竜と人と警報と
エルムレイン王国の歴史を紐解くと、そこには竜と人間の共存の物語が刻まれている。その象徴ともいえるのが、「竜種のレース」だ。この競技は、単なる娯楽にとどまらない。竜の力を称え、人と竜の絆を示す神聖な儀式であり、地域の誇りと名誉がかかった大競技でもある。
遥か昔、まだ竜が天空の覇者として君臨し、人々が竜を神と崇めていた時代があった。当時の竜は人間に対して厳しく、共に生きることなど想像もされていなかった。しかし、一人の旅人が竜に命を救われたという伝説が、この関係を変えるきっかけとなる。
その旅人は竜の持つ威厳と優しさに感銘を受け、人間が竜に頼るだけでなく、共に生きる道を模索するべきだと説いた。竜と人との最初の交流は慎重に進められたが、少しずつ互いの信頼が築かれていった。そして、竜の力を活かしつつ、その尊厳を損なわない形で行われたのが、初めての「竜種のレース」だった。
古い文献には、最初のレースが「第一の炎の祭典」として記されている。約1500年前、エルムレインの草原で行われたその競技には、火竜と砂竜の2匹が参加したとされる。参加者はただ速さを競うだけでなく、竜の特性や能力を最大限に引き出すことが求められた。このレースは王国中に評判を呼び、以後、竜と人間の関係を象徴する儀式として毎年開催されるようになった。
中世に入ると、竜種のレースはエルムレイン王国の文化として定着する。貴族や王族が自らの竜を育て、名誉をかけて競い合うようになった。特に、800年前に創設された「炎翼杯」は、竜種のレースの中でも最も権威ある大会として知られている。炎翼杯の舞台となるのは、王国全土から選ばれた壮大なコースだ。険しい山岳地帯や、灼熱の火山エリア、果ては空中に浮かぶリングまで、竜と騎手の絆と技術が試される。
当時、炎翼杯の勝者には「竜使いの王」という称号が与えられ、王国中の尊敬を一身に受けることができた。それゆえ、競技は時に過酷な争いを招くこともあった。だが、それでも竜と人が共に挑む姿は多くの人々を魅了し、王国の絆を深める原動力となった。
近代に入り、竜種のレースはさらなる進化を遂げた。技術の発展と魔法の普及により、竜の訓練方法が多様化し、レースのコースも一層複雑で華やかなものとなった。また、他国との文化交流が進む中、300年前には「多国間レース」が誕生。エルムレイン王国のみならず、他国からも竜と騎手が集まり、国際的な規模で競技が行われるようになった。
現在では、「竜王杯」が七大国の共同開催によって行われている。この大会は、参加者と観客を合わせて数十万人が集う一大イベントだ。竜と人が共に過ごした歴史を振り返り、新たな物語を紡ぎ出す場でもある。
竜種のレースは、単なる速さを競う競技ではない。そこには竜と人間の信頼と協力が求められる。それぞれの特性を活かし、困難なコースをともに乗り越えるその姿は、見ている者に感動と興奮を与える。
「竜と人は、共に生きることで互いを高め合う存在だ」
かつての旅人の言葉が、エルムレイン王国の人々の心に今も深く刻まれている。そして竜種のレースは、竜と人が織りなす壮大な絆の物語を語り継ぐ舞台として、未来へと続いていく。
という歴史があるのが竜種のレースだ。
教えてにゃんまる先生その三が発動し竜種のレースに少しだけ理解が深まる。
今日はレースに出る出ないを置いておいて、レースにでるような竜種を見に来ている。分かりやすく言えば竜種の牧場みたいなものだろう。件の幼竜を預かる為の勉強も兼ねている。
霧の立ち込める丘を登りきると、広大な草原が目の前に広がった。その中央に位置するのが、「アルドレン竜牧場」。エルムレイン王国で最も古く、そして名高い竜の牧場だ。
朝焼けが牧場を照らし始めると、竜たちの姿が徐々に見えてきた。青々とした草原には、様々な種の竜がのびのびと過ごしている。小型の草食竜が群れをなして草を食み、大型の竜がゆったりと横たわっている。さらに奥には、翼を広げ、朝の風を感じながら羽ばたく練習をしていた。
牧場の入り口で立ち止まり、その光景をしばし見つめた。初めて竜牧場に訪れた者が抱くのは、大抵驚きと感動だ。そしてこの場面でも、それは例外ではなかった。
「ようこそ、アルドレン竜牧場へ!」
低く響く声が迎える。振り返ると、筋骨隆々の初老の男性が立っている。彼がこの牧場を管理するオルステッドだ。竜使いとしても名高い人物で、その腕には、幾多の竜を育て上げた証ともいえる古い傷跡が刻まれていた。
「ここが……竜を育てる場所なんですか?」
半信半疑の表情で周囲を見回す。草原の美しさとは対照的に、竜たちの荒々しい鳴き声が時折響く。それは威厳と恐れを感じさせる音だった。
「そうだとも。ここでは、卵から孵ったばかりの幼竜から、レースや戦いに出る精鋭まで、あらゆる竜が育てられている」
牧場主のオルステッドが指差す方向には、大きな囲いの中で遊ぶ幼竜たちの姿があった。生まれたばかりの火竜が翼を広げて飛ぼうとするが、うまくいかず地面に転がっている。その様子を見て、他の幼竜たちが興味深そうに近づいてきた。
「彼らはまだ練習中だな。飛ぶことも、炎を吐くことも、最初はうまくいかない。それでも、竜は本能と努力で少しずつ成長していく」
オルステッドは微笑みながら、近くの幼竜に手を差し出した。その仕草に驚きながらも、見つめる者の目には興味が宿る。幼竜は躊躇なくその手に鼻先を寄せる。その仕草はまるで猫が甘えるようだった。
「そんなに警戒するな。竜も、人間を信じればこうして心を開くものだ」
「本当に……竜が人間をこんなに信じるなんて」
その光景に見入っていたが、次の瞬間、牧場の奥から轟音が響いた。見ると、大型の地竜が二頭、力比べをしているらしい。互いの体をぶつけ合いながら、地面を踏みしめて吠え合っている。その迫力に思わず後ずさる。
「安心しろ。あれは遊びだ。本気で怒った竜は、もっと静かで、もっと恐ろしい」
オルステッドの言葉に、冷や汗を拭いながら頷いた。
その後、牧場の施設を案内される。卵を保管する「温室」、幼竜たちを育てるための「訓練場」、そして病気や怪我を負った竜を治療する「竜医療区画」。どこも活気に満ち、竜と人間が協力している様子が見て取れた。
「この牧場がなければ、エルムレインの竜使い文化は成り立たないだろうな」
オルステッドの誇らしげな言葉に、深く頷く。この牧場はただ竜を育てるだけの場所ではない。人と竜の絆を育み、未来を切り拓くための礎なのだ。
ふと、手を伸ばして近くの草食竜の背に触れてみた。温かく、力強い感触。竜という生き物が持つ生命の重さを、初めて実感した瞬間だった。
「竜を育てる……それはきっと、人間も育てられることなんだな」
竜と共に人生を歩む人々に触れ、新しい世界を知るのだった。にゃんまるも優しい眼差しで眺めている。優しく暖かい空間に心地よく触れているとそれは不意にかき消された。
ビービービービーWARNING......WARNING......
ビービービービーWARNING......WARNING......
けたたましく警報音が鳴り響く。
「何事だー!」
オルステッドの怒声が牧場に木霊する。




