


小声で呟いた言葉に答える者はいない。だが、腕の中のエンバーが短く「キュッ」と声を上げ、何かを感じ取ったように顔を見上げた。


「エンバー、わかるのか?」


そう聞くと、エンバーは再び短く鳴き、前方を見つめる。その視線の先にあるのは、狭い通路の奥に続く大広間だった。その大広間に足を踏み入れた瞬間、低い轟音が響き渡った。岩壁が震え、地面が微かに揺れる。とっさに短剣を抜き、警戒を強める。


「なんだ……?」


突然、広間の奥から動く音がした。光を反射しながら現れたのは、鋼鉄でできた巨大なゴーレムだった。全身が岩と金属で覆われたそれは、ゆっくりと主人公に向かって動き出した。


「これがシェリルの言ってた仕掛けってやつかよ……!」


短剣を構え、身構える。ゴーレムは目にあたる部分が赤く輝き、地を揺るがすような重い一歩を踏み出してきた。


その瞬間、エンバーが腕から飛び出し、アークのもとへ駆け寄る。小さな身体で何かを訴えるように鳴きながら、岩陰へ隠れるよう促した。


「エンバー……すまないが、やらせてくれ!」


自分に言い聞かせるように叫び、ゴーレムの動きを観察する。


ゴーレムの右腕が振り下ろされる。それは重力をまとった一撃で、地面を砕く音が広間に響いた。主人公はすんでのところで回避するが、岩の破片が周囲に飛び散り、彼を襲う。


「やばい……早い!」


思った以上の速さに驚きつつ


猫足瞬歩!


素早く後方へ移動し、態勢を立て直した。


「弱点はどこだ……?」


心を落ち着け、視覚を研ぎ澄ます。


猫爪星穿!


ゴーレムの胸部に赤い輝きが見えた。


「そこだ!」


地面を蹴り、一気に距離を詰める。ゴーレムの拳が迫るが、それを間一髪でかわしながら胸部に短剣を突き刺す。しかし、刃は硬い装甲に阻まれ、浅くしか刺さらなかった。


「これじゃ足りないのか……!」


ゴーレムが再び反撃の態勢を取る中、主人公は自分の限界を感じつつも、深呼吸をした。


「落ち着け……焦るな。力だけじゃない、頭を使え」


洞窟内を見回し、広間の天井に無数の鍾乳石がぶら下がっているのに気づく。その一部がゴーレムの動きによって崩れかけているようだった。


「これだ……!」


短剣を構えたまま、ゴーレムの攻撃をかわし続けた。その動きで鍾乳石がさらに揺れ、やがて大きなひび割れが生じる。


「あと少し……!」


ゴーレムの動きが大きくなる瞬間を見計らい、その足元に誘導し、自分の全力で短剣を鍾乳石の根元に投げつけた。


刃が見事に命中し、大きな鍾乳石がゴーレムの頭上に落下。鋭い音とともに衝撃が広間を覆い、ゴーレムは動きを止めた。


大きく息を吐き、倒れたゴーレムを見つめる。


「やった……!」


エンバーが彼のもとに駆け寄り、小さく鳴いてその頬に頭を擦り寄せた。アークも静かに近づき、彼を見守るように立っていた。


「これが……第一歩か」


疲れた身体を支えながら、次の試練に向けて歩き出した。ゴーレムの残骸を振り返ることなく、エンバーを腕に抱き、アークと共に広間を後にした。洞窟の奥へと続く通路は再び狭まり、薄暗い中に彼の足音だけが響いている。


「こんな感じでどこまで続くんだろうな……」


独り言を呟きながら歩く、エンバーが腕の中で心地よさそうに小さく喉を鳴らしている。その仕草に少し肩の力を抜きながらも、彼は気を引き締めて歩みを進めた。


洞窟を抜けると、目の前には広大な崖の景色が広がっていた。風が吹き抜け、遠くの地平線まで続く青い空と、深い谷底が広がる。その中央に立つと、シェリルが言っていた「最後の試練」の意味が徐々にわかり始めた。


崖の端には古びた石碑が立っており、そこにはシンプルな文字が刻まれていた。


「ここより先、己を信じる者だけが進め」


「己を信じる……」


呟くと同時に、自身の中で湧き上がる不安や迷いを振り払うように大きく息を吸った。その時、彼の足元にアークが寄ってきて主人公の顔を見上げた。言葉は発しないが、その瞳には「お前ならできる」と言わんばかりの強い意志が宿っている。


「ありがとう、アーク。頼りにしてる」


アークの頭を優しく撫でると、再び視線を前に向けた。その瞬間、足元の地面がわずかに揺れ、崖の先にある岩場から細い足場がせり出してきた。それはまるで試されるような細い道で、谷底へと落ちるリスクが常に付きまとう。


「これが……最後の試練ってわけか」


恐れを飲み込みながら足場へと足を踏み出した。エンバーをしっかりと抱き直し、一歩ずつ慎重に進む。風が強く吹き付け、足場は不安定に揺れる。それでも心を落ち着けて、目の前だけを見据えた。

途中、崖の壁から飛び出した岩が障害物のように道を塞いでいた。軽やかな身のこなしでそれをかわし、時には猫足瞬歩を使って隙間を飛び越えた。


進むにつれて、足場の幅はさらに狭くなり、風の強さも増していく。彼の中で心が揺れそうになる瞬間もあったが、エンバーの体温がそれを支えた。


「ここで止まれない」


ついに足場の終点にたどり着くと、そこには再びシェリルの姿があった。彼女は崖の先で腕を組み、厳しい目つきで見つめている。


「ここまで来たのは見事だな。だが、この先に進むにはお前自身の真の力を証明しなければならない」


シェリルの背後には再び広がる洞窟の入口があった。息を整え、シェリルの言葉の意味を探るように彼女を見つめた。


「この試練を超えれば、お前の中に眠る力を目覚めさせられるだろう。覚悟はあるか?」


短剣を握り直し、はっきりと頷いた。


「もちろんだ。弱さを克服するためにここに来たんだ」


シェリルは少しだけ微笑み、洞窟の中を指差した。


「なら行け。だが忘れるな。この試練で戦うのは、敵ではなくお前自身だ」


その言葉の意味を胸に刻み込み、洞窟の奥へと歩を進めた。今度の試練は、彼の精神力と覚悟が試されるものとなるのだろう。


夜明け前、シェリルの出した次の課題は、暗闇の中で「見えない敵」を討ち取ることだった。


「この洞窟の奥には試練の場がある。そこで君が立ち向かうのは、“音も姿も持たない敵”だ。感覚だけを頼りに切り抜けてみろ」


シェリルの言葉に、少し困惑した。


「音も姿もない……?どうやって戦うんだ、それ」


「お前には“猫耳響覇”があるだろう?それを本当に極めるための訓練だ」


シェリルの鋭い目に押され、頷いた。


洞窟の奥に進むと、ひんやりとした空気とともに視界が完全に奪われた。そこは完全な暗闇で、どこに何があるのか全く分からない。耳を澄ませても、風の音すらしない。


「音も、光もない……まるで無の世界だな。」


恐る恐る歩を進める。手探りで周囲を確認していると、背後から突然強烈な風圧を感じた。


「っ!」


とっさに身を伏せると、何かが頭上を掠めていった。


「見えない敵って、こういうことかよ……!」


背筋に冷たい汗が流れる。敵がどこから攻撃してくるのか全く分からない状況に、全身が緊張で硬直していく。


感覚を研ぎ澄ませる


「冷静になれ……視覚に頼るな。音、匂い、空気の変化……それを掴むんだ」


深く息を吸い、猫耳響覇を発動させた。微かに響く自分の心臓の音と、洞窟内の空気の流れが感覚として広がる。


「どこだ……どこにいる……」


再び風を切る音がした瞬間、即座に右へ跳ぶ。見えない敵の爪が、彼のいた場所を切り裂いたのを感じた。


「そこだ!」


反撃のチャンスを逃さず、短剣を振るう。刃先が何か固いものに当たる感触があり、目の前に一瞬火花が散った。


「当たった……でも倒しきれてない!」


敵はすぐに姿を消したかのように再び音を絶った。


「焦るな……感じろ。スキルはこのためにある。」


再び静寂の中に身を置き、全身を研ぎ澄ます。自分の周囲にあるすべての気配を読み取り始める。


敵が再び動き出す瞬間――空気の微かな乱れと、風の匂いの変化を捉えた。


「そこだ!」


跳び上がりながら短剣を振るうと、確かな手応えがあった。見えない敵が苦しむような音を発し、その場に崩れ落ちる感覚が伝わる。暗闇の中に再び静寂が訪れる。肩で息をしながら、短剣を下ろした。


「倒した……か?」


ふと、洞窟内に淡い光が灯り、試練の場が姿を現した。広がる光の中に、敵の正体は姿を見せない。ただ、倒すべき相手を倒したという確信だけが残っていた。


洞窟の出口には、シェリルが腕を組んで待っていた。


「よくやった。闇の中で感覚を研ぎ澄ますこと、それが君の大きな武器になる」


息を整えながら、ゆっくりと頷いた。


「まだまだ課題はあるが、今日の試練は合格だ」


短剣を収め、静かに洞窟を後にした。背後で、アークとエンバーがじっと見守っていた。

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