教えてケットシー先生
次の日の朝ーー。
今日は新たに仲間になったケットシーに魔法ついて学ぼうと思う。すでに回復や闇魔法を少しつかえるけどより理解するには聞いておいて損は無い。
「ケットシー、魔法について教えてくれないか?」
ケットシーは、どこから出したのか眼鏡をかけ得意げに机の上に立つ。
「僕が詳しくたくさん教えてあげるにゃ!よーくきくにゃ!」
こうしてケットシーの魔法授業が始まった。
「万物は五属性+二属性により成り立つにゃ」
その冒頭の言葉に続き、魔法の基本属性について詳細に説明が始まる。
五属性とは、木・火・土・金・水。これらは自然界を構成する力の象徴であり、すべての魔術の基盤をなすもの。木は成長と生命、火は破壊と情熱、土は安定と防御、金は鋭さと制御、水は流動と浄化を司る。これらの属性が絡み合い、調和を生み出す。
さらに2属性について。
闇と光。これらは万物の二極であり、五属性を超えた根源の力である。闇は静寂、隠密、破壊をもたらす力。光は浄化、癒し、そして破壊的な輝きの力。両者は相反する存在でありながら、一つの調和を求める。風属性はエルフの固有魔法らしい。雷属性もあるがほぼ観測されてないとか。
魔術師は己の魔力を見つめ、その本質を知るべし。五属性は大地の流れを形にし、闇光はその魂の在り処を映し出す。光を強く放つ者は光の加護を受け、影を深く伸ばす者は闇の力を宿す。いずれの力をも恐れることなく、己の一部として受け入れることが、魔法を操る第一歩である。
闇はただの隠れ家ではない。それは夜を照らす星々の力を秘め、敵を惑わせ、心の影を映す。光はただの救済ではない。それは剣の如く鋭く、破壊と癒しの両面を持つ刃である。闇光の力を極める者は、どちらにも囚われず、両者を調和させる道を歩まねばならない、にゃ。
紙に描かれた簡素な図が、木々や炎、水の波紋、光と影を抽象的に表現していた。自分の中の魔力を感じ取ると、闇と光が胸の奥で確かに存在するのを感じ、胸の奥底に共鳴するものがあることを悟る。
「これが基本属性にゃ、そうだ主様、練習にぴったりのアイテムをプレゼントするにゃ」
そういうと空間から突然楽器のようなものが現れた。
「これは猫鳴の髭というものだにゃ、僕の髭で作った楽器みたいなものにゃ」
猫鳴の髭は、名前の通り猫の髭を模した繊細な造形を持つ。しかし、ただの髭ではなくケットシーの髭で作られている。全長は手のひらほどの長さで、淡い銀色に輝く光沢を帯びている。髭のような細さを保ちながらも、触れると金属とも植物ともつかない、不思議な感触がする。
根元は小さな宝石の台座に埋め込まれており、その台座は深い紫色の宝石で飾られている。宝石の内部には、揺らめくような魔力の光が微かに見え、使うたびに輝きが増す仕組みのようだ。
髭そのものには、まるで命を持っているかのようにしなやかさと強度があり、曲げても折れず、指で弾くと独特の振動を生む。その振動は目には見えないが、魔力を込めた者には透明な光の糸として映る。光の糸は、流し込まれる魔力の属性によって青、赤、緑など様々な色に変わる。
さらに、髭の表面には肉眼では見えない微細な紋様が刻まれている。これらの紋様は古代魔術を象徴するものであり、使い手の魔力の質を増幅させると同時に、魔力を制御するための導線の役割を果たす。
猫鳴の髭を指で弾くと、髭が空気中の魔力と共鳴し、澄んだ音色を響かせる。音は人間の耳には微かにしか聞こえないが、魔力を込めた者には、その響きがまるで目に見えるように感じられる。それは単なる音ではなく、魔力の流れそのものを視覚化した波動なのだ。
例えば、火属性の魔力を込めて弾けば、熱を帯びた鋭い高音が空気を切り裂き、水属性ならばしっとりとした湿った低音が深く響く。髭を操る手つき次第で音色が変化し、魔法の精度や力をも調整できるのだ。
猫鳴の髭を使った練習は、ただ魔力を操作するだけでなく、術者自身の感性を磨く特訓でもある。
猫鳴りの髭を手に取り、まず呼吸を整え、魔力を体内から少しずつ指先へ流し込む。髭はその魔力に応じて淡く輝き、静かな振動を始める。
「まずは弦を弾いて、魔力の響きを感じるにゃ」
ゆっくりと髭を弾いた。空気を切るような澄んだ音が生まれ、同時に手元にひんやりとした感覚が広がる。それは魔力の流れが髭を通じて増幅され、術者の感覚に直接語りかけている証拠だった。
手のひらに収まる猫鳴の髭をじっと見つめる。淡い銀色の光沢が柔らかく揺らめき、台座の宝石が心なしか鼓動のように微かに明滅している。
「ただ弦を弾くだけ」
とケットシーは言ったが、いざやってみると想像以上に難しい。
髭を指で弾こうとするたび、滑らかな表面に魔力がうまく乗らない。焦りから力を込めると髭はしなやかに跳ね返り、逆に魔力が暴れ出す。試しに軽く力を抜いてみるが、今度はまったく反応がない。
「力加減を調整するのが肝心にゃ」
アドバイスを思い出すが、加減がわからない。
そんなに簡単にできるなら苦労はしない。
と心の中でぼやきつつ、再び集中を試みた。
指先に意識を集め、ほんの少しだけ魔力を込めて髭を弾く。今度は髭がわずかに振動し、青白い光の糸が一瞬だけ現れた。しかし、それも束の間、魔力が安定せず、糸はすぐに霧散してしまう。
「くそっ…」
小さく舌打ちし、手をひっこめた。額にじっとりと汗がにじむ。髭をじっと見つめても、答えが浮かんでくるわけではない。
ふと隣で静かに見守っていたケットシーが口を開く。
「落ち着くのにゃ。魔力を抑えつつ、髭と同調するのがコツにゃ」
「同調って、どうやって?」
ケットシーは鼻先で髭を軽く押し、静かに振動させる。
「髭の振動を感じ取って、それに自分の魔力を重ねるのにゃ。力でねじ伏せるのではなく、相手と共に動くつもりでやるにゃ」
半信半疑ながら、もう一度髭に触れた。指先に意識を集中させ、魔力を絞り出すのではなく、振動を感じ取るように。髭がわずかに震え、その揺らぎに自分の魔力を合わせる。
すると、今度は光の糸が薄くではあるが、しっかりと現れた。青白い輝きが猫鳴の髭を伝い、音もない音楽が流れるように広がる。
「そうです、その調子にゃ」
声に背中を押されるように、再び髭を弾く。魔力の糸がゆらゆらと伸び、少しずつ形になっていく。その美しさに感嘆しながらも、集中を切らさないように心がける。
ただ、まだ安定には程遠い。髭が不規則に揺れ、形が崩れるたびに歯を食いしばった。しかし、そのたびにケットシーの落ち着いた声が響き、導いていく。
「焦らず、少しずつ進めばよいのにゃ」
深呼吸をし、もう一度挑む。次第に指使いを変えながら髭を撫でると、音色も変化していく。高音から低音まで、様々な音が空間を満たし、それに伴って魔力の性質が変化していくのがわかる。火の音色は鋭く切れ味があり、水の音色は柔らかく包み込むようだ。
しかし、本当の難しさはここからだった。音を奏でるだけでなく、旋律を紡ぎ、魔法として形を与える必要があった。
「今度は、旋律を完成させてみるにゃ」
髭を操る指を複雑に動かす。途切れることのない音の流れが作り出され、空間に魔力が集まっていく。火と水、相反する属性が共鳴し、揺らめく虹色の波紋を生み出す。そして、最後の一音を弾いた瞬間――
「……!」
髭の先端から、淡い光の魔法が放たれた。音の余韻と共に魔法は空間に消えていくが、その過程で残るのは、魔力を操る感覚の確かな実感だった。
「これを上手に扱える頃には魔力操作がとっても上手くなってるにゃ、あとちょっと魔力量も増えて一石二鳥にゃ」
ケットシーのアドバイスのもと、ひたすら猫鳴の髭を弾ていくのだった。




