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ドラゴンだあ!3

火竜をみていたにゃんまるがふと気づく。


「む、なにかおかしいですね」


その言葉を聞いて火竜をよく観察すると、かなり傷を負っていることに気付いた。

鱗は所々剥がれ落ち、露わになった皮膚は焼けただれ、裂けた跡からは黒く固まった血が筋を描いている。特に左の翼はひどく損傷していた。大きく裂けた膜は穴だらけで、まともに空を飛ぶことすら難しそうだった。その翼を引きずるたび、岩を砕くような音が響き、地面には彼の歩んできた痛みの痕跡が刻まれていく。


火竜の右目のその瞼には深い切り傷が走っている。一方で、赤黒く光るもう片方の目は、未だに鋭い輝きを宿していた。それは、痛みに耐えながらも生を諦めないという意思の光だった。


「傷だらけじゃないか」


にゃんまるは顎に手をあてて考える。


「火竜の討伐依頼はなかったはずです、もしかしたらこれは違法狩猟かもしれません。狙いはおそらくあの卵でしょう」


火竜の素材はその全てが余すことなく使えるという。爪や牙、鱗は武器や防具になり臓器は上級の薬に肉は超高級食材となる。そして卵はオークションにかければ生涯遊んで暮らせるほどの値がつくといわれている。故に、それを狙って違法に捕獲や狩猟などが行われる。


「にゃんまる、助けたい」


にゃんまるの目は言うと思いました、という目をしている。


「助けましょう」


まずは敵を知らないと、ということで入口まで引き返し周囲を見回す。武装した集団が上から火竜を襲おうとするところだった。


「やばい、火竜のところに戻ろう!」


急いで戻ると武装集団が火竜を襲っていた。一人一人は強くないが数で押している。徐々に火竜の体力が削られていく。卵を狙って向かっていくやつもいる。火竜もそれに気づき追いかけるが間に合わなそうだ。


猫ノ結界!


卵を中心に半透明の猫の頭の形をしたドームが作られる。猫鳴の髭の成果が出ている、なんとか結界を破ろうと攻撃をくわえているがビクともしない。

にゃんまるは火竜を襲っている集団を蹴散らす。


「火竜よ、まだ意識があるなら聞きなさい、我々があなたを助けます。諦めず力を尽くしなさい」


にゃんまるの言葉を聞いた火竜がゆっくりと頭を持ち上げると、周囲の空気がピリピリと震え始めた。深くえぐれた胸が上下し、まるで地鳴りのような音が喉奥から響いてくる。その瞬間、彼の体温がさらに高まり、周囲の空間が揺らぎ始めた。岩肌に染み込んだ湿気が一瞬で蒸発し、焦げた匂いが風に乗る。


火竜の口がゆっくりと開かれると、赤黒い炎が漏れ出し、その中に金色の火花が踊っていた。それはただの炎ではない。まるで生き物のように動き、力を溜め込むかのように渦巻いている。火竜の喉から低い唸り声が響き、それに呼応するようにその炎がさらに膨れ上がった。


そして、次の瞬間――。


咆哮と共に、火竜はその口から膨大な量の炎を放った。まるで火の川が溢れ出すかのような猛火が一直線に吐き出され、大気を焼き尽くす勢いで広がっていく。その熱は凄まじく、遠く離れていたにもかかわらず、肌が焼けるような感覚が襲いかかるほどだった。


炎はただ明るいだけではなかった。中心は白熱し、外縁は赤と橙、そして黒煙が渦を巻いて立ち上る。それは破壊そのものを具現化したかのような光景だった。地面に触れた炎が爆発的に広がり、岩を砕き、植物を瞬時に灰に変える。


火竜の炎は止むことなく吹き荒れ、大地を焼き焦がしていく。その光景は壮絶でありながらも、どこか神々しい威厳を放っていた。火竜の目が赤く輝き、まるで自分の力を誇示するかのように、その視線が全てを睥睨している。


ついに火竜が炎を吐き終えると、大地には灼熱の跡が残り、空気は焼けた鉄のような匂いで満たされていた。火竜は静かに息を吐き、口元から僅かな煙が漂う。


集団の六割が今ので灰となった。リーダーらしき男が撤収の合図を告げる。ここで逃したらまた襲ってくるだろう、逃がす訳には行かない。


猫耳響覇!


火竜と集団の動きが止まる。その隙をにゃんまるが斬り込むとあっという間に制圧してしまった。

全員を縛り上げると隅に置いておく。


火竜は卵を守るように身体を寝かせている。

このままでは火竜も危ういかもしれない。どうすればいいのかわからずにゃんまるを見る。


「主、猫鳴の髭は持っていますか?」


常にいつでも何処でも練習出来る様に持ち歩いている猫鳴の髭を取り出すと、にゃんまるは弾きなさいというジェスチャーをした。今求められているのは回復と安息。猫ノ結界と猫癒掌を同時に行うイメージだ。


心を落ち着かせて、弾く曲を思い浮かべる。弾きたいのは前世てやっていた狩りをするゲームの曲だ。英雄のなんたらみたいなタイトルだっただろうか。火竜をみていると何となくそれを思い出したからだ。


静かに髭を撫でると、一筋の澄んだ音が空気を震わせた。それは単なる音ではなく、空間に波紋を描くように広がり、見えない力となって辺りを包み込んでいく。その瞬間、淡い光が周囲に揺らめき、まるで生き物が踊るように旋回を始めた。


指先が髭を再び弾く。今度は深く豊かな低音が響き渡り、それが地面に伝わると、細かな花びらのような光の粒が湧き上がる。それらはやがて集まり、薄い膜を形作った。見えない結界が徐々に明確な輪郭を持ち始め、敵意を遮る壁となる。


音が続くたびに、結界の輝きが増していく。高音の一振りで透明な膜が硬化し、まるで水晶のように光を反射する。一方で低音は地面に共鳴し、足元から優しい温もりを伴った癒しの波が広がった。その波が肌に触れるたびに傷が塞がり、疲労が癒えていく。


音楽が次第に旋律を持ち始める。流れるようなメロディーが風となり、守りの結界をさらに強固にする。輝きは柔らかな黄金色となり、心を和らげるような温かさで辺りを包み込む。同時に癒しの波動が波紋のように広がり、周囲の枯れた草や花さえも、音の力に応えるかのように緑を取り戻し始めた。


最後の和音が奏でられると、結界は完全にその形を成した。淡い光が螺旋を描きながら、敵の攻撃を弾き返し、守護の力を発揮し安息を与え。一方で、メロディーが紡ぐ癒しの力は、仲間の体を包み込み、全ての傷や疲れを癒していく。


音楽が止むころには、世界がまるで一瞬静止したように感じられた。弾き手の手元に残るのは静かな余韻と、結界の輝きが生む安堵感だった。


「よい曲でした」


にゃんまるは静かに褒めてくれた。自分が考えたものではないが、お気に入りの曲を褒められるのは嬉しい。

火竜を見ると傷は塞がり体力も回復しているようだった。そしてそれと同時に卵にヒビが入る。


次の瞬間、卵が微かに震えた。最初は小さな振動だったが、それは徐々に激しさを増し、周囲の熱気が渦を巻くように集まり始めた。卵の表面に細かな亀裂が入り、そこから熱風が漏れ出す。パチッ、パチッという音と共に、亀裂が幾何学的な模様を描くように広がっていった。


そして――その瞬間は訪れた。


卵の頂点から内側から押し出す力に応えるように殻が弾けた。現れたのは、小さな前脚。鋭い爪が卵の殻をかき分け、命の息吹を周囲に解き放った。続いて、もう一方の前脚が顔を出し、その力強さはまるで卵の中で育まれた生命の全てを示すかのようだった。


殻が完全に割れ、中から姿を現したのは、一匹の小さな火竜だった。まだ湿った鱗は黒と赤が混ざり合い、炎のように揺らめいている。彼の目がゆっくりと開き、初めての世界を見つめる。黄金の瞳が輝き、その奥に宿る意志は幼いながらも確かなものだった。


火竜の背中には未だ柔らかい翼が折りたたまれていた。それらが小さく震えながら広がると、微かな炎の粉が舞い上がる。彼が初めての息を吸い込み、吐き出すと、その小さな口から淡い火花が散った。その火花は生まれたばかりの火竜が持つ、生命の炎の象徴だった。


周囲の熱気が再び穏やかになると、小さな火竜は殻の破片を踏みしめて立ち上がった。よろめきながらも、彼の姿には不思議な威厳が漂っている。その瞬間、大地が低く唸るような音を立てた。火竜が生まれることを、この巣の全てが歓迎しているかのようだった。


小さな火竜は、一歩ずつ前に進む。そして、彼を包むように立ち上る熱の波が、彼が持つ運命と力を暗示していた。新たな命の炎は、これから始まる物語の序章を静かに、しかし力強く告げていた。


「生まれた!」

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