リベンジ
エルムレイン帝国に戻り、数日が経ったある日。警備隊長エルシアから呼び出しを受けた。理由は詳しく伝えられなかったが、にゃんまるが
「エルシア殿ならまた妙なことを思いついたのでしょう」
と苦笑いしながら案内を引き受けた。
警備隊本部の執務室に入ると、エルシアが既に待っていた。精悍な表情で迎える彼女の隣には、見覚えのある大柄なライオン族の戦士が立っていた。
「来たか。待っていたぞ」
エルシアが腕を組んで微笑む。
「……ジルバさん?」
目を丸くした。
「小さき猫がずいぶん立派になったな」
ジルバは見下ろし、豪快に笑った。その背中には巨大な大剣が担がれており、相変わらず圧倒的な存在感を放っている。
「わかるんですか?」
ジルバは当然と言わんばかりの態度で答える。
「うむ、わかるぞ」
なんでわかるのかは分からないけどそれもジルバの強さのひとつなのだろう。考えたら負けだ。
「これはどういうことですか?」
問いかけると、エルシアが肩をすくめた。
「ジルバがここに来たのは、お前たちと再会するためだ。そして、ついでに言えば、私はお前たちの戦いが見たい」
「戦い?」
にゃんまるが小さくため息をつきながら言う。
「エルシア殿は相変わらず戦いの事になると本気ですね」
エルシアは悪びれることなく頷いた。
「そうだとも。主殿、お前はジルバにとってただの猫だった頃から特別な存在だったそうだ。そして今や、立派に人として生き、竜さえ導く者となった。その姿を、ジルバが確認したいと思うのは当然だ」
どうしてDLCを取ったことまで知ってるの、怖い。
ジルバが頷き、口を開く。
「あの時、俺が出会った猫がこんなに成長するとは思ってもいなかった。だから確かめたいんだ、小さき者だったお前がどれほどの力を得たのかを」
一瞬戸惑ったが、やがて静かに頷いた。
「分かりました。ジルバさんが本気でそう望むなら、応えます」
広大な訓練場でジルバは向かい合っていた。風が草原を撫で、遠くの森がざわめく音が聞こえる。周囲にはエルシアやにゃんまるを含む警備隊の観客たちが集まり、緊張感の中に興奮の色が混じっている。
「遠慮は無用だ。お前の全力を見せてくれ」
ジルバは大剣をゆっくりと構え、鋭い眼光を向けた。その体躯は威圧感に満ち、手にした大剣は圧倒的な破壊力を予感させた。
静かにフェリスタルを握りしめる。
「遠慮しません。それがジルバさんへの礼儀ですから」
にゃんまるが小さく呟く。
「主、油断せずいきましょう。ジルバはその見た目以上に速い」
「分かっている」
そう、初めてあった時はボコボコにされた。あの時のリベンジ。全力でいかないとまたボコボコにされる未来がまっている。
「始め!」
エルシアの声とともに戦いが幕を開けた。
ジルバが先に動いた。大剣を片手で振り抜くと、風圧だけで地面が抉れる。
「はあああっ!」
その一撃が迫る。しかし、
猫足瞬歩!
まるで風のようにその攻撃をかわす。
「ほう、いい動きだ」
ジルバはにやりと笑いながら次の一撃を繰り出す。今度は縦の斬撃だ。地面が轟音を立てて割れ、砂煙が舞い上がる。
「この力……わかってたけどすごい」
感心しつつ、ジルバの攻撃を冷静に観察していた。
「こちらも行きます!」
猫爪最夜!
闇の力をまとったフェリスタルが黒い軌跡を描き、ジルバに迫る。しかし、ジルバは即座に反応し、大剣でその一撃を受け止めた。
「悪くない」
ジルバが力強く押し返すと、数歩後退を余儀なくされた。
「なら、これはどうですか!」
影を利用して後方に回り込む。
猫影潜行!
ジルバの背後から攻撃を仕掛けた。しかし、ジルバは振り返りざまに大剣を振り下ろし、攻撃を寸前で防ぐ。
「そう簡単にはいかんぞ!」
ジルバはそのまま大剣を横薙ぎに振り、吹き飛ばそうとする。間一髪で影に戻り、ダメージを回避した。
「わかっていたけど速さだけでは通用しないか……」
猫爪星穿!
ジルバの防御の隙間が光のラインとなって見える。
そのラインを狙い、正確に攻撃を仕掛けた。ジルバは驚きの表情を浮かべたが、ギリギリで防御を間に合わせる。
「なるほど。視点が鋭いな」
ジルバはさらに力を込めて攻撃を繰り出すが、次第にその動きを見切り始めていた。
猫足瞬歩!
懐に飛び込み、ジルバの胸元へ鋭い一撃を加える。
「うおっ!」
ジルバは数歩後退し、息を整える。
「やるな。だが、まだ俺は本気を出していないぞ」
ジルバが大剣を大きく振りかざし、そのまま地面を砕くような力で振り下ろす。衝撃波が広がり、瞬歩でかわしながらも防御体制を取る必要があった。
「これがジルバさんの本気の振り下ろし……!」
身を引き締める。
ジルバはさらに追撃を仕掛けてきた。大剣を振り回し、広範囲を攻撃する彼の剣技は、単なる力任せではなく計算された動きだった。
「この攻撃をかわし続けるか、反撃するかだ」
考えを巡らせながら、ジルバの攻撃に対処した。
猫飛爪撃!
幻影の猫が空中を跳び、ジルバの大剣を狙う。
「これで決める!」
「なにっ!」
ジルバは反応するが、攻撃が大剣を弾き飛ばす形となり、ジルバは武器を手放すことになった。
「勝負あったな」
エルシアが試合の終了を告げる。
ジルバは膝をつき、息を整えながら笑った。
「見事だ。お前の成長、確かに見届けた」
ジルバに手を差し伸べた。
「ありがとうございました。次はスキルを使わせてみせます」
そう、勝負には勝ったがジルバは一度もスキルを使っていない。つまり真の本気を最後まで引き出せなかった。正直悔しい。
ジルバはその手を取りながら立ち上がり、豪快に笑う。
「礼を言うのはこちらだ。俺も久しぶりに心から楽しめた」
にゃんまるが歩み寄る。
「良い戦いでした、主」
エルシアが満足げに頷きながら言った。
「素晴らしい戦いだった。これほどの試合を見られるとは思っていなかった!」
ジルバの試し合いは、互いの絆をさらに深めるものとなった。試合の後、訓練場の片隅に腰を下ろし、フェリスタルを握りしめながらじっと見つめていた。その刃には、先ほどの戦いの跡が微かに残っている。遠くではジルバがエルシアと談笑している声が響いていたが、耳には届いていなかった。
その横に、にゃんまるが軽やかに歩み寄り、隣に座る。
「主、どうされました? いつもの勝った後の顔ではありませんね。」
苦笑しながら顔を上げた。
「勝ったって言えるんですかね……。ジルバさん、全然本気を出してなかった」
にゃんまるはしっぽを軽く揺らしながら首を傾げる。
「確かに、ジルバはスキルを一度も使いませんでした。しかし、それも彼なりの意図があったのではないでしょうか」
悔しそうに拳を握りしめた。
「まだまだ届かない。攻めるどころか、防御するのが精一杯だった。それじゃ、ジルバさんの本気を引き出せるはずがない」
にゃんまるは少し目を細めて静かに答えた。
「ジルバはおそらく、主の実力を見極めておられたのでしょう。スキルや技を使わなかったのは、それが必要ないと判断されたからかもしれません。」
その言葉に、思わず顔を伏せた。
「まだまだ足りないものが多すぎるな......」
にゃんまるは肩を軽く叩く。
「その悔しさを胸に刻むのも、成長への第一歩です。ジルバのような相手には、防御に徹するだけでは本気を引き出すことは難しいでしょう。もっと積極的に攻め、彼が力を出さざるを得ない状況を作るべきでした」
静かに頷き、再びフェリスタルを握りしめた。
「……次があるなら、ジルバさんの本気を引き出してみせる。もっと強く、もっと巧みに」
にゃんまるは柔らかく笑みを浮かべる。
「その心構えがあれば、きっと次は違った結果を生むことでしょう。主の武器であるフェリスタルも、より輝きを増すはずです」
立ち上がり、空を見上げる。
「成長した姿を、ジルバさんにまた見せる。それまでにもっと鍛えなきゃ」
にゃんまるは満足げにしっぽを揺らしながら言葉を返す。
「それでこそ、主です。次の戦い、私も楽しみにしておりますよ」
こうして自らの未熟さを受け入れ、さらなる鍛錬と挑戦への決意を新たにしたのだった。
純粋に悔しい!!




