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月光祭

月光が里全体を包み込み、静かな夜の帳が降り始めた。祭りの準備も一段落つき、広場では住人たちがそれぞれ談笑したり、夜空を見上げたりしていた。にゃんまると主人公も広場の一角に腰を下ろし、一息ついていた。


「なあ、にゃんまる。この里って、普段はどんな生活を送ってるんだ?」


問いかけると、にゃんまるは柔らかく微笑んだ。


「フェリネアの里は、自然と共存しながら穏やかに日々を過ごしています。皆がそれぞれ得意なことを生かし、助け合いながら暮らしているのです。たとえば、狩りが得意な者は食材を調達し、手先の器用な者は道具や衣服を作ります。農耕や医術に長けた者もいて、里全体が一つの家族のように結びついているのです」


にゃんまるの説明を聞きながら、里の住人たちの笑顔や温かな雰囲気を思い浮かべた。この場所には、外の世界にはない独特の安らぎがある。それは、この里が長い歴史の中で築いてきた絆や信頼の賜物なのだろう。


ふと、少し離れた場所に目をやった。月光樹の根元で、祈りを捧げていた長老が近づいてきていたのだ。


「にゃんまる、そしてお若い人間の方。どうかこちらへ」


長老は優しく手招きし、二人を導いた。

月光樹の下に立つと、その存在感が一層強く感じられた。長老は静かに語り始める。


「この木は、ただの守護者ではありません。我々猫族の歴史そのものです。この里が誕生したころ、祖先たちはこの木を中心に集い、その力に守られながら生き延びました。そして今でも、月光樹は我々を導き、外界との調和を保つ役割を担っています」


その言葉に、自然と木に手を触れていた。ひんやりとした感触の中に、確かな生命の鼓動のようなものを感じる。その瞬間、不思議な感覚が広がった。


――この里は、ただの隠れ家ではない。この世界のどこかで失われたものを守り続ける、そんな使命を持った場所なのだ。


にゃんまるもまた、月光樹に視線を向けながら、静かに口を開いた。


「主、この里を見て感じたことを、どうか忘れないでください。この世界には、外の争いとは無縁の場所もあるのです。そして、それを守るために私たちができることを考えるべきだと私は思います」


深くうなずいた。この里の平和は、簡単に手に入るものではない。だが、その価値を知った以上、自分にできることをしなければならないという決意が芽生えた。


夜も更け、広場では祭りの準備を終えた住人たちが一堂に会し、にぎやかさが戻っていた。その光景を眺めながら、にゃんまると共に、静かに月光の里の夜を楽しむのだった。


祭りの始まりを告げる音楽が里に響き渡った。猫族特有の弦楽器や打楽器が奏でるリズムは、どこか懐かしさを感じさせるもので、心地よく染み込んでいく。


里の住人たちは皆思い思いの装いをし、中央の広場に集まり始めた。月光樹の輝きが祭りの光となり、住人たちの笑顔を照らしている。その光景は、まるで夜空に咲く花のように美しい。


「主、どうですか?これがフェリネアの祭りです」


にゃんまるが誇らしげに語りかける。その声には、里に対する愛情と誇りが込められていた。


「すごいな……まるで別の世界みたいだ」


目を見張りながら、里の人々の笑顔や温かな雰囲気に感動していた。


その時、里の中央に長老が現れた。手には美しい月光色の杯が握られている。それを見て、住人たちのざわめきが静まり返り、祭りの本格的な開始を告げる儀式が始まった。


長老は月光樹の根元に立ち、杯を掲げて語り始める。


「今宵、我らは月光の加護に感謝し、新たな日々を迎えます。この里の平和と、訪れし友人たちの幸せを祈り、乾杯と参りましょう」


長老の言葉が終わると、住人たち全員が杯を掲げ、大きな声で唱和した。


「月光とともに!」


その瞬間、月光樹の輝きが増し、広場全体が柔らかな光に包まれた。その光景は主人公にとって忘れられないものとなった。


儀式が終わると、祭りは一気に賑やかさを取り戻した。舞踊が始まり、食べ物の香りが辺りを満たす。主人公もにゃんまるに促されて、祭りに参加することになった。


「さあ、主。ここからが本番ですよ!」


にゃんまるは手を引き、広場の中心へ向かう。そこでは住人たちが輪になり、猫族特有の踊りを披露していた。


最初は見よう見まねで踊りに参加したが、住人たちの親しげな雰囲気に次第に引き込まれ、自然と笑顔がこぼれる。


祭りの喧騒の中、ふと空を見上げた。満天の星空が広がり、月光樹の光がその中に溶け込んでいく。


「こんな平和な場所があるなんて……」


心の中でそうつぶやき、この場所を守りたいという思いを強くした。


にゃんまるもまた、隣で同じ空を見上げながら静かに微笑んでいた。フェリネアの夜は、二人にとって忘れられない特別なものとなったのだった。


祭りが最高潮に達した頃、里の東側から風に乗って甘い香りが漂ってきた。その香りに引き寄せられるように、そちらへ向かうことにした。


「これは……お菓子の香りか?」


尋ねると、にゃんまるは小さく頷いた。


「ええ、フェリネア特製の月光菓子ですね。この時期だけ作られる貴重なものなんです。ぜひ主にも味わっていただきたいと思っていました」


二人が辿り着いたのは、広場の端に設けられた小さな屋台だった。そこでは年配の猫族が手際よく生地をこねたり焼いたりしている。出来上がったばかりの月光菓子は、淡い金色の輝きを放ち、見るからに美味しそうだ。


「どうぞ、お若い方。お一つ召し上がれ」


屋台を切り盛りする女性が笑顔で差し出してくる。


手渡された菓子を口に運んだ。一口噛むと、口の中でふわりと広がる甘さと、どこか懐かしい風味が心を満たしていく。


「これ……すごく美味しい」


思わず感嘆の声を上げる主人公を見て、にゃんまるも満足げに頷く。


「この味こそフェリネアの誇りですよ。このお菓子は月光樹の実から取れる蜜を使っているので、他では絶対に味わえません」


もう一つ手を伸ばそうとしたその時、不意に視界の端に動く影が映った。目を凝らすと、近くの木陰に隠れるようにしている小さな猫族の子供がいた。


「あの子……何してるんだ?」


不思議に思い、近づこうとすると、子供ははっとしたように身を縮める。


「大丈夫だよ、怖くない」


優しく声をかけると、子供はしばらく躊躇した後、ゆっくりと姿を現した。


「……お腹、空いてて」


小さな声でつぶやいたその子に、主人公は自然と手にしていた月光菓子を差し出した。


「ほら、これを食べて。おいしいよ」


子供は目を輝かせながら菓子を受け取り、嬉しそうに頬張る。その様子を見て、にゃんまるも静かに微笑んでいた。


「主、さすがですね。優しさを忘れない姿勢、感服します。」


「いや、ただの思いつきだよ。でも、こんな場所がずっと平和であってほしいと思ったんだ」


主人公の言葉に、にゃんまるは少し目を細めた。


「きっとその願い、月光も聞き届けてくれますよ」


夜が更けていく中、里の祭りは続き、その静かな幸せを噛み締めていた。フェリネアで過ごしたこの一夜は、二人にとって特別な意味を持つものとなるだろう。

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