騎竜品評会
飛空挺から降りて、馬車で数分移動した後すこしあるくと石畳が見えてきた。石畳の広場を抜けると、目の前には壮麗な門がそびえていた。金色の縁取りが施された巨大なアーチ型の入口は、竜を象った彫刻で彩られている。門の頂点には二匹の竜が空を舞うような姿が彫り込まれ、その翼のラインには微細な細工が施され、光を受けて輝いていた。
周囲は見物人や冒険者たちで溢れており、賑やかな声が辺り一面に広がる。近くの露店では竜に関連したアクセサリーや食べ物が売られ、甘い香りと香ばしい匂いが入り混じる。門の前には二体の石造りの騎竜が立ち並び、その威風堂々たる姿は品評会の格式高さを象徴していた。
門を守る衛兵たちは鎧を纏い、その背には竜を模した旗が揺れている。鋭い目つきで訪れる者を見渡しながらも、時折穏やかな表情で人々を迎えていた。門の向こうからは低い竜の咆哮が響き、空には騎竜が舞う姿が時折見える。
「ここが品評会の入口か……」
一歩踏み出し、門を見上げながらその壮麗さに圧倒されつつも、不思議と胸の高鳴りを感じていた。
門をくぐると、視界に飛び込んできたのは、広大な会場だった。砂地の広場が広がり、中央には競技場のような円形の演壇が設置されている。そこでは既に一匹の騎竜が披露されており、その美しい鱗が太陽の光を受けて輝いていた。観客席には様々な人種や種族が座っており、歓声と拍手が絶え間なく響いている。
広場の周囲には、騎竜を連れた参加者たちがテントを張り、それぞれの竜を手入れしていた。竜はその種類も大きさも様々で、威厳に満ちた巨大な竜から、愛らしい小型の竜までが集まっていた。鮮やかな赤い鱗を持つ竜、青白い輝きを放つ氷竜、草原の風を纏ったような緑の竜……そのどれもが唯一無二の存在感を放ち、会場全体に華やかな雰囲気を漂わせている。
「見事な光景だな……」
しばしその壮観に目を奪われた。すれ違う人々の会話から、今回の品評会が近年稀に見る規模だということを知る。各地から名だたる騎竜使いが集まり、頂点を競い合う場だという噂に、期待と緊張がない交ぜになった。
ふと、にゃんまるが
「いつきても騎竜品評会はわくわくしますね」
と声をかけてきた。軽く笑って頷き激しく同意する。
「圧倒される」
騎竜の品評会の会場に到着し、列に並ぶ参加者たちを横目に、ひとまず見学者として入場することを決めた。
「竜は持ってないのでこちらですね」
苦笑いを浮かべながら、受付近くの案内板を見上げる。参加者用と見学者用で別々の入り口が設けられており、自分たちは後者に向かうことになった。
会場内は活気に満ちていた。広大な草地が整備され、いくつもの騎竜が優雅に歩き回っている。それぞれの竜には美しい装飾が施され、鱗が陽光を反射して輝いていた。観客席やテントが設けられ、多くの人々が騎竜の品評会を見物している。
「……見渡す限り、凄い竜ばかりだな」
目を見張りながら、迫力ある竜たちに圧倒されていた。その一方で、自分が持たない竜に対する一抹の羨望も感じていた。
「ここにいる連中は、みんな竜を持ってるってわけですからね」
にゃんまるが感心したように呟く。
「こうして見るだけでも十分だよ」
自分に言い聞かせるようにそう答えたが、その視線はどうしても参加者たちが誇らしげに竜を披露する様子に向けられていた。
少し歩くと、ステージ中央では騎竜たちが次々と披露されていた。豪華な鞍をつけた竜が優雅に歩き、観客たちが拍手を送る。その姿に、ふと自分の中で湧き上がる感情に気づいた。
「ああいう竜を手に入れることができないかなあ」
「可能性はゼロじゃないですよ。運命というのは、いつ何を運んでくるかわかりませんからね」
にゃんまるがそう言って、ひげをなでた。その様子を見て、少し気が楽になった気がした。
見学を進める中で、ふと足が止まった。遠くの片隅に、一際異様な空気を纏った竜が目に入った。ほかの竜たちとは異なり、周囲に人影もなく、ただ静かに佇んでいる。
「……あの竜、なんだ?」
「見に行ってみますか?」
にゃんまるの提案にき、その竜に近づいていく。
黒曜石のような鱗を持つ竜が、他の竜たちと少し離れて、静かに佇んでいる。
「主、お気をつけて」
にゃんまるは再び警戒を強め、声をかけた。にゃんまるの言葉に一瞬躊躇したが、すぐにその竜に目を戻した。その竜の姿は威厳があり、力強さを感じさせるものだった。しかし、何かが違う。何かが足りないような気がした。
「どうして、この竜は他の竜たちと離れているんだろう?」
少し考えながら呟いた。
「その竜には、何か問題があるようです」
にゃんまるが竜を見つめながら静かに答える。
「運ばれてきた途中で、何かしらのトラブルがあったのでしょう。売り物にもならず、そのまま置かれてしまったのかもしれません」
その言葉を聞いて、竜に対してより一層の興味を抱いた。見た目には全く問題のない、むしろ他の竜よりも美しいその竜が、なぜ放置されているのか。それには何か深い理由があるに違いない。
「でも、どうしてこんなに静かなんだ?」
竜の瞳をじっと見つめながら問いかけた。竜は視線を受け止め、じっと黙ってその場に佇んでいる。その目には、疲れたような、どこか諦めにも似たものが浮かんでいた。
「試されているような気がする」
思わず呟いた。
「でも、どうしてこんな状況に?」
その時、にゃんまるが言った。
「主、この竜は本来ならば、とても強いはずです。しかし、何かがあって力を失ったように見えます。その原因はわかりませんが、恐らく身体的な問題か、精神的なものかもしれません」
その言葉にうなずきながら、再度竜を見つめた。自分の目の前にいるこの竜が、どんな事情を抱えているのか。その深い眼差しからは、確かに何かが隠されているように感じられる。
「この竜も、きっと…何かを求めているんだ」
心の中で感じた。
「この品評会で、ただ置かれるだけではなく、何かを伝えたいんだろう」
静かに竜の前に歩み寄った。再びその目を見つめると、どこかで共鳴するようなものが心の中に湧き上がった。嵐竜と共にそらを駆け抜けた時のことを思い出す。あの時も、共に駆け抜けた風の中で、竜との絆が深まっていった。
「お前も、何か試されているのか?」
竜は答えず、ただその目で見つめ続けた。その沈黙が、何かを語りかけているような気がした。ゆっくりと息を吸い込み、竜の前で足を止めた。今、この竜とどう向き合うべきか、その答えを探しているかのように。
にゃんまるは静かにその様子を見守りながら、何も言わずに立っていた。
「まずはこの竜の所有者を探そう、話を詳しく聞いてみたい」
とはいったもののそれらしき商人はいなさそう。どやって探したものか......。うーんとその場で悩んでいるとふと後ろから声をかけられた。
「失礼、当家の竜に何かごようでしょうか?」
振り返るとそこには燕尾服を着た初老の男性がたっていた。執事といえばしっくり来るような雰囲気の男でその物腰はやわらかい。
「おや、あなたは」
どうやらにゃんまるの知り合いだったらしい。にゃんまるは顔も広いのである。




