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強くなる為に 2

休息を終えた一行は、再び空へと飛び立ち、目的地に向かう。険しい山岳地帯を越えた先にあるのは、シェリルが住むという古びた砦だった。


砦は切り立った岩場に築かれ、濃い霧が周囲を覆い隠している。山頂近くにその全貌が見えたとき、主人公は思わず感嘆の息を漏らした。古代の技術で造られたようなその構造には、どこか威圧感と神秘性が漂っている。


「ここがシェリル殿の拠点です」


にゃんまるがグリフォンを旋回させながら静かに言った。その声には、彼女への敬意が感じられる。


アークが軽く鳴き声を上げて着地の合図を送ると、ゆっくりと降り立った。エンバーは腕の中で静かにしていたが、視線は興味津々で砦を見つめている。


「古びてるけど、ただの砦じゃなさそうだな」


呟くと、にゃんまるが地面に降り立ち、尻尾を軽く振りながら答えた。


「ここは長年外界との接触を断ってきた場所です。シェリル殿は自らの力を鍛えることだけに集中されているのです」


その時、砦の奥から力強い足音が響いた。霧の中から現れたのは、一人のドラゴニュートだった。


シェリルは身長が190cmを超える堂々たる体格を持つ女性で、全身を覆う漆黒の鱗が特徴的だった。鋭い黄金色の瞳はどんな嘘も見透かすような冷たい輝きを放っている。額からは短くて鋭い2本の角が伸び、長い銀髪が肩甲骨まで流れていた。その髪は淡い光沢を持ち、霧の中で月光を反射するように美しく輝いている。


彼女は鎧の代わりに動きやすい革の軽装をまとい、その上に黒いマントを羽織っている。腰には彼女の武器である長い槍が携えられ、その柄には古代文字が刻まれていた。


その存在感は圧倒的で、彼女が発する気迫だけで周囲の空気が緊張感に包まれる。


「久しぶりだな、にゃんまる」


低く落ち着いた声が響く。

にゃんまるが一歩前に出て深く頭を下げた。


「シェリル殿、お久しぶりです。今回は私の主人である主を鍛えていただきたく参りました」


シェリルは黄金色の瞳でじっと見つめ、鋭い視線を送りながら口を開いた。


「この者が、お前の主か」


彼女の鋭い視線を受けながら、少し緊張しつつも真っ直ぐにシェリルを見返した。


「強くなりたいんだ。どうか、あなたの力を貸してください」


シェリルは無言のまま見つめた後、静かに笑みを浮かべた。それは挑発的でありながらも期待を含んだ表情だった。


「覚悟はあるようだな。それを証明してみせろ」


彼女が槍を軽く持ち上げると、周囲の空気が一瞬で変わる。重圧のような気迫が包み込み、エンバーが不安そうにしがみつく。


「修行を受ける前に、私の問いに答えろ」


シェリルは槍を地面に突き立て、睨みつけるように言った。


「なぜ、お前は強くなりたい?」


一瞬考え込みながらも、胸にある想いを真っ直ぐに答えた。


「自分の弱さを知ったからです。俺は大切な人を守れる力がほしい。そして、自分自身がもっと前に進めるようになりたい」


その言葉に、シェリルの目が少しだけ柔らかくなる。だが、すぐに鋭い表情を取り戻した。


「ならば、その言葉に見合うだけの力を見せてみろ。今日から、お前は私の指導を受ける。そして甘さは一切許さない」


にゃんまるが見上げ、小さく頷いた。


「主、これからが本当の試練です。覚悟を決めてください」


深く息を吸い込み、エンバーの頭を軽く撫でながら力強く頷いた。


「わかった。どんなに厳しいことがあっても、乗り越えてみせる」


その言葉には、決意と覚悟が込められていた。シェリルは砦の中庭へと案内した。中庭は広く、訓練用の設備が整っている。地面には無数の傷跡が刻まれ、ここで行われた過酷な修行の歴史を物語っていた。


「ここがお前の鍛錬場だ」


シェリルが静かに言うと、彼女は手にしていた槍を地面に突き立てた。その音が静寂を破り、砦全体に響き渡る。


「まずは基本を叩き込む。その甘えた体と心を叩き直すところからだ」


シェリルは厳しい目で見つめた後、にゃんまるに視線を向けた。


「にゃんまる、お前は帰れ。甘さを捨てねば成長できん」


にゃんまるは短い尻尾を一振りする。少しの間シェリルとにゃんまるが見つめ合うと、目を閉じ諦めたように小さくため息を着く。


「仕方ありません、ここはシェリル殿に任せましょう。主をよろしくお願いします」


にゃんまるは視線をこちらに向ける。


「主、信じて待ちます。心を強く持ち乗り越えてください。主なら必ずやり遂げられます」


にゃんまるがいなくなるのは正直凄く不安だ。でもこれはにゃんまるに甘えている証拠だろう。覚悟を決めてここへ来た以上やるしかない。


「限界をこえてみせる、まっててくれ」


にゃんまるは頷くとグリフォンに乗り空へ飛び立った。エンバーは中庭をキョロキョロと見回しながら、足元で大人しく座っている。しかし、シェリルの強烈な気迫を感じ取ったのか、尻尾を少し縮めていた。


「まず最初の課題だ」


シェリルは手を軽く上げると、どこからともなく石でできた巨大な柱がいくつも浮かび上がった。それらは魔力によって支えられているのか、空中でゆっくりと回転している。


「お前にはこの柱を越え、向こう岸にたどり着いてもらう」


柱を見上げた。その高さは軽く10メートルを超え、安定感のない足場がいかにも危険そうだった。


「たったそれだけか?」


少し強がった口調で言ったが、シェリルは冷笑を浮かべる。


「たったそれだけだと? その柱はただの石ではない。それぞれに魔力が込められており、お前が飛び移ろうとすればその魔力が動きを封じようとするだろう。」


シェリルは槍を指し示しながら続けた。


「さらに、柱の上空には一定間隔で魔力の矢が飛んでくる。避けられなければ、容赦なく地面に叩き落とされるぞ」


柱と上空を見比べ、険しい表情を浮かべた。簡単そうに見えた試練が、一気に厳しさを増したように感じられる。


「準備ができたら始めろ」


シェリルは腕を組み、その場でじっと待機した。足元のエンバーに話しかける。


「エンバー、アークと一緒に待っていてくれるか」


エンバーは小さく鳴くととことこと壁際で佇むアークの隣に座る。


勢いよく地面を蹴り、最初の柱に飛び乗った。柱がぐらつき、足元が不安定になる。次の柱を目指して跳ぼうとした瞬間、足元の柱から魔力が発せられ、彼の動きを阻害するような圧力が襲いかかった。


「くっ!」


足に力を込め、何とか次の柱へと飛び移った。しかし、上空から魔力の矢が容赦なく降り注ぐ。

猫影潜行を使い、影に身を潜めるようにして矢を避けた。しかしその分、柱から落下しそうになる。


「まだまだだな、スキルに頼るな」


シェリルの冷たい声が響く。

なんとか体勢を立て直し、再び次の柱へ向かって跳んだ。柱を掴むたびに腕に魔力の圧力がかかり、筋肉が悲鳴を上げる。


「こんなことで諦めるわけにはいかない!」


歯を食いしばり、全力で柱を登り続ける。その姿を、シェリルは厳しい目でじっと見つめていた。

一方でエンバーは応援するように尻尾を振りながら「キュウ!」と声を上げている。アークは尻尾を揺らしながら静かに眺めている。


「まだ始まったばかりだ。こんな程度で倒れていたら、この先の試練は越えられないぞ」


シェリルの言葉に、さらに気を引き締め、次々と柱を乗り越えていった。


試練を一通り終えた後、ゼーゼーと息を切らしながら地面に膝をついた。汗が滴り落ち、体中が悲鳴を上げている。


「悪くない動きだった」


シェリルはそう言いながらも冷たい目線を崩さない。


「だが、まだまだ甘い。本当に強くなりたいなら、もっと自分を追い込め」


水を飲みながら大きく息をつき、決意を新たにする。


「もっと強くなれるなら、どんな試練だってやってやるさ」


次の試練がどんなものになるか、修行はこれからさらに過酷さを増していくことになるのだった。

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