空の旅2
嵐竜はまるで嵐そのものが具現化したような姿をしていた。アルドレン竜牧場で見た嵐竜よりもその体は倍の大きさだった。その巨大な体躯は漆黒と群青の鱗に覆われ、鱗の隙間から稲妻が走るように光が漏れ出ている。頭部には鋭い角が二本突き出し、雷雲をかき分けるように輝いていた。目は灼熱の雷光を宿しており、見る者の心を射抜くような威圧感を放っている。
竜の翼はまるで空そのものを裂いたように大きく、翼を広げるたびに嵐の風が巻き起こる。翼膜には無数の雷の痕跡が走っており、そこから小さな稲妻が絶え間なく放たれていた。尾は長く鋭利で、揺れるたびに空気を切り裂き、雷鳴を呼び寄せていた。
全身から溢れる魔力が竜を中心に渦を巻き、周囲には絶えず雷雲が形成されている。その姿は畏怖と神秘を同時に抱かせるもので、ただ立ち尽くして見上げるだけで、その力に飲み込まれそうな感覚を覚えた。
竜が大きな咆哮を上げると、その声は天地を震わせ、周囲に閃光と雷鳴を伴う嵐を生み出す。
嵐竜が荒れ狂う原因は、何者かによってその領域に封印された魔法装置「天雷の楔」にあった。それは、強大な竜の力を抑え込むために設置された古代の遺物だった。しかし、その楔は時を経て力を暴走させ、嵐竜の怒りを引き出していたのだ。
飛空挺が嵐の中心に近づくと、巨大な竜の影が見えた。その全身を纏う雷と嵐が、空を引き裂くように轟き渡る。だが、その目にはただの怒り以上に、苦痛の色が宿っていた。
「なんだ、あれは……!」
竜の周囲に浮かぶ異様な光を見つける。それは、渦巻く雷雲の中に埋め込まれた六つの光る楔だった。
「もしかして、あれが原因か?」
にゃんまるに問いかけると、にゃんまるは険しい表情で頷く。
「天雷の楔です。古代の魔法装置で、竜の力を抑えるために作られたものですが、暴走すれば逆に対象を苦しめる」
にゃんまるの言葉に、竜が荒れている理由を理解した。
飛空挺の船長に指示を出す。
「船を竜の近くに寄せてくれ!」
「ばかいってんじゃねえ!正気か!? あんな嵐の中に飛び込むなんて!」
嵐竜が飛空挺に気づき、咆哮を上げた。
「くそっ、あれを……!なんとか破壊する方法を見つけないと」
遠距離攻撃での破壊をしようにもその術がない。しかしこのままでは飛空挺も持たないだろう。やるしかない。
猫耳響覇!
天雷の楔が六つ。あれを壊せば恐らく落ち着くだろう。嵐竜の怒りの中心――天雷の楔――は、空に突き刺さる雷光そのものだった。まるで天空の神が投げた槍のように、黒雲の中心から地上へと光の柱が降り注いでいる。その柱の根元からは、嵐のすべてが溢れ出ており、竜の力そのものと直結しているようだった。
飛空挺の甲板に立ち、手にした1対のナイトクローを握りしめる。その刃先にはすでに魔力が込められ、猫を模したエフェクトが青白い光となって浮かび上がっていた。
「届くかどうかじゃない、届かせる!」
深く息を吸い、片膝をついて集中する。目を閉じると、全身に流れる魔力を感じ取り、それをナイトクローに込めていく。頭の中で戦略を描く。
それを見ていたにゃんまるが意図を汲み取り周囲に雨と風を弱める結界を張ってくれた。これで集中できる。
猫鏡写姿!
周囲に、魔力で形成された二体の分身が現れる。分身たちも同様にダガーを構え、同じ動作で力を溜め始める。まるで呼応するかのように、天雷の楔がさらに強烈な雷光を放ち、空気が震えた。
分身とともに一斉にナイトクローを投げた。それぞれのダガーは魔力の軌跡を描きながら空を切り裂いていく。猫の形をしたエフェクトがその軌道を追い、雷光を砕く爪のような姿を現した。
「いっけえええ!」
ダガーは楔に触れると同時に爆発的な魔力を放ち、まるで猫が獲物に飛びかかるような一撃を繰り出した。突き刺さるナイトクローに周囲の雷鳴が落ち爆発的な破壊力を生み出す。瞬間、大きな轟音とともに楔が砕け散り、周囲の雷雲が一気に収束していく。
空は次第に晴れ、嵐竜の激しい咆哮も静まり始めた。楔の破壊によって、嵐竜の力が制御される兆しが見えたのだ。
「やった……これで少しは落ち着くはずだ……!」
嵐竜の周囲を取り巻いていた雷と嵐が徐々に収まっていった。
嵐が静まり、竜は荒れ狂う動きを止めた。巨大な目で見下ろす。その目には、怒りではなく感謝の色が宿っていた。
「これでよかったのか……?」
呟くと、竜は静かに頷き、彼らに道を譲るように空を飛び去っていった。その背中に見えたのは、解放された自由と安堵の色だった。
嵐竜が消えた空には、晴れ渡る青空と、嵐の後の静けさが広がっていた。飛空挺にいた乗員は歓声をあげる。
嵐竜の力なのかナイトクローがふわりふわりとゆっくり手元に戻ってくる。手に戻ったナイトクローは、かつての輝きを失っていた。戦闘前は、漆黒の刃面に微かに走る青白い光が猫の爪を思わせる優雅なものだったが、今やその刃には深い亀裂がいくつも刻まれ、鋭利だった先端は欠けてしまっている。
柄の部分も無傷ではなかった。丁寧に彫られていた猫の意匠は雷の熱と衝撃で黒く焦げ付き、握るたびに細かい破片がこぼれ落ちそうだ。
「……ひどいな」
片方のナイトクローを手に取り、目の高さでじっと見つめた。表面には焼け焦げた跡がまだ残り、刃がまるで何度も火の中に突っ込まれたかのように歪んでいる。それでも、辛うじて形を保っているのは、ナイトクローに宿る魔力のおかげだろう。
魔力の軌跡を描くはずのエフェクトは、もはやほとんど見えない。時折、刃先から弱々しく青い光が弾けるが、それは長い戦いを経た武器の息遣いのようにか細いものだった。
「ナイトクローが......にゃんまるごめん」
にゃんまるはゆっくり首を振った。
「結果、みな助かったのだがらよいのです」
ゆっくりとそれを鞘に収めた。たとえその刃がボロボロになっても、数々の戦いを共に乗り越えてきた相棒であることに変わりはない。戦いの傷跡を宿したその姿は、苦難の末に成長し続ける自分自身を映し出しているようだった。
ふと、もうひとつ何かふわりと手元に落ちてくる。
にゃんまるが教えてくれる。
「これは嵐竜爪の結晶片ですね」
嵐竜の「竜爪の結晶片」が落ちてきた。
これは嵐竜の爪が砕けた際に発生する稀少な結晶で、天雷を宿した不思議な輝きを持っている。結晶片は手のひらに収まるほどの大きさで、青白い光が内部を流れるように揺らめいており、触れると微かな暖かさと静電気のような刺激が感じられる。
この結晶は竜の魔力が凝縮されたものとして知られており、武器の強化や魔法の触媒として極めて高い価値を持つ。しかし、それ以上に、この結晶片を所有する者は竜の意志に触れることができると言われており、特に嵐竜との絆を深める鍵となる可能性がある。
それを手にした時遠くから低い唸り声が聞こえる。まるで結晶を通じて嵐竜が語りかけてくるような、不思議な感覚が包んだ。
騒動の後部屋に戻り到着後の行動をにゃんまると話しつつゆっくり空の旅を過ごした。まもなく到着のアナウンスが流れる。荷物をまとめ出発の準備をする。いよいよだ。わくわくがとまらない!
《 猫飛爪撃を獲得しました。鋭い爪を持つ猫の幻影となって宙を駆け抜ける。幻影の猫は空中で軽やかに跳び、爪で引っ掻くように敵を切り裂きながら、ダガー本体とともに命中する。その残光は、鋭い爪痕を象った軌跡となり、敵に深い傷を刻む。》
《 雷魔法を獲得しました。》




