ケットシーからのご褒美
ギルドの依頼を終え、帰路についた。すると庭で待つ黒毛の猫、ケットシーに出迎えられた。
「主、少し時間があるかい?」
ケットシーは、金色の瞳を輝かせながら問いかける。
「ケットシー。何か用か?」
「君に試練を与えたい。これは君自身がさらに成長するために必要なことだ。そして、試練を終えた暁にはご褒美も用意している」
その言葉に驚きつつも、次第に興味が湧いてきた。
「試練とご褒美か……悪くないな。受けてやるよ」
ケットシーはにやりと笑い、前足を掲げた。
「では、準備はいい? 行こう!」
光が舞い上がり、次の瞬間、視界は闇に包まれた。
目を開けると、そこは暗闇の回廊。左右の壁には光の石が淡く輝いているが、奥は闇で覆われている。
「ここは……?」
「ここは影の回廊。君が得意な『隠密』のスキルを活用し、通り抜けてもらうにゃ」
ケットシーの声がどこからか響く。
猫足瞬歩!
無音で足を進める。だが、途中で影の魔物が襲いかかってきた。
猫影潜行!
影に潜り込み、魔物の背後に回り込むと、
猫爪最夜!
一閃。闇を纏った刃が魔物を斬り裂き、霧散させた。
回廊を進むごとに影の魔物の数は増えたが、
猫ノ結界!
防御しながら突破していった。
最奥に辿り着いた時、回廊は消え去り、次の試練の場へと進んだ。
次に現れたのは、静寂の湖。湖面には星空が映り、幻想的な光景が広がっていた。
「ここでの試練は、魔力を制御することだ。君が持つ光と闇、その両方の力を均衡させるのにゃ」
湖の中央で魔力が暴走して渦を巻き始めた。湖の水が盛り上がり、巨大な波となって押し寄せてくる。
すぐに両手を前にかざし、集中した。
「光と闇を均等に――力を抑えるんだ」
闇の魔力は激しく暴れるように体内を駆け巡り、一方で光の魔力はそれを抑えようとするが、完全に均衡が取れているわけではなかった。
「……落ち着け!」
深く息を吸い込み、自らの心を鎮める。学んできたゆっくりと魔力を意識の中心に引き寄せていく。
光と闇が渦を描きながら交わり、次第に均衡が取れていくと、湖の水は静まり、波紋も消えた。そして、湖面に映る星空がさらに輝きを増し、穏やかさが戻ってきた。
「やった……!」
安堵の息を吐いた瞬間、湖の中央に現れた光の柱が、次の道を照らし出した。
光の柱を抜けると、そこには懐かしい風景が広がっていた。それは、かつてリオンとにゃんまるが共に戦っていた時代の光景だった。
「これは……?」
突然、前方にリオンとそっくりの幻影が現れた。
「主、試練の最後は対話だ。この幻影を通じて、君が本当に目指すものを確かめてもらうにゃ」
幻影のリオンが微笑み、剣を構えた。
「君の覚悟を見せてみろ」
戸惑いながらもナイトクロー――いや、今やフェリスタルを両手に握りしめ、構えた。
「……覚悟なら、もうできてる!」
二人の剣技が交錯するたびに、リオンとの思い出が蘇る。幻影はあくまでリオンそのものではなかったが、言葉や動きに込められた熱量は、まるで本物のようだった。
「何のために戦う?」
「誰のために剣を振るう?」
幻影は問いかけながらも攻撃を仕掛ける。そのたびにフェリスタルを駆使して応戦しながら、自分の心に問いかけた。
(何のために……誰のために……?)
にゃんまる、リオン、そして新たな仲間たち。主は全ての顔を思い浮かべた。そして、自分自身がこれから何を守りたいのかを強く胸に刻んだ。
「俺は、守りたいんだ。大切な人たちと、この世界を!」
最後の一撃で幻影を撃ち破ったその瞬間、幻影のリオンは満足げに微笑んで消えていった。
「よくやったにゃ、主」
ケットシーの声が響き、風景が元の庭へと戻る。
試練を終えた主は、改めてケットシーの前に立った。
「これが君へのご褒美だにゃ」
ケットシーが前足を振ると、光の粒が主の手のひらに集まった。それは新たな魔法の力を宿していた。
「これは……?」
「『闇光一体』。君が均衡を保つことで使えるようになった新たなスキルだ。闇と光の力を同時に扱える、特別な魔法にゃ」
手のひらに集まる光と闇のエネルギーを見つめながら、力強くうなずいた。
「ありがとう、ケットシー。俺はこの力を無駄にはしない」
試練を終えた主が新たな魔法の力を手にしたあと、ケットシーはくるりと一回転しながら、もう一つのご褒美を取り出した。
「そうだ、もう一つ用意していたんだよ。これは君への特別な贈り物にゃ」
ケットシーの前足に現れたのは、黒曜石と月光石が交互に埋め込まれた美しい指輪だった。指輪のデザインは、猫の尾が円を描くような形をしており、中央の宝石には光と闇が渦を巻いているかのような模様が浮かび上がっていた。
「これは『闇光の指輪』」
驚きながら指輪を手に取り、その冷たくも力強い感触を確かめた。
「この指輪、どんな力があるんだ?」
ケットシーは満足げに微笑んで説明を始めた。
「この指輪には君が先ほど手にした『闇光一体』の力をさらに強化する効果がある。魔法の威力を増幅させ、魔力消費を抑える補助機能を持っているんだ。そして、もう一つの特徴として、この指輪を使えば『猫ノ結界』がさらに強力になり、仲間を守る力が格段に上がるのにゃー」
「……すごいな。」
指輪をじっと見つめた。
「こんなものまで用意してくれたのか」
「主が試練を乗り越えた証だ。それとランクアップおめでとう。大切に使うんだにゃ」
感謝を込めてケットシーを見つめた。
「ありがとう、ケットシー。これで俺はもっと強くなれる」
「ふふ、感謝の言葉は十分だよ。さあ、その指輪の力を使いこなして、主の目指すものを掴み取るんだにゃ」
ケットシーが軽やかに去っていくと、主はその場で静かに指輪を指にはめた。ぴったりと馴染む感覚があり、まるでこれまでの旅路を共にしたかのような親しみを覚える。
拳を握り締め、再び心を奮い立たせた。
「これからの戦いで、この力を必ず役立てる。俺は、守るべきものを守るために進むんだ」
闇光の指輪がほのかに輝き、決意に応えるように温かさを放った。
ケットシーは満足げに笑うと、
「期待しているよ、主」
と言い残し、どこかへと消えていった。
手の中の新たな力を握りしめ、次の冒険へと思いを馳せるのだった。
闇魔法と光魔法をもっと練習しないとと思い、なにか無いかと思考をめぐらせる。魔法の練習と言えばやっぱり猫鳴の髭だよね。
猫鳴の髭を取り出し、魔法の練習を始めた。周囲には緑の木々とひんやりとした風の音だけが響いている。彼の目の前には広大な空間が広がり、その空間に自分の魔力を引き寄せるための準備が整った。
「まずは、光魔法から…」
猫鳴の髭を指先で軽く弾くと、髭から音が鳴り響いた。その音は、まるで微細な金属の振動のようで、柔らかな光の波動のように空気を震わせる。猫鳴の髭が輝きだし、その光は淡い金色に変わる。その光は、彼の目にはあまりにも美しく、そして強烈に輝く。
次第に髭の先端から、透明で細い光の糸が伸び、空気を切り裂くように前方に浮かび上がる。光の糸は柔らかく、しかし確かな力を感じさせ、まるで彼の手のひらから放たれたエネルギーのように広がっていった。
音色が変わるとともに、髭から放たれる魔力が増していく。その光の糸は、明るい金色に変わり、さらにその光を視覚化したように、きらめく粒子となって空中を踊るように浮遊する。主人公はその粒子が集まり、小さな光の球となって形成される様子を見守った。
「これで…」
手のひらに現れた光の球は、どこか穏やかで、暖かさを感じる。その光が手のひらを包み込むように輝き、安定した力を放っている。一息つき、次に闇魔法の練習に移る決意を固めた。
「今度は、闇魔法だ」
主人公は猫鳴の髭の根元を軽く弾き、今度は闇の魔力を流し込む。髭が一瞬にして暗い紫色に染まり、低い音が響く。その音は、まるで深い地下の奥底から響くような、じっとりとした重い音だった。闇の魔力は、音と共に髭の中で渦巻き始め、強い引力を感じさせる。
闇魔法の特性はその制御が難しいが、猫鳴の髭の力を借りて、その流れを引き寄せることができる。闇の魔力は、最初は不安定に踊るように広がっていたが、髭の振動に合わせてしっかりと制御され、深い紫色の糸として空間に広がっていった。
闇の糸がその場に広がると、光の糸と違い、その糸はまるで視覚的には存在しないかのように濃い闇に溶け込んでいった。しかし、その暗い波動を感じ取ることができる。闇の糸は、まるで空気を押し分けるように流れ、最終的には小さな闇の球が手のひらに現れる。
闇の球は、光の球とは違い、冷たい空気をまとい、周囲の温度をわずかに下げる。球そのものは、闇の中に微かに青白く光る筋を持ち、見る者に威圧感を与える。その闇の球をじっと見つめながら、少しの間それを保ち、そしてゆっくりと光魔法の球へと戻した。
「これで、少しは闇魔法の精度も上げられたかな」
猫鳴の髭の微細な振動が、手から伝わってくる。今度は、両手で光魔法と闇魔法を交互に使ってみる。光の糸と闇の糸が、空中で交差し、微細な波動がぶつかり合う。その瞬間、音が高く、低く、また中間に変化し、彼の周囲に一瞬の閃光が走る。
光と闇が交わる瞬間に発せられる音は、まるで一つの楽器が奏でる複雑なメロディのようであり、その音に合わせて魔力を流し込んでいく。音の波動が、光と闇を完璧に調和させるかのように、二つの力をひとつにまとめ上げていった。
「ふむ…こうすれば、光と闇を共存させられるのか」
光と闇が交わるその瞬間に感じる力の流れに満足そうに頷いた。猫鳴の髭が、魔力の精度を高め、魔法の力を調和させる道具となっていることを再認識するのだった。




