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強くなる為に 3

翌朝、重い体を引きずるようにして起き上がった。疲労が全身に残るものの、気持ちは決して折れていなかった。修行のためにここに来た以上、自分を追い込む覚悟はできている。


外に出ると、シェリルが既に待ち構えていた。昨日と同じ鋭い目で見据える。


「準備はできているか?」


「もちろんだ」


気合を入れ直すように答えた。

シェリルは満足げにうなずき、手に持っていた木製の杖を差し出した。


「今日の修行は、お前の基礎体力と反応速度を徹底的に鍛える。そして最後に、お前がどれだけ状況判断ができるかを試す。簡単には終わらないぞ」


その言葉に覚悟を決め、杖を受け取った。


修行の最初は、広大な草原を走ることから始まった。ただ走るだけではなく、シェリルが飛ばしてくる魔法の弾を避けながら進まなければならない。


「足を止めたら、最初からやり直しだ!」


シェリルの声が響き渡る。

息を切らしながらも走り続けた。魔法弾が容赦なく飛んできて、時折かすめる熱が肌に痛みを与える。それでも止まるわけにはいかない。足が重くなり、心臓が苦しいほどに動悸を打っても、前だけを見つめた。


「これだけで根を上げるなよ!」


シェリルが遠くから声を張り上げる。


心の中で自分を鼓舞した。

俺はもっと強くなるんだ。ジルバに負けたままで終わるわけにはいかない。

次に行われたのは、反射神経を鍛える訓練だった。シェリルが木の枝に吊るした複数の袋を主人公の頭上にぶら下げ、その中から時折放たれる砂や水を避けるというものだ。


「ただ避けるだけではダメだ。砂が飛んできた方向を正確に見極め、その袋を叩き落とせ」


汗だくになりながらも、次々と飛び出す砂や水をかわし、杖で袋を叩き落としていく。しかし、予測不可能な動きに翻弄され、何度も砂を浴びたり水を被ったりした。


「お前の反応速度はまだまだだな」


シェリルは冷静に指摘するが、集中力は徐々に研ぎ澄まされていく。次第に袋の動きが見えるようになり、反撃のタイミングをつかめるようになってきた。


最後の訓練は、木々が密集した森林地帯での追跡訓練だった。シェリルが出した魔力の痕跡をたどり、彼女の待つ場所にたどり着くというものだ。


「ここからが本番だ。時間制限は1時間。途中に仕掛けた罠や障害をすべて避けてこい」


一礼し、森の中へと足を踏み入れた。

森は薄暗く、鳥の声や木のざわめきが不気味な雰囲気を醸し出している。足元には意図的に仕掛けられた縄や落とし穴が隠されており、進むたびに緊張感が高まった。


「ここで焦ったら終わりだ」


深呼吸をして、周囲を慎重に観察する。

途中、シェリルが放った幻影の竜が襲いかかってきた。驚きながらも冷静に対処し、杖を使って幻影を打ち払った。


「これは…罠に気を取られていると見逃す仕掛けか」


独り言をつぶやき、再び痕跡を追い始めた。


制限時間ぎりぎりで、ようやくシェリルの待つ場所にたどり着いた、息を切らしながらも達成感に満ちた表情を見せた。


「思った以上にやるじゃないか」


シェリルは満足げに見つめる。


「だが、まだまだだ。今日の修行はここまでだが、明日はさらに厳しくなる。覚悟しておけ」


荒い息を整えながら、心の中で決意を新たにした。

これが俺の弱さを克服する第一歩なんだ。絶対に強くなってみせる!


夜が更け、疲れた体を引きずるようにシェリルの住まいに戻ってきた。心地よい香ばしい匂いが風に乗って漂い、主人公の後ろを歩いていたアークとエンバーがその匂いに誘われて足早になる。


「おい、待てって!」


声をかけるも、エンバーはまるで聞こえなかったかのように尻尾をピンと立て、先に家の中へと入っていった。


「早く手を洗えよ。汚れた手でテーブルに触るな」


シェリルがキッチンから顔を出しながら注意を促す

。手を洗い、テーブルへと向かった。エンバーはすでにアークの大きなしっぽを枕にするようにして座り込んでおり、期待に満ちた目でテーブルの上を見つめている。アークはそんなエンバーを見ても特に気にする様子はなく、ただ静かにその場に佇んでいた。


「今日は少しだけ手間をかけた。感謝して食べるんだな」


シェリルが鍋をテーブルに運んできた。大皿には香草の香りが漂うロースト肉、香ばしく焼かれたパン、具沢山の野菜スープが並べられる。


「これ、全部シェリルが作ったのか?」


驚きの表情を浮かべると、シェリルは片眉を上げて答える。


「誰が作ると思った?ここには私しかいないんだ」


エンバーは早速肉の皿に鼻先を伸ばそうとするが、シェリルが素早く手を伸ばして皿を動かし、エンバーを制した。


「待て。まずは座れ。それから食事の前に落ち着くことを覚えろ」


笑いながらスープを一口飲んだ。野菜の甘みとハーブの香りが体に染み渡り、思わずため息をつく。


「うまいな。こんな豪華な食事が修行の後に出てくるとは思わなかった」


「その分、明日からはさらに厳しくなるから覚悟しておけ」


アークはじっとスープの香りを嗅ぎながら慎重に一口を飲む。エンバーはそれを見て、真似をしようとするが、急いで飲もうとしたせいでスープを少しこぼしてしまった。


「エンバー、もうちょっと落ち着けよ」


苦笑しながらナプキンで拭くと、エンバーはしゅんとした様子で小さく鼻を鳴らした。


「まあいい。食べている時くらいは静かに楽しむんだな」


シェリルがパンを手渡しながらそう言うと、竜たちと黙々と食事を進めた。


暖炉の火が静かに燃える音が心地よく響く中、ふとエンバーとアークを見やった。彼らが目の前で仲良くしている姿に、修行で疲れ切った心が少しだけ癒される気がした。


「こんな時間も悪くないな」


ぽつりと呟くと、シェリルがちらりとこちらを見て小さく微笑んだ。


「その余裕を持てるのは今のうちだ。これからはもっと厳しくなるぞ」


その言葉に主人公は気を引き締めながらも、目の前の温かい食事を一口一口噛み締めるように味わった。この一瞬の安らぎが、明日への力になると信じながら。


夕食を終え、暖かな余韻が残る中で、夜の静寂が訪れた。エンバーは満腹でぐっすりと眠り込み、アークも居心地の良さそうに横たわりながら目を閉じている。シェリルは片付けを終え、どこかに行ったのか姿が見えなかった。


手にした「猫鳴の髭」をそっと撫でるように指で弦を弾いた。柔らかく澄んだ音色が部屋を満たし、火の揺れる暖炉の音に溶け込むように広がっていく。


「こんな夜に、久々だな……」


少し微笑みながら、軽くコードを奏でた。音は穏やかで、聴く者の心をそっと撫でるような優しい調べだった。アークは目を閉じたままその音を感じ取るように耳を動かし、エンバーは小さな寝息を立てながら微かにしっぽを揺らした。


指先が弦の上を滑るたびに、音楽はまるで心の奥底を言葉に変えるように流れ出す。今日の修行で感じた痛みや葛藤、そして夕食の暖かさや仲間たちとの時間が、音となって空間に溶け込んでいく。


「……これが、今の俺だな」


独り言のように呟き、次第にリズムを変えた。少しだけ力強く、希望を宿した音が次々と生まれる。弦を弾くたびに心の中の迷いが薄れ、明日への決意が形を成していくようだった。


その時、物音に気づいて顔を上げると、シェリルが部屋の入り口に立っていた。腕を組みながら、どこか満足そうに見つめている。


「音を紡ぐ技量はなかなかだな。戦いの技術と同じくらい、そっちも磨けばいい」


シェリルが軽く言うと、照れくさそうに笑いながら答えた。


「まあ、気分転換ってやつだよ。これを弾くと心が落ち着くんだ」


シェリルは微かに笑みを浮かべて頷き、部屋を後にした。再び静寂が訪れると、最後の一音を優しく響かせ、猫鳴の髭をそっと膝の上に置いた。


暖炉の火が静かに揺れ、音の余韻が薄れていく中で、目を閉じて深く息をついた。新たな覚悟を胸に、明日への夢を見ながら眠りに落ちていった。

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