ギルドについてお勉強
「俺がここのギルドマスター、カイロン・ストームだ」
闘技場から先程の部屋に戻ってきた。
「お前さんがにゃんまるの言っていた主だな。なかなかいい腕をしているじゃねえか。ま、俺にはまだまだ届かなかったけどな」
ガハハハハと豪快に笑うカイロンには、最初に会った時の殺気はなく今は気のいいおじさんという感じだ。
「恐縮です......」
「そうだなあ、お前さんのランクはビショップと言ったところだろうが、実績がないやつをビショップにすると下の連中がうるせえからとりあえず階級はナイトにしておく。さっさと実績作ってビショップになれ。いやキングになれ」
階級がよく分からずにゃんまるに助けを求めるように顔を向ける。
「ランクはポーンからはじまりがキングが最高です。特例でプレイヤーがありますが現在はひとりだけです」
チェスの駒ってことか。プレイヤー、キング、クイーン、ビショップ、ナイト、ルーク、ポーンの順番だったっけ。
プレイヤーはひとりだけ。きっとすごいことを成し遂げた人なのだろう。
「プレイヤーはどんな人なんだろう」
無意識に口に出してしまった。それを聞いたカイロンは大口を開けて豪快に笑う。ツボに入ったのかひたすら腹を抱えて笑っている。
「なにいってやがる。プレイヤーならお前さんのとなりにいるだろう」
どうやらにゃんまるだったらしい。ギルドカードを見せてもらった時、こんなのもあるのかくらいだったからちゃんも見てなかった。にゃんまる、相変わらずの転生チートである。にゃんまるは特に気にする様子もない。
「ギルドを作ったのは私とリオンですからね」
それにカイロンも続く。
「そりゃそうだろう、ギルド創設者であり今や世界最強といってもいい。そんなやつをただのキングにしておくわけにはいかん。ちなみにキングは今3人だ」
カイロンの言葉を聞いてそれもそうかと納得した。
強いもんね、にゃんまる。キングも一人一人一騎当千の人達なのだろう、そのうち会ってみたい。どんな人なんだろうか。
「何にせよあとで下でギルドカードを受け取ってくれ。これからどうするんだ?」
にゃんまるは経緯をカイロンに伝える。
「ほう、闇と光ねえ......つくづくおもしれえなお前は!戦って闇属性は分かったが光もあったとはな。神秘の谷に行くなら選別をやろう」
カイロンは静かに机の引き出しを開けると、輝く小さなコンパスを手に取り、手渡した。
「これは星霜のコンパスだ。神秘の谷では、迷いという試練が待ち受けている。このコンパスが示す方向が必ず正しいとは限らない。自らの心を澄ませ、進むべき道を見極めるのだ」
コンパスは手の中でほのかに光を放ち、まるで意思を持つかのように揺らめいていた。
手のひらに収まるほどの大きさで、中央には深い瑠璃色のガラスが嵌め込まれている。そのガラスの内側には小さな星のような光の粒が浮かび、絶えず瞬いている。金属の枠は古代の紋様が刻まれた純銀で作られており、表面にはギルドマスターの紋章が刻印されている。針は存在せず、代わりにガラスの中に漂う星の粒が一定方向を指し示す仕組みとなっているようだ。
「この星霜のコンパスは、ただの道具ではない。お前の心を映す鏡だ。迷えば針も迷い、心が定まれば光は正しき道を示す。だが忘れるな、この谷に挑む者には、必ず己の弱さと向き合う試練が待ち受けている」
周囲の静けさが、一層彼の胸の中のざわめきを際立たせた。
手の中にある星霜のコンパスを眺め、その中を漂う光の粒をじっと見つめた。しかし、光はまだ定まらず、さまようように動いている。その様子が、まるで自分自身の心を映し出しているように思えた。
「己の弱さ……本当に強くなれるのか?」
ぽつりとつぶやいた声は、静寂の中に消えていった。
目を閉じると、これまでの記憶が次々と浮かんできた。戦闘訓練でにゃんまるに叩きのめされたこと。カイロンとの戦いで、力の差を痛感した瞬間。そして、神秘の谷へ向かうための覚悟が揺らいでいる今の自分。
「ずっと怖がってる……」
心の奥底から湧き上がるその感情に気づくのを、これまでずっと避けてきた。しかし、ここで逃げれば何も変わらない。そう分かっていても、自分が果たして本当に試練を乗り越えられるのかという不安が、冷たい風のように胸を締め付ける。
にゃんまるの言葉を思い出した。
「弱さを知ることは、強さへの第一歩です」
その時はただの慰めだと思っていた。しかし今、その言葉が重く胸にのしかかる。
「弱さを知る……。それが本当にできるのか?」
星霜のコンパスを再び見つめる。光の粒は揺れていたが、どこか先ほどよりも僅かに強く輝いている気がした。まるで、心が問いに向き合い始めたのを感じ取ったかのように。
「俺の弱さ……それを受け入れる勇気が、今は必要なのかもしれない」
胸に手を当てた。湧き上がる恐れを完全に拭うことはできない。しかし、それでも進むしかないと、自分に言い聞かせる。
コンパスの光が微かに定まり始めたその瞬間、目の奥にわずかな覚悟の色が宿る。カイロンの目をしっかりとみてお礼をする。
「ありがとうございます」
カイロンはその表情と言葉に満足すると、ふっと笑った。
「励めよ、ひよっこ」
この世界には今はまだまだ敵わない人達がいることを実感する。それと同時にそれは目標ともなった。いつかこの人を超えてみせる。にゃんまるは覚悟を少しでも教える為に、ここに連れてきたのかもしれない。来てよかったと素直に思うのだった。
一連のやり取りを見たにゃんまるはうんうんと頷く。
「では主、そろそろギルドカードもできている頃でしょう。いきましょう。カイロンもありがとうございました。あ、そうそう、例の件ですがおそらく神秘の谷にゴブリンキングがいる可能性が高いのでついできゅっとしてきます」
カイロンはにゃんまるの言葉にため息をついて頭をかく。
「おう、いいけどよ、それはついでに話すことじゃ......まあいいか。任せたぜ」
にゃんまるが「はい」と答えると、部屋を後にした。
下のカウンターで再び受付嬢のもとへ行き、ギルドカードをもらう。
「こちらがギルドカードです。無くされますと再発行の際にお金がかかりますのでお気をつけください」
ギルドカードを受け取り落ちないようにしまう。
もうリセラに絡んでくる冒険者はいない。流石にあの一連を見て手を出そうとは思わないだろう。当の本人はそんなこと無かったかのようにすました顔をしている。
ギルドの扉を開け、いよいよ神秘の谷に向かう。不安とわくわくの初めての遠征。何が待ち受けているのかわからないが、のりきってみせるとやる気を出すのだった。
門へ向かうとアルヴァートがいた。今日も不審なものがいないか厳重に目を光らせている。
「行ってらっしゃい!お気を付けて!」
元気に見送ってくれる。ここまで見てきた人でわりと話しやすいひとだ。だが彼は先日の猫だとはきづいていない。彼には頑張ってもらいたい。と心で応援しつつ通過する。
さあいよいよ、冒険のはじまりだ。
街に来た時とは違い、今はにゃんまるとリセラがいる。心強い人たち共に向かう。次に門を通る時はさらに強くなって帰ってこよう。そう思いながらナイトクローを撫で、先を向かうのだった。
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