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贄の神

作者: 空暮

 ネットの友人から聞いた新潟のとある町の噂話です。本人の話ではなく、その地域の専門学校でよく聞いた噂話のようです。



 家の近くの茂みに、小さな社がありました。昔からあるのは知っていましたが、雑草やらツタやらに覆われて人が近寄れる状態で無かったのが、ある日急に市が除草剤を撒いたので僅かにその社が見えるようになっていました。

 その時の私は、色々と行き詰っており、藁にも縋る思いでその社で手を合わせました。国道に沿って撒いた除草剤のせいか、道に面した社の右半分だけ草木が枯れていて、左半分は青々と茂っていました。草木と一緒に沢山の虫が死んでいたり、身体を仰向けにしてブルブル震えていて、気持ち悪かったのを覚えています。


 お祈りをした次の日、私が家の玄関を開けると、虫の死骸が沢山落ちていました。数は数えませんでしたが、三角錐のようにうず高く積まれていて、気味が悪く、私はそれを箒で掃い、庭にばら撒きました。

 「昨日、茂みに行ったから身体の何処かにくっ付いて来たのかな?」

 と思い、その日はあまり気にしませんでした。


 二日目。ネズミが数匹、重なり合って死んでいました。大きい親のようなネズミと、ピンク色の胎児のようなネズミも死んでいて、朝早かったのもあって死体のツンとした死臭に吐き気を覚えたのを記憶しています。ゴミ袋に入れて捨てました。何か、嫌な感じがしました。


 三日目。猫が二匹、死んでいました。玄関を開けて声が出ました。猫はどちらとも、舌を突き出し、手も足も硬直させて死んでいました、まるで模型のようでしたが、すごい臭い――モノが腐った嫌な臭い――がして、本物の死体だとすぐに分かりました。どうしていいか分からず、燃えるゴミに出しました。


 四日目になり、次は犬がまた二匹、死んでいました。近所の飼い犬で私もすぐに飼い主が分かったので知らせに行きました。飼い主さんたちは泣いて、「どうしてどうして」と繰り返していました。警察を呼び、確認をしてもらいましたが、「不審者やおかしい人の犯行でしょう。気をつけてください」と言われました。「実は昨日、猫の死体も置かれていて……」と話すと、

 「届けが出てまして……他に何かそういうことはありませんでしたか?」

 と聞かれてここ数日のあった事を伝えると「見回りするようにしましょう」と言ってくれましたが、私はふとある事に気が付きました。


 大きくなってる。


 虫。ネズミ。猫。犬。


 徐々に大きくなっているんです。

 その事をよく覚えています。直感めいたモノでしたが、あの社でお祈りしてからだと気が付きました。急いで社に行きました、時間は夕方ほどでした。

 

 「今していることをやめてください」

 「申し訳ありませんが、やめていただけますか」


 と、祈りました。聞き届けてくれるかと思いました。その日の夜でした。

 私が寝ようとしていた深夜1時ごろでした。家の呼び鈴が鳴りました。


 ピンポ~ン……


 もう布団に潜っていた私は眠たかったし、こんな時間に押してくるなんて怖いな、と思って無視をしました。




 「おぼほるな」




 老人のような声が耳元で聴こえ、ばっと目覚めました。身体を起こすと、誰もいませんでした。怖くなり、そのまま布団に頭まで潜り、朝まで時が流れるのを待っていました。


 早朝、恐る恐る玄関を開きました。そこには、動物の死体はありませんでした。ただ、何かの血液がドアの取っ手についていました。血痕は玄関から家の前の道まで繋がっており、それを辿っていくと、社の茂みに続いていました。茂みに入っていこうかと思いましたが、社の参道に、


 虫の死骸。

 ネズミの死骸。

 猫の死骸。

 犬の死骸。


 私が処分したモノも飼い主さんたちが回収したモノも、順々に置いてありました。

 そこで気が付きました。血痕の続く参道は、そのまま、私に続いているように見えました……まるで私を待っているかのように。

 そこから追いかけるのを止めて家に戻りました。

 それ以来、あの社には近づいていません。あのまま社についていたらどうなっていたのでしょう。そして、そして。




 私は、何に祈ってしまったのでしょうか。


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