魔法も使いたい
「なあにゃんまる、ミラさんにやった魔法どうやってやるの、あれ使えるようになるかな」
にゃんまるはしばらく考えると答えた。
「できますよ。魔法はイメージが大事ですから。次は魔法をやりましょうか」
にゃんまるが丸い何かを渡してきた。
「これは、スライムです。害はありませんから安心してください」
手渡されたスライムをじっと見つめていた。手のひらほどの大きさのそれは、透明な体をゆらゆらと揺らしながら、目の前でぷるぷると跳ねている。スライムは小さな泡を内側に閉じ込めており、その中でゆっくりと魔力の粒が流れているのが見えた。
「スライムの体内にゆっくり魔力を送り込み、それを操る感覚を掴むのです」
深呼吸し、スライムに向かって手を伸ばした。その体に触れると、ひんやりとした感触が指先に広がる。柔らかいが弾力があり、心地よい粘り気があった。
「魔力を……感じる」
自分の内側を意識する。胸の奥から微細な流れが手先へと伝わり、それがスライムに触れる指先を通じて外に広がっていく。スライムの体内の泡がゆっくりと動き始めるのを感じた。
「スライムは魔力を媒介にして属性を可視化するのに最適です。反応を観察してみてください」
にゃんまるが静かに説明する。
魔力を流し込むと、スライムの中に変化が現れた。透明だった体がゆっくりと色を帯び始める。最初に現れたのは深い漆黒の影。スライムの中心に、小さな黒い渦が生まれ、それがじわじわと広がっていく。
にゃんまるが静かに頷く。スライムは漆黒の波紋を繰り返し、その動きがまるで生き物のようにゆらめいている。冷たい空気が部屋を満たし、その重みを肌で感じた。
だが、それだけでは終わらなかった。黒い渦の中心から、今度は柔らかな白い光が差し込んだ。光は黒を押しのけるのではなく、共存するようにスライム全体に広がり始める。黒と白が溶け合い、複雑な模様を描きながら輝きを放つ。
「これは......」
驚きの声を漏らす。スライムはまるで昼と夜が同時に訪れたかのような不思議な姿を見せ、黒と白の輝きがバランスよく混じり合っていた。
「驚くべきことですが、光と闇の属性のようです。非常に珍しいですね」
にゃんまるが感心したように言う。
「光と闇、二つの相反する属性を持つ者は滅多にいません。その力をどう扱うかで、主の運命は大きく変わるでしょう」
光と闇が共存するその美しさは、彼の内なる力を映し出しているようだった。それはきっと、自身の力と勇者の力の現れなんだと思った。
「そのまま集中を。ゆっくり魔力をスライムの中で流れさせてみてください」
にゃんまるの指示を受け、さらに意識を深める。魔力の流れがスライムの中で小さな渦を作るように動き始めた。スライムの体が軽く震える。
「動いてる……!」
目を開け、驚いた声を上げた。スライムの体が自分の意志に応じて波打っている。手を動かすと、その動きに合わせてスライムも跳ねるように動き、まるで彼と共鳴しているかのようだった。
「次は形を変えてみましょう。魔力の流れにイメージを上乗せするのです」
にゃんまるの指示に従い、再び集中する。スライムの中で魔力が集まり、次第にその体が細長く変形し始める。指先を動かすたびに、スライムは球状から細い線のような形、刃のような形、猫の顔の形などに変化する。
「なるほど……スライムの柔軟さは、魔力の練習にうってつけだな。」
魔力を扱う感覚が少しずつ掴めていくのを感じ、スライムをそっと解放した。スライムは元の球体に戻り、ぴょんと跳ねて嬉しそうに光る。
「悪くないですね。スライムも楽しんでいるようです」
にゃんまるの言葉に、口元が緩む。
スライムにとって負担がないのならよかった。
生き物の負担を無視して練習するのは流石に気が引ける。スライムを使った練習は、魔法の基礎を学ぶだけでなく、自分の魔力が生きている感覚を初めて実感できた。
「魔法は基本的に今の魔力の形のイメージに属性をつけていくのです。属性の話はまたおいおい、お話するとして今度はこれに魔力を流してみてください」
今度は1輪の枯れかけた花を目の前に置く。
先程と同じようにゆっくり魔力を流す。スライムより硬い物質の為いまいち出来ているか不安になる。集中しながらゆっくり魔力を流していくと花の形が伝わってきた。それを見守るにゃんまる。
「回復魔法とは、癒しのイメージそのものが力となります」
にゃんまるが穏やかに語りかけた。
「この枯れた花を、元の美しい姿に戻す場面を心に描いてください。ただし、力みすぎず、優しさを込めるのが重要です」
深呼吸し、頭の中で元気な花の姿を描く。生命力に満ち溢れた茎が天に向かって伸び、花弁が鮮やかに広がる様子。それを鮮明に思い浮かべると、体内に眠る魔力が静かに流れ始めるのを感じた。
「その流れを、次は形にするのです」
にゃんまるの指示に従い、意識を魔力に集中させた。癒しの力を花だけでなく、空間そのものに広げるイメージを膨らませる。そして、ふと浮かんだのは猫――。自身を包み込むように丸くなり、柔らかさと安心感を与える形。
手のひらから溢れた魔力が淡い光となり、中心から広がり始めた。その光は静かに螺旋を描きながら、次第に半透明な猫の形を形成していく。四肢は穏やかに花を守るように伸び、耳と尻尾が優雅に空間を揺らした。そして完成したのは、自身を中心に広がるドーム状の猫のシルエットだった。
「素晴らしいですね。とても優れた形状です。」
猫のドームの内側、花はまるで温かな光に包まれるように、少しずつ色を取り戻していく。
「これが……回復魔法……」
光の中で生き生きと蘇る花を見つめながら呟いた。その瞬間、魔力の波が静かに収まり、猫のドームがゆっくりと消えていく。
「非常に見事でした。魔力の使い方に関して、素晴らしい進歩を遂げられています」
にゃんまるが微笑みながら褒めると、小さな満足感を覚え、次の課題に挑む意欲を新たにしたのだった。
《猫癒掌を獲得。対象を回復させます。》
まだなれない為自分も包むほど大きなものになってしまったが、練習していけば対象のみを包むように出来ると思う。そしてスキルを獲得した。にゃんまるとは形が違うのが個性があって面白いと思った。これで少しくらい怪我をしても安心だ。魔力を操るのも少しずつなれてきた。イメージがとても大切だと言うことが理解出来た。
猫影潜行も影にはいるイメージができて尚且つ闇属性が適正だったから習得したのだろう。偶然の重なりで上手くいったようだ。それにしてもにゃんまるは教えるのが上手い。0からはじめる魔法講座はとても分かりやすかった。
「にゃんまるは教え方が上手いな。ありがとう。」
にゃんまるは目を細めて笑う。
「猫又になり長生きしてますからね。人よりも何事もより理解が深くなるのです」
年の功というやつだろうか。にゃんまるはこの世界でいったいどれだけの年月を過ごしてきたのだろうか。前世の約束を守るため伝説の猫となり、世界の守り手となったにゃんまる。今は何も出来ないけれどいつかお礼をしたい。その為には今を頑張らないと。綺麗に咲く一輪の花を眺めながら静かに心に誓うのだった。




