騎竜レース エクストラランク
観客席から熱い視線を一身に浴びながら、二人の冒険者とその竜がスタートラインに立つ。
彼らは冒険者ギルドにおいて最上位に君臨する「キングランク」に属する者たち。その名は広く知られ、同じ冒険者たちの憧れと目標の象徴となっていた。
ひと際背が高く、鋭い目つきを持つアラン・ヴァルトシュタイン。彼はまだ若いが、キングランクに昇り詰めたその実力は誰もが認めるところだ。
アランの冒険者としてのキャリアは、17歳の時に最初の迷宮を攻略したことから始まる。以来、難攻不落と言われた巨大迷宮や未踏の竜の巣をいくつも攻略し、常に光のように駆け抜けてきた。その姿は、「光を導く者」の異名にふさわしい。
彼の相棒であるルミナスフレアは、光炎竜の中でも特に希少とされる個体だ。その黄金の鱗は太陽の光を反射し、飛行時には燃え上がるような光を放つ。その速さと力強さは類を見ないものであり、アランとの絆は深く、彼らのレースにおける戦術は「完全な一体」と評される。
アランは静かにルミナスフレアの首元を撫でながら囁く。
「今日も頼むぞ、相棒」
その声には揺るぎない信頼と、これまで築き上げてきた年月の重みが感じられた。
スタートラインのもう一方には、毅然とした態度で立つ女性騎士、イザベラ・ローレンスがいる。彼女は元軍の指揮官として戦場を駆け抜けた過去を持つ異例の冒険者だ。その後ギルドに加入し、任務を成功させ続けた彼女は、冒険者としてキングランクへと上り詰めた。
「嵐を越える翼」と称されるイザベラの相棒は、嵐炎竜ヴェルドレイザー。黒銀の鱗に包まれたその姿は、見る者に圧倒的な威圧感を与える。竜が繰り出す嵐のような旋回攻撃や、爆発的な推進力は、どれを取っても唯一無二の力を持つ。
イザベラはヴェルドレイザーの額に手を置き、目を合わせて微笑む。
「私たちの全力を見せる時よ。行きましょう、ヴェルドレイザー」
その声は穏やかだが、確かな意志を感じさせた。
観客席でその様子を見守る。
「キングランクの冒険者が競う場に立てるのは、ほんの一握りの存在だけです。主、いつか貴方もこの舞台に立つ日が来るかもしれませんね」
にゃんまるが静かに語りかける。
少し緊張した表情で頷きながらも、目を輝かせてその姿を見つめていた。アランとイザベラ、そして彼らの竜。その全てが、自分にとっての目標となり得る存在だと感じたのだ。
こうして、エクストラランクのレースは始まる。全てを賭けた冒険者たちの戦いに、観客たちの期待と興奮が最高潮に達していた。
スタートの合図が響き渡ると、ルミナスフレアとヴェルドレイザーが同時に地を蹴り、空高く舞い上がった。その瞬間、観客席から大歓声が沸き起こる。
「いよいよ始まりました。エクストラランクの第一ステージ、風の迷路です!」
解説者の声が会場全体に響き渡る中、二頭の竜とその騎士たちは第一ステージへと突入していった。
風の迷路は、高さ数十メートルの巨大な岩柱が入り組んだ空間に作られている。さらに、風向きが絶えず変化する特殊な地形で、操縦技術が極めて重要だ。このステージでは、ルート選びと竜を巧みに操る能力が勝敗を大きく左右する。
アランとルミナスフレアは、スタート直後から最短ルートを狙う戦術を取った。ルミナスフレアの黄金の鱗が風の中で輝き、その動きはまるで舞う蝶のように軽やかだ。
「岩柱の間隔は狭いが、ここなら一気に抜けられる!」
アランは的確にルートを選び、竜のスピードを調整しながら次々と障害物をクリアしていく。強風が吹き付ける中、ルミナスフレアはその俊敏さを活かし、まるで風と戯れるかのように滑らかに飛行を続けた。
観客席ではその見事な操縦技術に息を飲む声が上がる。
「すごい…まるで風を味方につけているみたい」
その華麗な動きに目を奪われていた。
一方、イザベラとヴェルドレイザーは、全く異なるアプローチを見せた。ルートの選択は岩柱を避けるのではなく、強引に突破するものだった。
「ヴェルドレイザー、嵐を起こすわよ」
イザベラの指示に応じ、ヴェルドレイザーが咆哮を上げる。その瞬間、竜の周囲に強力な風圧が生まれ、岩柱を揺るがす。風の勢いで倒れた岩が障害物を押しのけ、道を切り開く。
「力技で突破か…さすがですね」
にゃんまるが感心したように呟く。
イザベラは揺れ動く岩柱の間を冷静に進みながら、後続のアランとルミナスフレアを牽制するため、岩の破片を故意に飛ばすような動きを見せた。
迷路の中盤、両者の距離が縮まり、激しい競り合いが始まった。
アランは岩柱の隙間を鋭く抜けながら加速する。風圧を物ともせず、最短ルートを狙う動きに観客から驚きの声が上がる。
「さすがだな、ルミナスフレア。このまま一気に抜けるぞ!」
その一方で、イザベラはヴェルドレイザーの力強い飛行を駆使して、少しずつ差を詰めていた。
「嵐炎竜の本領発揮だわ。この程度の障害なら問題ない!」
イザベラは自信満々の声を上げ、ヴェルドレイザーをさらに加速させる。その勢いで岩柱を吹き飛ばし、アランとルミナスフレアの進路に妨害を仕掛けた。
「邪魔をする気か…だが、そうはいかない!」
アランは即座に反応し、ルミナスフレアを急旋回させて障害を避ける。その動きは完璧で、一瞬のロスもない。
迷路の出口が見えてくると、両者はほぼ並んだ状態に。風圧と岩柱の影響で、どちらが先に抜け出すか全く予想がつかない。
アランは冷静にルートを修正し、最後の障害物を一気に越えるべく指示を送る。
「全速力だ、ルミナスフレア!」
イザベラも負けじとヴェルドレイザーを全力で駆り立てる。
「ここで決めるわよ、ヴェルドレイザー!」
観客席は大歓声に包まれ、主とにゃんまるも息を飲みながら見守る中、ついに両者が迷路を抜けた。その瞬間、どちらが先行しているのかはわからないほどの僅差だった。
「これでまだ第一ステージとは…すごい戦いですね」
にゃんまるが感嘆の声を漏らす。興奮した面持ちで頷き、次のステージに向けて期待を膨らませていた。
第一ステージが終了し、二頭の竜とその騎士たちは次なる舞台へと向かう。熱気に包まれた会場では、まだまだ興奮の渦が収まる気配はなかった。
第一ステージを抜けた二頭の竜と騎士は、わずかな休む間もなく第二ステージ「雷雲の谷」へと突入する。このステージは、広大な空間に漂う無数の雷雲をくぐり抜けながら進む危険なエリアだ。雷雲は突発的に稲妻を落とし、その威力は竜ですらダメージを受けるほど強力だ。
また、風の乱れや視界の悪さも加わり、操縦ミスが命取りになる。ここでは竜の耐久力と騎士の迅速な判断力が試される。
雷雲のエリアに突入した瞬間、大きな稲妻がルミナスフレアとアランを襲った。だが、その時、ルミナスフレアの黄金の鱗が眩い光を放ち、稲妻を弾き返した。
「光の盾だ…!」
観客席から歓声が上がる。ルミナスフレアの特殊能力で、体内から発する光のエネルギーが自然界の雷を中和することができるのだ。
「この力を活かして進むぞ、ルミナスフレア!」
アランは冷静に雷雲の隙間を見極めながら、安定した飛行を維持する。障害物を回避しつつ、最短ルートを進む彼らの動きには無駄がなかった。
光の輝きが稲妻を次々と弾き返す様子に、目を輝かせて呟いた。
「本当にすごい…ルミナスフレアの力、こんな場所でこんなに活きるなんて」
にゃんまるも頷きながら、冷静に観察を続けていた。
「アラン殿の判断力があってこそ、この能力が最大限に引き出されていますね」
一方、イザベラとヴェルドレイザーは全く異なるアプローチを見せていた。ヴェルドレイザーは嵐を操る力を持っており、雷雲の中でその能力を存分に発揮していた。
「雷を私たちの力に変えるわよ、ヴェルドレイザー!」
イザベラがそう叫ぶと、ヴェルドレイザーは大きな咆哮を上げ、雷雲から放たれる稲妻をその巨大な翼で受け止めた。稲妻は彼の体内に吸収され、エネルギーとして変換される。
「雷を力に変えるだなんて…!」
観客席が再び湧き上がる。ヴェルドレイザーの力強い飛行と荒々しい姿は、見る者すべてを魅了していた。
イザベラは、雷雲の中で敵を利用するように進む。彼女の判断力と大胆さは見事であり、ヴェルドレイザーとの信頼関係が伺える。
「ルミナスフレアを追い抜くわよ!」
イザベラの声に応じ、ヴェルドレイザーはさらに加速。嵐を切り裂くように、雷雲の中を突き進んだ。
第二ステージの終盤、ルミナスフレアとヴェルドレイザーが再び並ぶ形となった。激しい雷鳴と稲妻が二頭を包み込む中、それぞれの力がぶつかり合うような接戦が続く。
ルミナスフレアは光の力を存分に発揮し、どんな雷雲も恐れず前進する。アランの指示で滑らかに進路を変え、雷雲の隙間を縫うように飛行する姿は圧巻だった。
対してヴェルドレイザーは、雷雲の力をその身に吸収しながら加速を続ける。その迫力とスピードは観客の心を掴んで離さない。
「どっちが勝つんだ…!」
観客席から興奮した声が上がる中、二頭の竜と騎士たちはついに雷雲の谷を抜けた。
雷雲を抜けた瞬間、再び二頭はほぼ同じ位置に並んでいた。その僅差に会場は大きなざわめきと歓声に包まれる。
「すごい…あの雷雲の中でこんな戦いが見られるなんて」
感嘆の声を漏らし、にゃんまるも満足そうに頷く。
「どちらも実力が拮抗している。これほどの接戦は滅多に見られませんね」
第二ステージが終わり、いよいよ次は最終ステージ「空中浮島」だ。観客たちはさらに高まる期待感を胸に、二頭の竜と騎士たちの行く先を見守っていた。




