グランメディアにかえります
遺跡を後にし、三人は静まり返った森を抜けてグランメディアへの道を進んでいた。森の中で得た結晶の欠片や試練の記憶が、それぞれの心に深く刻まれている。
腰に下げたフェリスタルを指で撫でながら口を開いた。
「結晶の力、どう使えばいいかわかる?」
にゃんまるがポーチに収めた結晶の欠片を取り出し、静かに答えた。
「確かなことはまだ分かりませんが、これには竜の守護の力が宿っているようです。町の学者や魔道士たちに見せれば、さらなる手がかりが得られるかもしれません」
やたら竜にまつわる何かが手に入ったりするのはそういう運命なのだろうか。
カイルは背中の剣を確認しながら、少し気まずそうに口を開いた。
「僕、役に立てたのかな。正直、遺跡で足引っ張ってた気がする……」
カイルを横目で見て苦笑した。
「初めての戦闘であれだけ動ければ上出来だよ」
にゃんまるが小さく頷きながらカイルを見上げた。
「あなたがいなければ、きっと遺跡での戦いはもっと厳しいものになっていたでしょう。共闘できたことに感謝しています」
カイルはその言葉に少し照れた様子で笑う。
「ありがとう」
と短く応えた。
夕日が地平線に沈む頃、三人はグランメディアの城門にたどり着いた。門番が彼らを見るなり軽く手を挙げて挨拶する。
「戻ったか。森の異変は解決したのか?」
頷きながら答える。
「遺跡にあった結晶が原因だった。今は落ち着いているはずだ」
「それならよかった。町長も心配していたぞ。報告に行くといい」
門番はそう言って、彼らを城内へと通した。
町の中心部にある学者の研究所に足を運んだ三人。にゃんまるが懐から結晶の欠片を取り出し、学者に手渡すと、その目が輝いた。
「これは……! 竜結晶の一種ですね。こんなに純度の高いものは滅多に見られません」
学者が興奮気味に語る。
「どこで手に入れたのですか?」
簡潔に答える。
「森の遺跡だ。異変の中心にこれがあった」
学者は結晶を慎重に台座に置き、拡大鏡を使って細部を観察し始めた。
「なるほど、これは竜の魔力が結晶化したもの。調べれば、何か使える技術や秘密が見つかるかもしれません。少し時間をいただけますか?」
にゃんまるが頷き
「お願いします」
と礼を述べた。
研究所を後にした三人は町の宿屋に足を運び、一室を借りた。部屋に入ると、それぞれが疲れた体を椅子やベッドに預けた。
天井を見上げながら深いため息をついた。
「一息つけるな……あの結晶、何に使えるんだろうな」
にゃんまるが窓辺に座り、外の街灯の明かりを眺めながら静かに答えた。
「竜の力は計り知れません。正しい方法で活用できれば、大きな助けになるでしょう」
カイルは隅で荷物を整理しながら、ふと思い出したように口を開いた。
「初めてこんな経験をしてるけど……なんか悪くないな。二人と一緒にいると、ちょっとだけ強くなれた気がする」
横目でカイルを見て笑う。
「それならよかった。だが、これからもっと大変なこともあるかもしれないぞ」
にゃんまるが柔らかく微笑んだ。
「カイルさんがそう思えるのなら、この経験はきっと意味のあるものになるはずです」
三人はそれぞれ思い思いに過ごしながら、静かな夜を迎えた。結晶の秘密が解き明かされるのを待ちながら過ごす。
朝日が差し込む中、三人は学者の研究所へと足を運んだ。学者は目を輝かせながら迎え入れ、机の上に置かれた結晶を指差して口を開いた。
「お待ちしておりました。この結晶について、いくつか面白い発見がありました」
「どういうこと?」
学者は手元のノートを開きながら続けた。
「この結晶、ただの竜結晶ではなく“嵐竜結晶”です。嵐の力が濃縮されていて、特に風と雷の属性を持つ武器を大幅に強化できる特性があります」
にゃんまるが学者に視線を向けた。
「では、これをどうすれば使えるのですか?」
「加工が必要です。この結晶を武器に直接埋め込むことで効果を発揮します。ただ、精密な作業が必要なので、信頼できる技師に頼むべきでしょう。グランメディアには名工エオリアがいます。彼女なら、この結晶を剣に適切に装備することができるはずです」
カイルが驚いた表情で結晶を見つめた。
「剣に装備って……それ、本当に可能なんですか?」
学者は微笑んで頷いた。
「もちろん。剣の持ち主が君ならば、この嵐竜結晶の力を引き出せるかもしれません」
三人は学者の紹介状を手に鍛冶場を訪れた。重厚な扉を開けると、中では女性鍛冶職人が鋼を打つ音が響いている。
「エオリアさんですか?」
声をかけると、女性が顔を上げた。銀髪の鋭い目がこちらを見据える。
「そうだ。何の用だ?」
にゃんまるが一歩前に出て紹介状を差し出す。「この結晶を剣に加工していただきたいのですが。」
エオリアは紹介状を受け取り、結晶を手に取ってじっくりと観察する。
「嵐竜結晶か……珍しいものを持ってきたな。この結晶を剣に装備するには特別な炉と術式が必要だが、ちょうどそれに適した設備が揃っている。時間をくれれば仕上げてやる」
カイルが思わず声を上げた。
「僕の剣に嵐竜の力を込められるなんて……すごいな」
エオリアはくすりと笑いながらカイルを見た。
「その剣、よく使い込まれているな。だが、その魂を結晶が受け入れるかどうかは、お前次第だ」
エオリアが結晶の加工に取り掛かる間、三人は鍛冶場の片隅で待機していた。静かに見守る中、カイルは手のひらを見つめていた。
「本当に僕なんかに扱えるのかな……」
軽く肩を叩いて励ます。
「自信を持て。剣は持ち主に応えるものだ。カイルの努力は剣にも伝わっているはずだ」
カイルは言葉に少しだけ頷き、深呼吸をして気を落ち着けた。
数時間後、エオリアが仕上げた剣を持って現れた。それは嵐竜結晶が柄に埋め込まれ、輝きを放つ見事な一振りだった。
「完成だ。この剣には嵐竜の魔力が込められている。風のような速度と雷のような力を発揮するだろう。ただし、その力を引き出すには剣とお前自身の信頼関係が不可欠だ」
カイルの新たな剣は、長さ約1メートルの片手剣。刃は青銀色に輝き、風を思わせる曲線的な文様が彫り込まれている。その文様には嵐竜結晶の力が宿り、時折青白い光が流れるように脈動している。
柄の部分は黒い革で包まれており、握りやすさと滑り止めの効果を兼ね備えている。鍔は竜の翼を模した形状で、中心には嵐竜結晶が埋め込まれている。この結晶は小さな稲妻が絶えず内部で弾けるように輝き、持ち主に強烈な存在感を与える。
剣全体は軽やかだが頑丈で、風の流れを切り裂くような鋭いデザインが特徴だ。振るうたびに剣から微かな風切り音が聞こえ、風の精霊が応えているかのような神秘的な雰囲気を醸し出している。
「名はテンペストグレイブだ」
この名前は、嵐「テンペスト」のように荒々しくも美しい力を持つ剣であることから名付けられた。「グレイブ」は墓標を意味すると同時に、刃が持つ力で敵に最後の一撃を与えるという象徴的な意味を込めている。また、「テンペストグレイブ」には、剣を手にした者が荒波のような運命を切り開く存在になるという願いも込められている。
カイルは恐る恐る剣を受け取り、その重みを確かめた。
「すごい……こんな力が宿るなんて……」
エオリアが軽く微笑む。
「その剣の力、どこまで引き出せるかはお前次第だ。後悔のないようにな」
鍛冶場を出た後、カイルは新しい剣を握りしめ、強く誓ったようにこちらに向き直った。
「ありがとう。僕、もっと強くなる。必ずこの剣を使いこなしてみせるよ」
にゃんまるが軽く尻尾を揺らして笑う。
「ふむ、それなら頼りにしていますよ、カイル君」
頷きながら背を押す。
「そうだな。戦いでその力を見せてくれ」
カイルが嵐竜結晶を宿した剣を受け取った時、その瞳には確かな決意の色が浮かんでいた。剣は美しく輝き、持ち手に埋め込まれた結晶が静かに力を放っている。
「ありがとう、エオリアさん。この剣……僕、大切にします!」
カイルは深く頭を下げた。エオリアはその姿を見て軽く笑う。
「その剣はお前に託した。どれだけの力を引き出せるかは、お前の努力次第だ。剣を持つ覚悟を忘れるなよ」
彼の新たな武器を見て頷いた。にゃんまるが口を開く。
「良い剣ですね。それでカイル君も一人前の冒険者になれそうですね」
カイルはその言葉に少し考え込んだ後、拳を握りしめた。
「……実は俺、決めたことがあるんだ」
三人が鍛冶場を出て、街の一角で一息ついていると、カイルが重々しい声で切り出した。
「僕、この剣を手にしたことでわかったんだ。僕にはまだ、この剣に見合う力がない。でも、この力を無駄にしたくない。もっと強くなりたいんだ」
カイルを見つめる。
「それで、どうするつもりなんだ?」
カイルは小さく息を吐いてから答えた。
「冒険者になって修行の旅に出る。1人で、いろんな場所を回って、この剣の力を引き出せるようになりたい」
にゃんまるが少し尻尾を揺らしながら静かに尋ねた。
「1人で行くのですか?危険な道のりになりますよ」
「わかってる。でも、誰かに頼りっぱなしじゃダメなんだって気づいた。ふたりに助けてもらったからこそ、自分の力でやらなきゃって思ったんだ」
その言葉に一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに笑みを浮かべた。
「立派な決意だな。そういう気持ちなら、どこに行ってもやっていけるだろう」
翌朝、カイルは背中に剣を背負い、準備を整えた姿で二人の前に現れた。
「本当に行くのか?」
確認するように問いかける。
カイルは頷きながら言った。
「うん、これが僕の選んだ道だ。ふたりと一緒にいられたのは楽しかったけど、今は自分の力を試す時だと思う」
にゃんまるが少し感慨深げに言葉を続けた。
「では、私たちも応援します。ですが、無理は禁物です。何かあればまた会いましょう」
「ありがとう。僕、絶対強くなってまた会いに来るよ」
カイルの軽く肩を叩きながら笑った。
「その時は、驚くような姿を見せてくれよな」
カイルは深く頭を下げると、冒険者ギルドに向かって歩き出した。その背中は小さく見えたが、確かな決意に満ちていた。
二人は街の入り口で彼を見送った後、静かに立ち尽くしていた。
「カイル、うまくやれるかな?」
にゃんまるが空を見上げながら答えた。
「彼なら大丈夫でしょう。この経験が彼をさらに成長させるはずです」
その言葉に頷く。
「ああ、次に会う時が楽しみだ。」
カイルの旅立ちを見送り、二人は再び自身の冒険の続きを歩み出すのだった。




