里の次の目的地
祭りも終わりに近づき、夜空に浮かぶ満月が里全体を銀色に照らしていた。猫族たちは満足そうな表情を浮かべながらそれぞれの家や寝床に戻り始める。主人公とにゃんまるも月光樹の近くで腰を下ろし、静かな時間を過ごしていた。
「静かになったな」
つぶやくと、にゃんまるは耳をぴくりと動かしながら微笑む。
「祭りは大盛況でしたね。これほどの賑わいを見たのは久しぶりです」
「こんな素敵な場所があるなんて、知らなかったよ。お前がここで生まれ育った理由が少しわかった気がする」
にゃんまるは少し驚いたように目を丸くした後、柔らかく笑った。
「ありがとうございます、主。こうして一緒に戻って来られたこと、私にとっても大切な思い出になります」
その時、不意に木々の間から光の粒が舞い降りてきた。それは月光を受けた小さな精霊のように、ゆらゆらと空中を漂っている。
「これ……何だ?」
主人公が目を凝らすと、にゃんまるがそっと立ち上がり説明する。
「これは『月光の舞』と呼ばれる現象です。祭りの最後に、月光樹が放つ魔力が具現化して、こうして舞い降りてくるんです」
光の粒は風に乗って舞いながら、里のあちこちを漂っていく。その光景はどこか幻想的で、主人公は思わず見とれてしまった。
「綺麗だな……」
ぽつりとつぶやくと、にゃんまるが頷きながら答える。
「ええ。月光樹は里の守護でもありますから、この光には癒しの力があるとも言われています」
その時、光の粒が一つ、肩にふわりと降りた。暖かな感触が肌に伝わり、どこか心が軽くなるような気がした。
「……不思議な感覚だ」
驚きながらそう言うと、にゃんまるは微笑を深めた。
「主がこの里を気に入ってくれた証かもしれませんね」
二人はしばらくその光景を楽しみながら、月光樹の下でゆっくりと夜を過ごした。祭りが終わっても、この夜の美しい思い出は、心に深く刻まれることになる。
やがて、夜が明ける兆しが見え始め、にゃんまるが立ち上がる。
「そろそろ行きましょうか、主。フェリネアで過ごした時間が、これからの道に力をくれるはずです」
主人公も立ち上がり、月光樹を最後に見上げると、里への感謝を胸に刻んだ。そして二人は新たな旅路へと歩み出すのだった。
フェリネアの里を出発する朝は、静かで清々しい空気に包まれていた。猫族の里の住民たちは、見送りに集まってくれていた。
「また戻ってきてくださいね!」
「お二人の旅が安全でありますように!」
笑顔で手を振る猫族たちに、少し照れくさそうにしながらも手を振り返した。一方でにゃんまるは彼らの言葉一つ一つに丁寧に頷き返し、最後に穏やかな声で言った。
「皆さん、ありがとうございました。この里は私の故郷ですが、主と共に旅することが今の私の使命です。また戻れる日を楽しみにしています」
その言葉に、住民たちはさらに温かい笑顔を浮かべ、二人を送り出した。
里の結界を越えたところで、深呼吸をした。
「……なんだか、本当に素敵な場所だったな」
「ええ、私にとっても大切な場所です」
にゃんまるは少し振り返り、里の方向を見つめた。その表情には懐かしさと決意が混ざっている。
「それにしても、結局あの光の粒――『月光の舞』か。何だったんだろうな?」
主疑問を口にすると、にゃんまるはくすりと笑った。
「真実は誰にもわかりません。ただ、月光樹の力が私たちに何かを伝えようとしたのかもしれませんね」
「伝えようとしたって?」
にゃんまるは少し間を置いてから答えた。
「……里を守る力も、私たちが進むべき未来も、すべては繋がっている。そんな風に感じました」
少し考え込みながらも、にゃんまるの言葉を受け入れるように頷いた。そして前を向き直り、軽く拳を握る。
「どんな未来が待っていようと、俺たちなら乗り越えられるさ」
その言葉に、にゃんまるは少し驚いたように目を見開いたが、すぐに柔らかい笑みを浮かべた。
「ええ、主とならどんな道でも歩んでいけます」
二人は再び旅路を歩き出した。フェリネアの里で得た経験と絆が、これからの道のりをさらに強いものにしてくれるだろう。風が草木を揺らし、朝の光が差し込む。旅路を進むにつれ、フェリネアの里の風景は次第に遠く、背後に消えていった。足元に続く森の道は陽光に照らされ、木々の間から小鳥たちのさえずりが聞こえてくる。
先ほどの出来事を思い返していた。月光樹の下で感じた不思議な力、そして里の住民たちの温かさ。胸の中には感謝とともに、言葉にならない何かが残っていた。
「にゃんまる、あの月光樹の力って、いつからあそこにあるんだ?」
歩きながら問いかけると、にゃんまるは少し考えるように視線を上げた。
「月光樹の力は、この里ができた時から存在していたと言われています。けれど、その力の全貌を知る者は少ない。伝承では、フェリネアの守護と、外の世界とのつながりを象徴するものだとされています」
「外の世界とのつながり、ね……。あの光がそういう意味なら、俺たちにも何か託されたのかもしれないな」
にゃんまるは頷いた。
「そうかもしれませんね。主と私が出会い、共に旅をしていることも、何かの巡り合わせかもしれません」
軽く肩をすくめて笑った。
「にやんまると旅をするなんて、正直、前世じゃ想像もできなかったけどな」
にゃんまるはふっと柔らかな笑みを浮かべ、見上げる。
「私もそう思います。ただ……不思議と、初めてではない気もするのです」
その言葉に一瞬足を止めたが、何も言わずに再び歩き出した。
進む道の先には、小さな川が見えてきた。川のせせらぎが心地よく耳に届き、二人は自然と足を止めた。川辺に座り込み、顔を洗うように冷たい水をすくった。
「……やっぱり旅っていいな」
水滴を振り払いながら呟いた。
「ええ、世界は広いですからね」
にゃんまるも近くに腰を下ろし、静かに景色を眺める。
しばらく無言の時間が流れた後、ふと思い出したように言った。
「そういえば、次はどこに向かうんだっけ?」
にゃんまるは少し考え込みながら、バッグから地図を広げた。
「近くに古い遺跡があります。その場所には、また新たな発見が待っているかもしれません」
「遺跡か……何が出てくるか、楽しみだな」
目が輝き、気合いが入る。にゃんまるも穏やかに微笑んだ。
「ええ、私たちの旅はまだまだ続きますから」
どこまでも続く旅路の中、未来は誰にも分からない。それでも、確かな絆を胸に、新たな冒険へと足を踏み出していった。
再び歩みを進めた二人の目の前に、少しずつ地形が変わり始めるのが分かった。森が途切れ、広がるのは岩肌が露出した丘陵地帯だった。草花は少なく、風が吹くたびに砂が舞い上がる。
「これが遺跡の近くってわけか」
足を止め、遠くに見える石造りの建造物の影を見つめた。
「そうですね。遺跡の場所はあの辺りのはずです」
にゃんまるが指差した先には、崩れた石の門が見えた。かつては荘厳だったであろうアーチは、いまや半分以上が朽ち果てている。
近づくにつれ、辺りの空気がひんやりと冷たくなるのを感じた。まるで遺跡そのものが生きているかのような、不思議な気配が漂っている。
「……なんだか、妙な感じだな」
辺りを警戒しながら周囲を見渡す。
「古代の遺跡には、魔力が残っていることが多いですからね。もしかすると、何か仕掛けがあるかもしれません」
にゃんまるの言葉に、フェリスタルを握りしめる手に力を込めた。
二人が遺跡の中へ足を踏み入れると、石畳が不規則に割れ、蔦が絡みついた壁が広がっていた。天井は崩れた部分から光が差し込んでおり、淡い緑色の苔が神秘的な輝きを放っている。
「すごいな……昔の人たちは、こんな場所を作る力があったのか」
感嘆の声を漏らす。
「これだけの規模の遺跡、かなり重要な施設だったのかもしれませんね」
にゃんまるも周囲を見回しながら答える。その時、彼の耳がぴくりと動いた。
「主、何か近づいてきます」
気配を察し、構えを取る。すると、闇の中から姿を現したのは巨大な獣――かつて遺跡を守護していたとされる番人のような存在だった。
「……来るぞ!」
声を張り上げると、武器を抜き、前に出た。にゃんまるも瞬時に戦闘態勢に入る。
番人は目のような部分に淡い光を宿しながら咆哮を上げ、二人に向かって突進してきた。
「まずは動きを止めます!」
にゃんまるは飛び上がり、光の魔法を発動する。輝く魔法陣が足元に広がり、番人の動きを一瞬止めた。
「今だ、主!」
隙を突いて一気に間合いを詰め、鋭い一撃を繰り出した。その攻撃は番人の硬い装甲を割り、深い傷を刻んだ。
番人が苦しそうに後退する隙を突き、二人はさらに連携を深めながら戦った。そして最後に、フェリスタルが番人の核心部に届き、巨大な体が崩れ落ちた。
息を整えながら、フェリスタルを収める。
「すごい番人だったな……だけど、何かを守ってたってことか?」
にゃんまるは番人が崩れた場所に近づき、そこに光り輝く小さな球体を見つけた。
「……おそらく、これが遺跡の中心にある秘密の一部でしょう」
その球体を手にした瞬間、周囲の壁に描かれた古代文字が淡く光り始めた。
「これは……」
「何かが目覚めようとしているのかもしれませんね」
にゃんまるの声には、どこか緊張と期待が混じっていた。二人は光の導きに従いながら、さらに遺跡の奥へと進んでいく。




