ライオン戦士と猫戦士
さて、この状況どうやってきりぬけようか。
相手はライオン、こっちはただの猫。天地がひっくり返たって勝てる気がしない。攻撃もあの筋骨隆々の肉体には届く気がしない。同じネコ科のよしみで見逃してくれたりはしないだろうか。
「貴様何者だ、先程の猫をどうするつもりだ」
空気が震えるような低い声でライオン戦士は問うてくる。返事次第では容赦しない気満々である。なんとか敵意がないことを伝えたいが何言ってもやられそう。
正直怖い、ゴブリンなんて比にならないくらい怖い。逃げるか、いや逃げられなそう。なにか打開策はないか...正直に話すのが1番だろう。相手が悪いやつだったらやばいけどそうでは無い気がする。
THE 正義の味方的な。
そもそも悪いやつなら問答無用で襲われる気がする。まあ襲われたのだが。だが会話をして来たってことは多少は希望があるだろう。見た目はめちゃくちゃ怖いがヒーローっぽい。
「安全な所に送り届けたい、ゴブリンに襲われている所を助けた」
どうだ、信じてもらえるだろうか。鋭い眼光で見定められている。片手に握られた大剣がいつ襲ってくるかわからない。この綱渡り、のりきってみせる。
「なるほど、たしかに先程の回避はいい動きをしていた。だが、それだけで判断するのは早計というもの。証明したくば我と戦え」
バトルジャンキーだったかあ。
重々しい金属音とともに、ライオン戦士が大剣を地面に突き立てた。その刃先は鋭く、周囲の空気すら切り裂くような冷たい輝きを放っている。たてがみが風に揺れ、彼の金色の瞳がこちらを鋭く睨みつけた。その瞳には迷いも容赦もなく、次の瞬間に訪れる激突を予感させる。
緊張で体が固くなるのを感じながらも、一歩下がることなく前を見据えた。ライオン戦士が踏み込むたび、大地が震え、その重圧が体にのしかかる。彼は大剣を軽々と持ち上げ、その巨大な刃を振り下ろしてきた。
「速い……!」
まさかその巨体でこれほどの速度が出せるとは思わなかった。紙一重でその一撃をかわし、刃が地面を抉る音が耳を裂く。砂と石が舞い上がり、視界を遮る中、すぐに次の攻撃が襲いかかってきた。
ライオン戦士の戦い方は単純ではない。ただの力任せの攻撃ではなく、その動きには狡猾さと精密さが混じっている。彼は大剣の長さを巧みに活かし、広範囲をカバーする振りを繰り出す一方で、隙を見せることなく相手の動きを封じ込める。
「隙がない……!」
必死に回避しながら、次の一手を模索した。しかし、攻撃を受けるだけでは勝ち目がない。この戦いで勝つためには、ライオン戦士の動きを見切り、突破口を見つける必要があった。
次の瞬間、大剣が横薙ぎに振られる。地面をかすめた刃から巻き上がる風圧が体を揺らし、その衝撃でバランスを崩す。ライオン戦士はその隙を逃さず、一気に間合いを詰めてきた。
「まずい!」
咄嗟に飛び退いたが、追撃の一撃が間近に迫る。その時、閃きのように気づいた。彼の大剣は強力だが、その重量ゆえに一度振り切ると次の動きにわずかな遅れが生じる。
「今だ!」
次の一撃を狙って放ったライオン戦士の刃をギリギリでかわし、その一瞬の隙を突いて懐へと飛び込んだ。刃の届かない至近距離、ここが唯一の安全地帯だ。
驚いた表情を見せるライオン戦士。しかしその目には、戦士としての誇りが宿っている。その隙を最大限に活かして一撃を見舞う。弱点はみえている。
猫爪星穿!
ライオン戦士の胸当てが肉球型にへこむ。
胸当てが砕け地面に散らばる。口から血を吐き出すライオン戦士。だが、会心の一撃をかましたはずがこの身体では一撃が軽すぎた。
「見事だ小さき者よ」
ライオン戦士が鬼神のごとく歯を食いしばり大剣を構え直し振りかぶる。
ああ、これは死んだかもしれない。さすがにこれは回避できない。迫り来る刃に死を覚悟し、目をつぶろうとしたその時。小さな影が目の前に現れた。
「そこまでだ」
金属と金属が重なり衝撃波が発生し吹き飛ばされる。なんとか止まり目を開けるとーー。
目を凝らすと、そこには小さな影が現れる。猫の姿をした戦士だ。しかし、その体はただの猫ではなかった。鋭い瞳に宿る意思と、その前足で握られた小さな剣が、彼をただの獣から孤高の戦士へと変えている。
剣は彼の体格に見合った細身の短剣だが、その刃先には鋭い輝きが宿り、無駄のない動きで敵を圧倒する力が感じられた。猫戦士は低い姿勢を取り、ライオン戦士の動きを一瞬たりとも見逃さない。たてがみのような毛並みが風に揺れ、二本の尾がバランスを保つようにしなやかに動く。その姿はまるで狩りの最中の肉食獣そのものだが、手にした剣が彼をより神秘的で、強大な存在に見せていた。
そして、次の瞬間、彼が動いた。地を蹴り、空気を切り裂くように跳ぶと、剣が鋭い弧を描いた。軽やかで無駄のない動き。その速さに気づく間もなく、剣が一閃し、大剣を弾き飛ばす。
胸が締め付けられるような感覚を覚えた。自分が追い詰められ、あと一歩で命を落とすところだった状況から一変し、この猫戦士の登場がすべてを変えたのだ。
「約束を果たすときがきたよ、主」
その声は静かで低く、耳に響く。その目にはわずかに心配の色が浮かんでいたが、同時に冷静さと戦士としての威厳を感じさせる。
震える足で立ち上がりながら、言葉を紡ぐのが精一杯だった。
「にゃんまる……なのか.....」
猫戦士はその言葉に軽くうなずくと、剣を納めライオン戦士を見据える。
「ジルバよ、様子見にしては熱くなりすぎだ。お主はすぐ熱くなるのが欠点だぞ」
ライオン戦士ことジルバの瞳が正気に戻っていく。小さく深呼吸をし大剣を拾い上げると背中に収める。
「小さき者よ、すまなかった」
ジルバは先程とは違い、優しい雰囲気で謝ってくれた。
とにかく助かった。それはそれとして今は影にいる猫をなんとかしないと。影から瀕死の猫を出しにゃんまるの前に置く。
「この子の手当を早くしてあげてくれ」
にゃんまるは小さく頷く。
瀕死の猫が荒い息を吐きながら地面に伏している。その体は傷だらけで血に染まり、毛並みは泥と痛々しい裂傷で覆われていた。今にも消え入りそうな生命の灯火が揺らめいている。
にゃんまるはその場にひざまずくと、そっとその傷ついた体に前足を添えた。その瞳には深い慈愛と決意が宿っていた。彼は静かに目を閉じ、低く澄んだ声で呪文を紡ぎ始める。
猫癒掌
すると、彼の足元から柔らかな光が湧き上がった。それは暖かく、優しい輝きで、まるで夜空に浮かぶ星々が地上に降りてきたかのようだった。その光は次第に形を成し、やがて淡い輪郭の猫の姿を浮かび上がらせた。
光でできた猫の精霊は、ゆっくりと傷ついた猫に歩み寄り、その小さな体に寄り添うようにして光を注ぎ込む。まるで仲間を癒す母猫のように、その動きは愛情に満ちていた。
光の猫が傷口をなめるように動くたび、深い傷が少しずつ塞がれていく。血が止まり、毛並みが元の輝きを取り戻していく様子は、まるで時間が巻き戻されているようだった。
「もう大丈夫だ……お前はまだここにいられる」
穏やかに呟くと、光の猫はひときわ強く輝き、やがて静かに消えていった。代わりに、瀕死だった猫はゆっくりと目を開け、か細い声で鳴き声を上げた。
「ありがとう」
その様子を見て微笑み、優しく言葉を続けた。
「さあ、立てるか? 」
その言葉に応えるように、傷ついていた猫はゆっくりと体を持ち上げ、かすかな力を取り戻して歩き出した。その背中を見守る目には、安堵と戦士としての使命感が光っている。




