人が消えるそうです
巨大な城壁に囲まれた都市グランメディア。その威容に圧倒されながらも、主人公はカイルと共に城門をくぐった。
「これがグランメディア……本当に大きいな。」
周囲を見渡しながら呟く。
「でしょ? 僕が初めて来たときも度肝を抜かれたよ!」
カイルは得意げに答えた。
「案内なら僕に任せて。どこが面白いか全部教えてあげる!」
にゃんまるは一歩引いた位置から街を見渡しつつ、冷静に語る。
「確かに見事な都市ですね。主、この街は商業と文化の中心地として栄えています。どこを見ても興味深い場所ばかりでしょう」
石畳の通りには多くの露店や商人が軒を連ね、雑多な喧騒の中にも独特の活気が漂っている。主人公たちはカイルに促されるまま大通りを進みながら、街の様子を目に焼き付けていった。
通りの左右には色鮮やかな布やアクセサリーを並べた店が立ち並び、香ばしい匂いが漂う屋台では地元の料理が売られている。
「これ、すごく美味そうじゃないか?」
ふと足を止め、焼きたての串焼きを指差した。
「そいつは名物だよ! 食べてみなよ!」
カイルが笑いながら言う。
少し迷った後、屋台の主から串焼きを買って一口かじった。スパイスが効いた肉の旨味が口いっぱいに広がり、思わず目を細める。
「……うまい」
「言っただろ?」
カイルは嬉しそうに肩をすくめた。
にゃんまるはその様子を見て、小さく微笑むと自分も一口だけ試しに食べる。しかしその瞬間、彼の尻尾がふわりと膨らんだ。
「これは……意外にスパイシーですね」
通りを抜けると、広場が現れた。中央には大きな噴水があり、その周囲には物語を語る吟遊詩人や踊る芸人たちが観客を楽しませている。足を止めてその光景を眺めた。
「見て! あの踊り子、すごい!」
カイルが指差した先では、軽やかに舞う女性が拍手喝采を浴びていた。
「主、観光も良いですが、目的を忘れないように」
にゃんまるが少し咳払いをしながら忠告する。
「わかってるさ。でも、こういうのも悪くないだろ?」
軽く笑って返した。
一通り街を歩いた後、カイルが振り返りながら言った。
「さて、まずは宿を決めよう。この街は宿も多いけど、人気の場所はすぐ埋まっちまうからね」
周囲を見渡しながら頷いた。
「確かに、夜になる前に決めておかないとな。」
「主、私が適切な場所を見つけましょう。」
にゃんまるが軽やかな足取りで先に進むと、主人公とカイルもその後を追った。
活気溢れるグランメディアでの新たな日々が、こうして幕を開けた。
にゃんまるが案内したのは、街の中央広場から少し離れた静かな宿だった。表には木製の看板が掛かり、手入れの行き届いた花壇が迎えてくれる。宿の名は《銀の羽》。
「ここなら落ち着いて休めるでしょう。料金も良心的ですし、食事の評判も悪くありません」
にゃんまるが淡々と説明する。
カイルはその言葉を聞きながら宿を見上げる
「確かに静かそうだな。こういう場所、結構好き」
と笑みを浮かべる。
宿の扉を押し開けると、中から漂う暖かな雰囲気に自然と肩の力が抜けた。ロビーには木目調の家具が並び、暖炉の火が穏やかに揺れている。
受付にいた女性が柔らかい笑みで迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。ご宿泊ですか?」
「ええ、二部屋お願いしたいのですが。」
にゃんまるが応じる。
「二部屋?」
カイルが横から口を挟むと、にゃんまるが軽く尾を振りながら答える。
「主にはゆっくりと休んでいただく必要がありますから、分けた方が良いでしょう。それに、個室の方が落ち着けます」
なるほどと納得したようだ。
部屋に荷物を運び入れると、窓を開けて外の景色を眺めた。グランメディアの街灯が暖かな光を放ち、夜の帳が街を包んでいる。
「ここで何をするか、考えないとな」
呟くように言いながら、手にしたフェリスタルの刃を軽く撫でた。
その時、扉の向こうから軽くノックが聞こえた。
「主、今お時間よろしいでしょうか?」
にゃんまるの声が聞こえる。
「どうした?」
扉を開けると、にゃんまるが少し控えめに入ってきた。
「街の情報収集や、次の行動について話し合いたいと思いまして」
「情報収集か。確かに、何かしら手がかりを探す必要があるな」
にゃんまるは少し尾を揺らしながら、静かに提案した。
「明日、私が先に各所を回り情報を集めます。その間、主は休息を取るか、訓練に専念されてはどうでしょう?」
少し考えた後、頷いた。
「そうだな。できる範囲で動くが、お願い」
「かしこまりました」
にゃんまるは軽く頭を下げると、そのまま部屋を後にした。
翌朝、グランメディアの空は雲一つない快晴だった。市場の喧騒や通りの活気が、再び新しい一日を告げている。
にゃんまるは早々に行動を開始し、自分の時間を過ごすことになった。
「さて、今日は何を見つけられるか」
フェリスタルを腰に収め、静かに街の中へと歩き出した。
グランメディアの街を歩いていると、広場近くで立ち話をする人々の声が耳に入った。
「最近、街の東で行方不明者が増えてるって話だよ」
「確か、森の中だろ? 妙な光が見えたとか……」
足を止め、無意識に耳を澄ませた。
「しかも、その森に入った冒険者たちが戻ってこないらしい」
「やめとけよ。命を無駄にするだけだ」
話している人々は深刻な顔つきだった。一度耳にした話を整理し、にゃんまるに報告しようと決めた。
「妙な光か……ただの噂じゃなさそうだな」
呟き、再び宿に向けて歩き始めた。
宿に戻ると、にゃんまるもすでに戻ってきていた。彼はテーブルに座り、紙に書かれた情報を整理しているようだった。
「にゃんまる、少しいいか?」
声をかけると、にゃんまるは耳を動かして振り返った。
「どうされましたか?」
街で耳にした噂を伝えた。
「東の森で行方不明者が出てるらしい。それに妙な光も見えたとか」
にゃんまるは少し眉間にしわを寄せた。
「その森は、古くから魔物の出現が多い場所として知られていますが、妙な光というのは気になりますね」
「俺たちで確かめに行った方がいいだろうか?」主人公が尋ねると、にゃんまるは少し考えた後に頷いた。
「そうですね。ただ、十分な準備を整える必要があります。私が手配できる限りの物資を調達しますので、少しお待ちください」
その時、カイルが部屋の外から声を上げた。
「何か面白そうな話してるね! 僕も行く!」
軽くため息をついた。
「お前には関係ないだろ」
「関係ないことはないだろ。同じ宿に泊まってるんだし、僕だって腕試しをしたいんだよ!」
カイルは自信満々の笑みを浮かべている。
にゃんまるは静かにカイルに目を向け
「同行するのは構いませんが、責任は自分で負っていただきます。それでもよろしいですか?」
と問うた。
「もちろんさ!」
カイルは胸を張ったが、まだ疑念の目を向けていた。
「まあ、無理しない範囲で動いてくれ」
そう言いながら、次の行動に思いを巡らせた。
翌朝、三人で東の森に向かう準備を整え、宿を出発した。街の外れから続く道は、次第に木々の密度が高まり、ひんやりとした空気に包まれていく。
「この先かな?」
カイルが先を見ながら言う。
にゃんまるは地図を確認し、
「もう少し奥ですね。ただ、ここからは魔物の気配が強まります。気を引き締めてください」
と答えた。手にしたフェリスタルを握りしめ、
「分かってる。気を抜くなよ」
と周囲を警戒した。三人が森の奥へ進むにつれ、不気味な静けさが辺りを包み込んでいく。そして、木々の間から、かすかに青白い光が揺らめいて見えた。
「これか……?」
呟くと同時に、森の奥から低い唸り声が響き渡った。




