強くなる為に 1
夜の静けさが漂う自宅。月明かりが部屋を柔らかく照らす中、ベッドの縁に腰掛け、手元で握った竜魂の腕輪をじっと見つめていた。その表情には決意と焦りが混じり、言葉にならない感情が渦巻いている。
その部屋の隅では、にゃんまるが瞑想の姿勢で静かに目を閉じていた。小さな体をきっちりと二足で支え、どこか荘厳さすら漂わせる。彼の瞑想が始まってからすでに数十分が経っていたが、その沈黙を破ることができずにいた。
しかし、抑えきれない感情が胸の奥から込み上げ、ついに口を開く。
「……にゃんまる、きいてくれるか」
にゃんまるは瞑想を解き、ゆっくりと瞳を開けた。その金色の瞳が見据える。
「主、どうされましたか?」
声は静かで落ち着いており、相手の言葉を待つ余裕すら感じられた。少し言葉を詰まらせたが、深く息を吸い、言葉を紡いだ。
「ジルバとの戦いから、自分の弱さがはっきり分かったんだ。もっと強くなりたいんだよ。竜たちの想いも、仲間の期待も全部背負えるように」
にゃんまるはその言葉を聞き、少し首を傾げる。そして、まるで覚悟を測るかのように鋭い目を向けた。
「本気ですね?」
「当たり前だろう。これ以上、自分に負けたくないんだ」
目には迷いがなかった。それを見て、にゃんまるは小さく息を吐き、肩をすくめた。
「分かりました。では、主に一人の人物を紹介しましょう。彼女の名はシェリル。ドラゴニュートの戦士です」
「ドラゴニュートの……?」
「シェリルは非常に厳しい修行を施すことで知られています。肉体も精神も鍛え上げる彼女の訓練は、生半可な覚悟では乗り越えられません」
その説明に少し身を引き締めた。
「それだけ厳しい修行なら、なおさらやってみたい。そこに連れて行ってくれ」
にゃんまるは目をじっと見つめた後、静かに立ち上がる。
「ですが、シェリルの元へ行くまでの道のりもまた一つの試練です。主の覚悟、本当に揺るぎないものですか?」
「もちろんだ。どんな困難が待っていようと構わない。変わりたいんだ。」
声には強い意志が宿っていた。それを聞き、にゃんまるは静かに頷いた。
「分かりました。では、準備を整えましょう。明日の朝には出発します」
どこからともなくまるで幽霊のようにいきなり現れた執事のヴァルターとメイドのリセラは一礼をしながら答える。
「「承知しました」」
にゃんまるは再び瞑想の姿勢に戻り、穏やかに目を閉じる。その背中には、小柄ながらも確かな信頼を寄せられる威厳が漂っていた。月明かりが部屋を照らし、決意を静かに見守っていた。
朝の陽光が差し込み、エルムレイン帝国の空が青く澄んでいる。自宅付近のひらけたところに集まり旅の準備を整えていた。アークは堂々とした佇まいで待機し、その鋭い瞳がこれから向かう道を見据えている。一方で、にゃんまるの相棒であるグリフォンは翼を広げ、風を切る音を響かせていた。
今回は歩きでは時間がかかり過ぎるらしく、訓練も兼ねてアークに騎竜して行くことになった。
「よし、準備は万端だな」
アークの背に手を置き、深呼吸をする。背に広がる鱗の感触と、アークの鼓動が伝わり、絆を感じさせる。
にゃんまるはその横で軽やかにグリフォンの背に飛び乗り、振り返る。
「それでは、行きましょうか。主、アークとの連携もしっかり試す機会ですよ」
「分かってる。アーク、よろしくな。」
アークの背に乗ると、アークは低く鳴き声をあげ、しっかりと主人公を支えた。その瞬間、エンバーが小さな体で駆け寄ってくる。
「キュウウ!」
小さな火竜であるエンバーが、アークの尾に飛びつき、そのまましがみついた。
「エンバー?!」
声を上げるが、エンバーは離れる気配がない。むしろしがみつく力を強め、「自分も行く!」とでも言いたげな視線を向けてくる。
「エンバー、これは修行の旅です。遊びではありません」
にゃんまるが注意するが、エンバーはしっぽを揺らし、諦める様子は微塵もなかった。
困ったように頭をかきながらため息をつく。
「仕方ないな……にゃんまる、エンバーも連れていくよ」
「わかりました」
にゃんまるは呆れたように肩をすくめるが、どこか微笑ましげな様子も見せた。
アークから一度降り、エンバーを抱き上げる。小さな体が温かく、炎のようにぬくもりが伝わる。
「ほら、大人しくしてろよ」
エンバーは満足そうに体を預けた。アークは少し振り返り、小さく鼻を鳴らす。まるで「仕方ないな」と言っているようだった。
再びアークの背に乗り、エンバーをしっかり抱え込む。そして、にゃんまるがグリフォンの背から声をかける。
「では、行きましょうか。シェリルの元へ、いざ!」
アークが大きく翼を広げ、空へと飛び立つ。その後を追うように、グリフォンが舞い上がった。エンバーは腕の中でじっと空を見上げ、どこか楽しげに尾を振っている。
空中では涼しい風が吹き抜け、翼の動きが空気を切る音が響いていた。こうして、彼らの新たな修行の旅が始まったのだった。
青空を舞台に、アークとグリフォンが悠然と飛行を続けている。アークの背中にしっかりと身を預けながら、広がる景色に目を向けていた。
「やっぱり、空を飛ぶのは気持ちいいな」
呟きに、アークが軽く翼を揺らし、賛同するように低く鳴く。その反応がなんとも頼もしく、自然と笑みを浮かべた。
一方、グリフォンに乗るにゃんまるは、空中で軽快に旋回しながら声をかける。
「主、どうです? アークとの飛行は以前よりも安定していますね」
「ああ、アークの意思がはっきり感じられる。次にどの方向に進むのか、何をしたいのかが自然とわかるんだ。」
エンバーは腕の中で落ち着いていたが、時折小さな鳴き声をあげ、翼を広げる仕草を見せる。まるで自分も飛びたいというような意思を感じさせた。
「おいエンバー、暴れるなよ。落ちたら大変だからな」
エンバーの体をしっかりと抱き直すと、エンバーは少し不満そうに鳴いたものの、おとなしくなった。
その時、にゃんまるがふと何かを思い出したように声をかける。
「主、今回の旅ではアークとの連携だけでなく、エンバーの成長も重要になるかもしれませんね」
「エンバーの成長?」
主人公が問い返すと、にゃんまるは少し思案するように目を細めた。
「ええ。エンバーはまだ幼いですが、潜在能力は非常に高い。今後、主の旅において頼もしい存在になるでしょう。ただ、まだ甘えん坊なので、アークと接することで成長を促すことができるかもしれません」
その言葉に、改めてエンバーを見下ろす。彼の瞳は純粋で、幼さが残るものの、どこか秘めた力を感じさせた。
「確かにな。エンバーも少しずつ強くなってくれるといいけど……俺に何ができるんだろうな。」
「まずは一緒に過ごすことです。エンバーは主の意思を強く感じているはずですから」
にゃんまるが微笑みながら答えたその時、グリフォンが軽く翼を揺らして合図を送る。
「そろそろ休憩にしましょうか。前方に適した地形が見えます」
頷くと、アークも軽く鳴いて応じ、飛行の速度を落とした。
一行は大きな岩場が点在する開けた場所に着地した。柔らかい草地と遠くに広がる山々が、静かな安らぎを提供していた。
地面に降り立ち、エンバーをそっと下ろすと、エンバーは小さな足で地面をぴょんぴょん跳ね、興味津々にあたりを探索し始めた。
アークは岩場に移動し、大きな翼を広げて休息をとる。一方で、グリフォンは風を感じるように高台に上り、周囲を警戒している。
草地に座り込みながら、にゃんまるに目を向けた。
「にゃんまる、これからどんな修行が待ってるんだろうな」
にゃんまるは隣に腰を下ろし、目を細めながら答える。
「シェリル殿は非常に厳しい方ですが、主にとって必要なことを教えてくださるはずです。ただ、覚悟は必要ですよ。」
その言葉を聞いて深く頷いた。視線の先では、エンバーがアークの尾にじゃれつき始めていた。それを無視するように、アークは目を閉じて休息を続けている。
「まるで兄弟みたいだな」
にゃんまるは小さく笑った。
「ええ、それだけアークが寛大だということですね」
風が草を揺らし、心地よい音が広がる中で、主人公はこれから始まる新たな試練に思いを巡らせる。そして、アークとエンバーの姿を見ながら、心の中にある決意を再び固めていた。
「俺も負けてられないな」
そう呟く横で、にゃんまるは微笑み、空を見上げた。その瞳には、成長を期待する静かな光が宿っていた。




