騎乗部はとってもひろい
昼食をすませ騎乗部へ来ました。
丘の斜面に建てられたその小屋は、一見すると質素な厩舎のようだが、近づくとすぐにそれが特別な場所であることがわかる。巨大な木材で頑丈に組まれたフレーム、強化された石の基礎、そして竜の爪や翼の衝撃にも耐える魔法の補強が施されている。これが、レース竜たちが待機するための専用小屋だ。
小屋の入り口には、レースのエンブレムが刻まれた鉄製のゲートがあり、普段は厳重に施錠されている。その先には広々とした通路が続き、左右には竜ごとに区分けされたスペースが整然と並んでいる。
各区画は広く、天井は竜が立ち上がった状態でも余裕を持てるほどの高さがある。床は柔らかな砂と草で覆われており、竜が爪を休めたり横たわったりできるよう配慮されている。また、スペースにはそれぞれ異なる環境が作り出されているのも特徴だ。
例えば、火竜用の区画には冷却魔法が施され、熱を放つ火竜の体温を調整できるようになっている。一方で、氷竜用のスペースには魔法で作られた薄氷が敷かれ、心地よい冷気が漂っている。
各スペースの隅には大きな水槽と飼料が用意されている。水槽には新鮮な水と魔法で栄養強化された果実が浮かび、飼料はその竜に合わせた特製の配合がされている。食事をとる竜たちは落ち着いた様子で、それぞれの区画で静かに過ごしている。
待機小屋の中央には大きな炉が据えられており、周囲には訓練士や竜使いたちが集まるためのスペースが設けられている。炉からはほのかな暖かさが広がり、人と竜が共に過ごす空間を作り出している。
小屋全体に漂うのは、竜特有の濃厚な気配。火竜の燻されたような香り、風竜の爽やかな草の匂い、そして氷竜の涼しげな空気感。それぞれが混ざり合いながらも不思議と調和している。
窓の外を見ると、レースのスタート地点が見渡せるようになっており、小屋の中にいてもその高揚感を感じ取れる。訓練士たちは竜の鱗や翼を最終チェックしながら、それぞれの竜に言葉をかけていた。
待機小屋は全体として静かだが、その静けさの中にはどこか緊張感が漂っている。竜たちもまた、それを察しているのか、普段より落ち着いた表情で息を潜めているように見える。
特に、レース直前になると竜たちの動きは少しずつ変化する。翼を広げて風を感じる風竜、地面を軽く掻いて体を温める地竜、時折火を噴き出して自らの力を試す火竜。それぞれが、自分の力を発揮する時を待ちわびているのだ。
そんな中、外からレース開始の鐘が響くと、竜たちは一斉に目を輝かせた。その瞬間、小屋全体に熱気が広がり、待機小屋はただの厩舎ではなく、戦場へ向かう戦士たちの控室のように見えた。
待機小屋の一角には、ひときわ穏やかな雰囲気を醸し出している区画がある。そこにいるのは、レースには参加せず、訪問者が騎乗体験を楽しむために用意された竜たちだ。これらの竜は、特別な訓練を受け、人間との信頼関係を築いた「パートナードラゴン」と呼ばれる存在だ。
このエリアは他のレース竜用の区画よりもやや開放的で、明るい光が差し込むように設計されている。竜たちは、体の大きさに合わせた木製の鞍を装着しており、初心者でも安全に騎乗できるよう工夫されている。鞍には魔法が施されており、落下防止の保護フィールドが展開される仕組みだ。
竜たちの種類も豊富で、初めての人でも扱いやすい小型の風竜や、のんびりと歩く地竜、さらには短時間だけ滑空を体験できる翼竜がいる。竜たちはどれも穏やかな性格で、時折、訪問者に興味深そうな目を向けては鼻先を伸ばし、挨拶をしている。
一人の子供が緊張した面持ちで小型の風竜に近づくと、その竜は低く身を伏せ、乗りやすいように体勢を整えた。スタッフが優しく手を貸しながら鞍に乗ると、竜はゆっくりと立ち上がる。その瞬間、子供の表情が驚きから歓喜へと変わった。
「怖くないよ。風竜の『ブリーズ』は、初めての人でも安心だから」
スタッフがそう声をかけると、竜は小さく鼻を鳴らして応える。やがて竜が静かに歩き始めると、鞍の上の子供は徐々にその感覚に慣れていった。
次に挑戦するのは若い女性で、彼女は滑空用の翼竜に乗ることを希望した。翼竜は体格が大きく、翼を広げると風が周囲に舞う。騎乗者を乗せた翼竜はゆっくりと走り出し、小屋の外にある特設滑走路へと向かう。勢いをつけて翼を広げると、ふわりと浮かび上がり、短い距離を滑空した。女性の歓声が空に響き、小屋に戻ってきたときには、その顔には満面の笑みが浮かんでいた。
この騎乗体験,,は、竜と人との絆を深める特別な時間だ。ただ背中に乗るだけではなく、竜の動きを感じ、呼吸を合わせることで、竜たちがどれほど知性と優しさを持った生き物かを理解できる。
騎乗体験用の竜たちは、レースの緊張感とは異なる穏やかな空気を小屋に運び込み、訪問者たちに忘れられない思い出を与えている。そして、誰もがこう思わずにはいられないのだ――「また、この竜たちに会いたい」と。
木製の門をくぐり、石畳の小道を進むと、視界に飛び込んでくるのは受付小屋だ。建物は丸みを帯びた独特の形状をしており、竜の卵を模したデザインが目を引く。屋根には小さな風見鶏のような装飾が取り付けられているが、よく見るとそれは竜をかたどったもので、風に吹かれるたびに優雅に回転している。
受付の正面には大きな窓が設けられており、カウンター越しに中の様子が見える。窓の上には「竜牧場へようこそ」と書かれた木の看板が掲げられており、周囲には可愛らしい竜のイラストが描かれている。これらは牧場を訪れる子供たちを楽しませるための工夫だろう。
建物の中に一歩足を踏み入れると、温かな木の香りに包まれる。内装はシンプルながらも、竜に関連する装飾が随所に施されている。壁には様々な竜種のイラストや写真が飾られ、それぞれの特徴が分かりやすく説明されている。
カウンターの上には、小さな竜の置物が並べられており、それぞれが手描きのペイントで彩られている。来場者の多くは、受付を済ませる前にこれらの置物に見入ってしまう。中でも、火竜を模した赤い置物は特に人気で、多くの人が手に取ってその細部を確かめている。
カウンターの後ろには、竜牧場のスタッフが笑顔で立っている。彼らは竜に関する知識を豊富に持っており、訪問者が何を期待しているかを察して、的確に案内をしてくれる。
「ようこそ、竜牧場へ!今日はどの体験をご希望ですか?」
スタッフは優しい声で話しかけながら、パンフレットを広げて説明を始める。パンフレットには騎乗体験やレース観戦、さらには竜の餌やり体験など、多彩なアクティビティが紹介されている。
訪問者が迷っている様子を見せると、スタッフは親切におすすめを提案する。特に初めての人には、小型の竜と触れ合える「ふれあいタイム」を勧めることが多い。
受付には竜が鼻を鳴らすような音が遠くから聞こえてくることがあり、それが訪問者の期待感を高める。時折、窓の外を巨大な翼を広げた竜が飛び去る姿が見えることもある。その度に子供たちは歓声を上げ、大人たちはカメラを構える。
竜牧場の受付は、単なる手続きの場所ではない。訪問者が牧場の世界に足を踏み入れるための入り口であり、その第一歩から非日常の冒険が始まる場所なのだ。
風景をたくさん考えてたら話が進みませんでした。




