来世は猫になりました?
「ただいまにゃんまるーー!」
「んなー」
今日も今日とてにゃんまるは可愛い。
この愛らしい猫は俺が飼っている猫である。
もうかれこれ10年来の付き合いになる。
捨てられていた所を友人が拾い、育てられる人を探していたので二つ返事で引き受けた。最初はなかなか慣れないからかゲージから出てこないかと思ったが、あっさりと出てきてミルクをのんでいた。
子猫から育ててきたからもう10歳になるわけだ。人間で言うと56歳くらいだったか。人間なら中年のおっさんだが猫なので可愛らしさは10年間変わらない。もふもふぬくぬくふわふわの猫である。
寝る時には頭のそばで寝て、起きれば足の周りをうろうろとまとわりつく。可愛らしいがたまに踏みそうになるからちょっとあぶない。だが可愛い。
猫の寿命は13年から20年と言われている。もうすぐお別れが来ると思うと涙で枕が濡れてしまう。生き物を飼う以上覚悟をしなくてはいけないのだが、にゃんまるがいない人生というのはどうにも想像できないものである。
20年前後生きられたならばしっぽが2つになり猫又になるといわれている。ぜひなっていただきたい。
これからもずっと一緒に生きていきたいと思うのは全飼い主の気持ちだと思う。
「おまえと話せたらどんなに楽しいだろうな。」
「んなー」
いつも話しかけると返事はしてくれるが、正直何言ってるかはわからない。いい返事だと嬉しい。
「今日は特別ににゅーるあげちゃう。」
「んなー!」
にゅーるとは猫用のペースト状のおやつである。
全猫が大好き、ねこまっしぐら。ひとつ持っていれば猫からたちまち大人気なアイテム。あげすぎ注意。用法用量を守って正しくお使いください。
「おいしいかー?」
「んなんなー」
夢中でぺろぺろ、可愛い肉球でぺしぺし。
この瞬間が最高に可愛い。こんな時間がずっと続けばいいのにな。
「長生きして猫又になるんだぞー。」
「んなー」
分かっているのかいないのかわからないが、返事をしてくれたのでよしとしよう。
そんな日々を送っていたのだが、終わりの時がきてしまうのだったーー。
箱の中でにゃんまるは静かに目を閉じでいる。今にも起き出しそうなくらい可愛らしい。
にゃんまるとの日々を思い出す。
「おまえがいないとつまらないじゃないか。猫又になるって約束したじゃないか。」
静かに涙が頬をつたう。ペットが死んだくらいで大袈裟だと思う人もいるかもしれないが、俺にとっては唯一の家族であり相棒だった。
幸い働いている会社には愛猫自慢をし続けた効果か有給をもらうことができた。最後の別れをしっかりとできる時間をもらうことができた。いい会社である。
ついにお別れの時。もくもくと空へ上り消えていく煙。にゃんまるの猫生は幸せだっただろうか。今思えばああしてやれば、こうしてやればと思うことが多い。今更後悔しても遅い、生きてるうちに全力で可愛がってあげてほしい。どうか猫を飼ってる全人類にこの思いが届くと嬉しい。
「また会おうな、にゃんまる。」
なんて考えながらにゃんまるが虹を渡っていくのをみまもるのであったーー。
飼い猫のにゃんまるが虹を渡ってから、どれくらい経っただろう。
小さなピンクの肉球で僕の手を押してきた感触も、ピンク色の小さな鼻でつついてくる感触も、眠るときに耳元で聞こえたかすかなゴロゴロ音も、もふもふのお腹の感触も、もう思い出せなくなりそうだ。
仕事も、日々の生活も、ただ流れるままにこなすだけ。心のどこかにぽっかりと空いた穴は、何をしても埋まらないままだった。
これは所謂、ペットロスというものだろう。
にゃんまるだけが心の癒しだった。
嫌なことがあっても、帰ればにゃんまるがいて出迎えてくれる。
もふもふのお腹に顔を埋めるのはそれはそれは至福の時だった。
そんな僕の目の前に、あの頃のにゃんまるとそっくりな猫が現れた。
ハチワレサバトラ、ピンク色の鼻に肩から手にかけて真っ白。
あの頃とそっくりな猫。
「おまえ……にゃんまるなのか?」
声をかけても、その猫は答えない。ただ、何かを訴えるように横断歩道の真ん中でじっと僕を見つめていた。その瞳に引き寄せられるように、一歩、また一歩と近づいた。僕から逃げるように反対へ走り去る瞬間――
目の前が真っ白になり、世界が音を失った。
ああ、やっちまった。
トラックなんて一切視界に入っていなかった。
これは死ぬやつだ。
全身の骨が砕け、空と大地が交互に目に映る。呼吸もできず、いよいよ意識が薄れていく。
人生の終わりににゃんまるに似た猫に会えてよかった。あまりいい人生では無かったけれど、にゃんまるに会えたことが唯一よかったことかもしれない。
叶うならもう一度、にゃんまるに会いたい。もふもふしたい。
気がつくと、僕はどこか知らない場所にいた。見渡す限り、果てしなく広がる白い空間。重力も方向感覚もない、奇妙な感覚に襲われる。
「ここは……どこだ……?」
声に出しても、虚空に吸い込まれるだけで、返事はない。立ち尽くす僕の前に、突然、金色に輝く光が現れた。眩しすぎて目を細めると、そこから現れたのは――美しい猫の姿をした女性だった。
「ようこそ、迷える魂よ。我が名はバステト。猫たちの守護者であり、転生の導き手でもある。」
柔らかく響く声に、不思議と心が落ち着く。それと同時に、目の前の状況が現実離れしすぎていて、言葉が出なかった。
「君は、大切な者を助けた為に命を落とした。その勇気に敬意を表し、君に新たな命を与えよう。ただし、その姿は――猫だ。なに、いずれは人の姿にもなれよう。それまで励むが良い。」
「猫……?」
バステトと名乗る女性は手に持っていたシストルムをしゃんしゃんと鳴らした。
アニメや漫画ならチート能力をもらって転生するんだろうが、どうやらそう上手くはいかないらしい。
訳が分からないま、体が再び光に包まれる。そして次の瞬間、視線が地面に近くなっていることに気づいた。小さな足、毛で覆われた体。本当に猫になっていた。
「これから君には、ある使命が与えられる。そしてその旅の中で、大切な存在との再会が待っているだろう。これは彼の願いでもある。」
バステトの言葉に、胸が高鳴る。
再会――それってまさか、にゃんまるなのか?
もう一度にゃんまるにあえるかもしれない。
混乱と期待を抱えながら、僕の新しい人生、いや“猫生”が始まった。
Start 2024.11.29




