竜たちお迎え
「主、黒曜竜のアークと火竜の幼竜を引き取る準備が必要になりますね」
竜たちが安心して暮らせる住処を作ること、それがまず第一の課題となった。
「それなら急いで住処を用意しないとね」
「ええ、そのために計画を立てましょう」
にゃんまるの丁寧な提案に、主は静かにうなずいた。自宅近くの森へ足を運んだ。目的は、黒曜竜アークが暮らす洞窟の場所を探すこと。森の奥へ進むと、静寂に包まれた場所が現れた。
「ここだな。この静けさならアークも落ち着けるはずだ」
周囲を見渡しながら言った。
「ええ、ここなら竜の力が自然と調和するでしょう。ただ、洞窟の構造を少し整える必要がございますね」
にゃんまるは木の枝から軽やかに飛び降り、そばに立った。
まず、洞窟の入り口を広げる作業が始まった。主は土魔法を用いて岩を削り、洞窟内の空間を整える。
「主、こちらの壁が少し脆そうです。補強が必要ですね」
「了解だ」
にゃんまるは魔法で黒曜石を生成し、洞窟の柱や壁を強化。仕上げに、防御と静寂の結界を張った。
相変わらずなんでもできるにゃんまる先生。
「これでアークが安心して暮らせる場所になったと思います」
次に手を付けたのは、自宅横の庭の整備だった。火竜の幼竜には、成長を支えるための遊び場と訓練場が必要だ。
「ここに温泉を湧かせてみよう」
魔法で地熱を呼び起こし、小さな温泉を作り出した。湯気が立ち込め、空気がほんのり暖かくなる。
「良い場所ですね。温泉があることで火竜もリラックスできるでしょう 」
にゃんまるが温泉の縁に魔法陣を描き、地面に炎耐性を付与していく。疲れたらここで一緒に温泉に入るのはかなり最高だろう。
さらに、幼竜が遊べるように耐熱素材の的や遊具を設置した。的に試し打ちをする姿に、にゃんまるは尻尾を揺らして満足そうに微笑む。
「幼竜もここで楽しく過ごせそうですね」
「準備は整ったな。あとは迎えるだけだ」
住処を整えた後、家で一息ついた。新しい仲間を迎える準備が整ったことで、ほっとした空気が漂う。
「にゃんまる、これで準備は十分か?」
「ええ、主。あとは竜たちが到着するのを待つだけです」
星空の下、静かな夜に二人は思いを巡らせた。これから始まる新しい日々に期待と不安が入り混じる。
「アークも火竜も、ここで快適に暮らせるといいな」
「主なら、きっと彼らを幸せにできるでしょう」
にゃんまるの励ましに背中を押され、主は新たな仲間と歩む未来を胸に誓ったのだった。
朝早く、旅の準備を整えた。目的地は、遠く離れたマグナ火山地帯。幼竜を迎えに行くための重要な任務だ。
「主、必要な道具はすべて揃いました。水や耐熱の魔法薬も持参しております」
「助かる。火山地帯は厳しい環境だからな、気を引き締めて行こう。」
二人はグリフォンにまたがり、空へと飛び立った。今回はサクッと済ませるために初めからグリフォンで行くことになった。
火山地帯へ向かう空路では、次第に熱気が感じられるようになった。赤く輝く溶岩流が大地を覆い、噴煙が空高く立ち上る様子が遠くに見える。
「壮観ですね。しかし、あの熱さは注意が必要です」
にゃんまるが周囲を観察しながら言った。
「ここまで目立つ火山地帯だと、近くに危険な魔物もいそうだ」
やがて、グリフォンが火山地帯の端に降り立った。グリフォン休ませるために近くの岩場で少し休憩を取る。
火山地帯の奥へと歩を進めた。足元は溶岩の熱でじりじりと焼け付くようだが、にゃんまるが準備した耐熱の魔法薬が二人を守る。
「幼竜はこの辺りにいるはずですが、溶岩流の音で居場所が掴みにくいですね」
「それなら――」
猫耳響覇!
猫耳響覇を発動すると、耳をすませた波動が周囲を巡る。溶岩の流れる音や火山の振動が一瞬静まり、微かな鳴き声が聞こえた。
「見つけた。あっちだ」
二人は火山の縁に近づくと、小さな竜が一匹、溶岩の中でじっとしているのを見つけた。その幼竜は全身を赤く輝かせ、溶岩の中にいるにもかかわらず、どこか怯えた様子だ。
「怯えているようですね。近づきすぎると警戒されるかもしれません」
にゃんまるが声を潜めて言った。
「大丈夫だ。少しずつ距離を縮める」
「ほら、怖くないぞ。俺たちはお前を迎えに来たんだ」
低い声で話しかけると、幼竜は鼻先を伸ばして手に触れた。
竜を安心させた後、用意していた耐熱の布で幼竜を保護し、グリフォンの背に乗せた。
「前も思ったけど幼竜はすごく軽いんだな」
「ええ、まだ幼いため成長途中なのでしょう。しかし、将来は力強い存在になるはずです」
グリフォンが空へ舞い上がると、遠くから火竜の咆哮が聞こえる。親の火竜だろう。
にゃんまるが笛を吹くと高い音が鳴り響く。それを聞いた火竜が再度咆哮で答える。
「これは竜の呼び笛といって、どの方向に居るのか竜に教える笛です。親火竜はこの笛を元に幼竜の居場所を知ることが出来ます」
そんなものがあるのか、そういえば竜牧場で似たようなものを使っていた気がする。そういう意味があったらしい。またひとつ勉強になった。
グリフォンに乗り、無事に拠点へと戻ってきた。幼竜は最初は少し怯えていたが、空を飛ぶ間にすっかりグリフォンになつき、その背にしがみついて離れようとしなかった。
「ふふ、すっかり安心したようですね」
にゃんまるが微笑みながら幼竜を撫でる。
「だけど、ここからが本番だ。この子を迎えるために準備していた住処に案内しよう」
そう言い、にゃんまるとともに幼竜を連れて、作り上げた火竜の住処へと向かった。
新しく用意した住処は、マグマに似た暖かさを再現するため、魔法で調整された岩窟だった。溶岩のように赤く輝く人工の石や、火属性に適した草木も配置されている。
幼竜は新しい住処に入ると、慎重に鼻をひくつかせながら周囲を確認する。その仕草は好奇心と安堵の入り混じったものだった。
「気に入ってくれたようですね」
にゃんまるが満足そうにうなずく。
「これなら快適に暮らせるだろう。だが、食事や環境にはまだ注意が必要だな」
周囲を見回しながら、幼竜の成長を見守る責任を実感していた。
火竜の幼竜には特別な餌が必要だった。にゃんまるが準備していた火属性の魔法石を砕き、自然の素材と混ぜ合わせて餌を作る。
「さあ、お食べ」
にゃんまるが餌を差し出すと、幼竜は一瞬ためらったが、すぐに口をつけて満足そうに食べ始めた。その小さな舌が器用に餌を巻き込み、かわいらしい食べる音を立てている。
「こうして見ると、やっぱりまだ子どもなんだな」
その姿に微笑みを浮かべた。
「ええ、ですがこの子が成長すれば、我々の大切な仲間となるでしょう。それまでしっかり世話をしていきましょう」
にゃんまるの言葉に、深くうなずいた。
「名前付けた方が呼びやすいな、うーん、エンバーにしよう」
「火種を意味する名前ですね、良いと思います」
ということで名前はエンバーとなった。
その日の夜、幼竜は自分の住処の奥で丸くなり、静かに眠りについた。その姿を見守りながら、そっとその場を後にする。
「これで、家族がまた一つ増えましたね」
「そうだな。この子がどんなふうに成長するのか、楽しみだ」
星空の下、にゃんまると並んで歩きながら、これから始まる新たな日々に思いを馳せた。




