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VS 自分

目の前に立つ「自分」を見て、背筋が凍った。

それはまさしく自分そのもので、背丈や顔つきはもちろん、着ている服装や手に握られた一対のダガーまで完全に同じだった。ただ、その瞳には冷たい光が宿り、こちらをじっと見据えている。


「これが……自分……?」


問いかけた声も虚しく、相手は何も答えず一歩を踏み出してきた。その動作すらもそのものだ。まるで鏡の中の自分が命を宿し、目の前に立っているかのようだった。しかし、その存在から感じる殺気と敵意は圧倒的で、ただの幻影ではないことが嫌でも分かる。


すぐに一対のダガーを構えた。すると相手も同じタイミングでダガーを持ち上げた。その動きの精度と速さ、無駄のなさはまさしく私の戦闘技術そのものだった。そして、次の瞬間、地面を蹴る音もなく、相手がこちらに飛び込んできた。


「くっ!」


咄嗟に右手のダガーで防御し、左手のダガーで反撃する。鋭い金属音が響き、刃と刃が火花を散らす。その衝撃で手が痺れる。力の加減や動きの間合いまで完全に自分と同じ――いや、それ以上かもしれない。


「これが……試練なのか!」


相手は攻撃の手を緩めない。動きは的確で、次の攻撃がどこに向かうのかが手に取るように分かる。それなのに、それを防ぎきれない。相手は動きを先読みしているかのようだった。


「だったら!」


あえて大胆な動きを試みた。防御を捨て、攻撃の隙を作り、逆にその隙を利用して相手を誘い込む。しかし、その一撃ですら読まれていた。相手は後方に跳び退き、こちらの攻撃をいとも簡単に避けてしまう。


「どこまで真似するんだよ!」


息が荒くなり、汗が頬を伝う。相手はこちらを冷静に見つめている。攻撃の合間に、ふと気づいた。相手の動きが自分そのものである以上、自分が同じ戦い方をしていては勝てない。相手はこちらの次の一手を予測し、動いているのだ。


――ならば、予測できない動きをすればいい。

私は息を整え、右手のダガーを構え直し、左手のダガーを逆手に握り直す。次の攻撃で意図的に予測不能な変則的な動きを組み込む。右手の斬撃を途中で止め、左手のダガーを逆方向に繰り出す。相手の表情が一瞬だけ変わった。その隙を逃さず、さらに一歩踏み込む。


「どうだ!」


しかし、相手はそれでも踏みとどまり、一撃を防ぐ。刃と刃が激しくぶつかり合い、互いに押し合う中で、確信する。相手の動きは「技術」そのものを模倣しているが、それは「心」までは模倣できない。


「まだ成長できる!」


力を抜いてわずかに後退し、次の攻撃を誘発する。相手がその隙を突こうと動いた瞬間、地面を蹴り上げて体を一回転させ、右手と左手のダガーを交差させるように振り抜いた。


刃が相手の胴体を掠めた瞬間、動きが鈍った。その隙を逃さず、右手のダガーを突き立て、左手のダガーでとどめを刺す。相手は驚いたような表情を見せたが、次第にその体が霧のように溶け、やがて完全に消え去った。


「……俺自身を超える。それが試練だったのか」


握りしめたダガーを見る。その刃には自分の決意が映り込んでいる気がした。自分の弱さを受け入れ、それを超える。今この瞬間、自分は確かに一歩成長した。


霧のように消えた敵が残した静寂の中で、膝に手をつき、大きく息を吐き出した。全身を襲う疲労感に、先ほどの激闘の激しさが身に染みる。


「自身を超える試練……か」


何度も挫けそうになった戦いだったが、今になって分かる。相手はただ倒すべき敵ではなく、自分を見つめ直すための存在だった。あの「自分」がいたからこそ、弱点に気づき、それを克服するための一歩を踏み出せたのだ。


握りしめた一対のダガーを眺める。黒光りする刃が鈍く輝き、その形状がこれまでとは違って見えた。武器の存在感が、これまでの自分の限界を象徴していたかのように感じる。


「まだまだ、こんなところで立ち止まってられないな」


ふと、足元で輝く小さな光に気づいた。試練を乗り越えた報酬だろうか。光は徐々に形を成し、小さな水晶のような球体になった。拾い上げてみると、ひんやりとした冷たさの中に、不思議な温もりがある。


「これが試練の証か……?」


水晶を手に取った瞬間、脳裏に一瞬だけ映像が流れ込んだ。それは深い森の奥に隠された神秘の泉――次なる試練の舞台と思われる光景だった。


「まだ終わりじゃないってことか」


立ち上がり、周囲を見渡す。試練の場だった場所は静寂に包まれ、闘いの跡を感じさせるものは何もなかった。ただ、水晶が示す次なる試練の方向を教えるかのように、空気の流れが変わるのを感じた。


背後から聞き慣れた声がした。


「お疲れさまでございます。少し休まれてはいかがですか?」


振り返ると、にゃんまるが悠然とこちらを見つめていた。その瞳には、戦いを見守っていた誇らしげな光が宿っている。


「にゃんまる……どうしてここに?」


「ここにいるのは、当然のことです。あなたに課した試練を見届けるためですから」


にゃんまるの言葉に、一瞬言葉を失った。試練を課した……? それはどういうことなのか?


「まさか、あの敵を操っていたのは……お前なのか?」


にゃんまるは小さく頷きながら、静かに語り始めた。


「私は試練の守護者でもあります。この場におけるすべての挑戦者を見守り、導く存在です。しかし、あなたには特別な試練を与えねばなりませんでした。それは、己を越えるための真の戦い――自分自身を乗り越える力を得るための試練です」


その言葉が真実であることを理解したとき、胸の奥に奇妙な感情が湧き上がった。怒りや困惑ではない。むしろ、それはにゃんまるが与えてくれた機会への感謝と、少しの誇りだった。


「だからお前は姿を現さなかったのか。見守るだけだったんだな」


「ええ。私はただの試練の守護者ではありません。あなたを導くためにここにいる。ですが、導くだけではなく、試練を課すことで真の成長を促す必要があったのです」


にゃんまるの瞳は深く、揺るぎない意志を宿していた。その姿に、私は自分が乗り越えた戦いの意味を改めて理解した。そして、次なる道への覚悟が静かに心に芽生えた。


「にゃんまる……試練を越えたよ。でも、まだ続くみたいだ」


にゃんまるは小さく頷きながら、厳しいが優しい声で続ける。


「この先の道も厳しいでしょうが、あなたには成し遂げる力があります」


「分かってる。だから、俺は進むよ」


にゃんまるを背に歩き出す。その足取りは先ほどまでの疲労を感じさせないほど力強い。試練の場を後にしながら、次の目標へと心を奮い立たせていた。


星霜のコンパスをみるとちゃんと方角を指し示している。にゃんまるの試練を超えたことでひとつ迷いが無くなったからだろうか。星霜のコンパスに従い歩いていく。


《猫鏡写姿を獲得。自身の分身を作り出します。》

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