2回目にしてはきつい戦闘
一度同族の元にもどってきた。
ぬかるんだ地面の上でうずくまっている。その体は、血で染まった毛並みが薄汚れて固まり、ところどころ剥き出しの皮膚が痛々しく赤黒く腫れている。
前足は不自然に曲がり、歩こうとした跡が泥に引きずられた線となって残っていた。後ろ足も力なく地面に崩れ、立ち上がることすら叶わない。胸のあたりからは浅く荒い呼吸の音が漏れ、そのたびに傷口が上下して新たな痛みをもたらしているのが見て取れる。
顔の半分には鋭い爪のような引っかき傷があり、片目は腫れてほとんど開かない。口元には薄い血の糸が垂れ、呼吸するたびにかすかなうめき声が漏れた。
それでも猫は生きるために必死に体を動かそうとする。前足を伸ばし、何とか地面を掻き、わずかでも前へ進もうとするが、体の重さに耐えきれず、再び泥の上に崩れ落ちる。
遠くで風が吹き、木の葉が揺れる音が聞こえる。その音に混じって、低い唸り声が近づいてくる。敵がまだ近くにいるのかもしれない。しかし、猫にはもはや戦う力も、逃げる力も残されていない。ただ、震える体を少しでも小さく丸め、迫り来る恐怖に抵抗するすべを模索しているようだった。
どこか諦めと、それでも消えないわずかな生への渇望が揺れていた。
「さて、どうしたものか」
運ぼうにもこの小さな体では難しい。
そういえば、影に出し入れできるとアナウンスさんが言っていたのを思い出した。影に入れることが出来れば運ぶことが出来る。
「でもどこへ運べばいいのか分からない。かといって見捨ててはおけない。」
悩んでいると倒れていた猫の口が僅かに動いた。
「きたの......かわを......のぼ......って......」
どうやら気絶したらしい。よくここまでよく頑張ったと思う。君は必ず助ける。どうか安心して眠っていてくれ。静かに影に落とすとゆっくりと沈んでいった。影に入れたことで死なないよね?大丈夫だと信じよう。
北の川を登れ、か。少し戻って川をのぼろう。
敵もまだいてここは危険だ。見つかる前に。善は急げだ。川にたどり着くとそれにそって登っていく。
川のせせらぎが耳元で静かに響き、湿った風が鼻先をかすめていく。その音と匂いを頼りに足元のぬかるみに注意を払いながら、川沿いを慎重に登っていた。
水は岩にぶつかるたびに白い泡を立て、小さな滝となって流れ落ちる。川幅は狭いが水流は意外に強く、石がごろごろと転がる川床がときおり覗いていた。冷たい水が跳ねるたびに前足に滴がかかり、思わず震えが走る。
「こんなに急な流れだと、飲むのも一苦労だな……」
心の中でそうつぶやきつつ、視線を上げると、川沿いに続く傾斜の険しさに息をのむ。緑の苔に覆われた石が滑りやすそうに光り、そこを抜けるたびに鋭い小枝が体をかすめていく。
しかし、川沿いは森の中でも比較的視界が開けており、登るごとに太陽の光が水面に反射してきらめいていた。水面には小さな魚が跳ねる影が見え、彼らの存在がかすかな希望を感じさせる。
「この先に安全な場所があるかもしれない」
そう自分に言い聞かせるように歩を進める。足元の岩を蹴って一段高い場所に登ると、流れが少し穏やかになる箇所が見えた。そこには、木々が茂り、川の音も心なしか柔らかい。
苔の匂いが濃くなる中、風が運ぶ新鮮な空気が肺に満ちる。その瞬間、どこかで鳥が翼を広げる音がして、小さな感謝を胸に、さらに先を目指して歩き続けた。川の流れに沿って歩けば、きっとこの森を抜ける道にたどり着けるはずだ。
「お腹すいたな、魚とれるかな」
困った時の猫耳響覇!
ほんとに便利である。動きを止められた魚は泳ぐことが出来ず浮いてくるのでなんなくとることが出来た。中の子にも食べさせてあげたいが今は無理だろう。早く食べて先を目指そう。そう考えながら魚にかじりつく。動物を狩るよりこっちのが楽だし気がまだ楽だ。魚中心の生活になりそう。あれ、猫って肉食だっけ、まいいか。サーモンみたいでおいしいし。熊ってこんな気分だったのだろうか、そりゃ好きだよねサーモン。さて、先を目指そう。
川沿いをさらに進むうちに、体の疲れをひしひしと感じ始めていた。足は泥と水に汚れ、岩を踏むたびに爪先がじんわりと痛む。それでも、流れる水の音は妙に心を落ち着かせ、先へ進む力を与えてくれる。
ふと、川の流れが一段と高い音を立てる場所に差し掛かった。目の前には小さな滝が現れ、その周囲の岩は苔で滑らかに覆われていた。水しぶきが霧のように広がり、光に照らされて虹を描いている。
「ここをどうやって越えよう……」
主人公は滝の側面にある岩肌を見上げた。登れなくはなさそうだが、滑る岩の上での足場は不安定に違いない。下手に挑めば、滝つぼに落ちる危険がある。
「他の道を探すべきか……いや、時間がおしい」
意を決し、慎重に足を進めた。岩の隙間に爪を引っ掛け、少しずつ体を持ち上げていく。滝から流れ落ちる水が体にかかり、毛が重くなって冷たさが骨に染みる。
途中、後ろ足を滑らせそうになり、心臓が跳ね上がった。しかし、なんとか体勢を立て直し、さらに上を目指す。息を切らしながら岩を登りきると、滝の上には穏やかな川の流れが広がっていた。
「なんとか……越えた」
体を震わせて水滴を払い、しばしその場に伏せて息を整えた。耳を澄ますと、川の上流からは森の奥深くへと続く道が見え、風が木々を揺らす音が聞こえる。その音には、どこか誘われるような心地よさがあった。
「もう少しな気がする……この川の先に、きっと答えがあるはず」
再び足を動かし、流れに沿って歩くこと数分、板に朱色のペンキで猫の絵が描かれたのを見つけた。なにかのマークなのだろうか、落書きにも見える。
あの子なら何か知っているだろうか。そう思い影から出す。
「しんどいだろうがすこし教えてほしい、このマークに覚えはあるかな」
微かに目を開けると、声にならないくらい微かな声で鳴いたのだった。それはまるで、母猫に子猫が甘える時にだすサイレントニャーのようだった。
その時ーー。
彼方から突然、風を纏った大剣がちょうどいた場所を射抜かんとんとする勢いで飛んできた。
ギリギリで避ける。今居たところは大剣が突き刺さっていた。あのままそこにいたら間違いなく死んでいただろう。
くそ、こっちにはけが人がいるっていうのに。
猫を影に戻し大剣の持ち主を探す。
猫耳響覇!
360°全方位の地図が頭で作られていく。
どこだ......いた、後ろだ!
猫足瞬歩!
瞬間的に対面に位置取り距離をとる、相手の全体像をとらえるとそこにいたのはライオンだった。
姿を現した瞬間、大地に漂う空気が一変した。その体は鋼のように引き締まり、金色のたてがみは太陽の光を受けて炎のように揺れている。彼の姿はまるで王者そのもので、野性と威厳が混ざり合い、見る者すべてを圧倒する迫力を放っていた。
鋭い瞳はまるで何も見逃さないかのように光り、敵を射抜くような鋭さを持つ。その目に映るのは、恐怖ではなく、自分を信じる強さと絶対的な覚悟。鼻息が荒々しく地面に響き、爪を軽く地面に食い込ませるその仕草だけでも、彼の圧倒的な力が伝わってくる。
彼の体には戦いの痕跡が刻まれていた。筋肉の上を走る無数の傷跡、それぞれが数多の戦いを経てきた証だ。だが、彼はその傷を誇るかのように堂々とした姿勢を崩さない。彼の歩みは一歩一歩が重く、地面が振動するかのような感覚を覚えさせた。
彼が吼えると、それはまるで雷鳴のように周囲を揺るがし、森の奥まで響き渡った。敵対する者たちはその声だけで怯え、後退する。彼はただ戦うだけではない。彼の存在そのものが、仲間には勇気を、敵には恐怖を与える。
ライオンの戦士はただの獣ではない。彼は知恵を持ち、戦略を駆使し、戦いに挑む。その背中には仲間を守るという揺るぎない誓いが刻まれ、たてがみには戦士としての誇りが輝いている。彼が立つその場こそが、最後の砦であり、決して敗北を許さない場所、そんな印象を受けた。
「これは、勝てる気がしない......」
絶体絶命である。




