第1話
新規小説書きました。応援してほしい!
俺が死んだ時以外エタらないので安心して下さい。
元々ゲームは好きな方だった。姉貴が持っていたマリオは小さい頃寝る間も惜しんでやった記憶があるし、ドラクエだって何体か魔王を倒した。
だからだろうか。衝動的とはいえ30万円近くもするVR機器を購入してしまったのは。
独り暮らし中の安アパートへと届いた荷物を見て大学生である佐藤志那は頭を抱える。
きっかけはたまたまYouTubeのサジェストに出てきた新作のゲームの大会映像。
最近は仮想空間内に、さも自分が本当に生きているかのように体感する事が出来るフルダイブ技術を使ったゲームも増えてきていて、動画のゲームもそれだった。
VRの対人ゲーム、その動画内でリオン選手と紹介されたある選手は仮想空間の中で鮮やかな動きを見せながら、大会決勝の場で相手選手から一撃も食らう事無く勝利していた。
その動画の何が俺の琴線に触れたのかは分からないが、俺はその景色へ鮮烈な憧れを抱いてしまった。俺もこうなれるのではないか、と。
動画を見てからは早かった。気付けば数分の後にそのゲームに必要な物を一式購入。機器もろもろ総額約30万円。18歳、大学生の身分にはかなり厳しい金額であったが衝動が勝ってしまった。暫くはもやし生活だろう。
そんな事をぼんやりと考えながら志那は届いた荷物をカッターでガムテープを切り開き、開封する。
届いた状態そのまま両手で収まるかどうかといったそこそこの大きさを有する茶色い段ボールを切り開くと、中からは黒基調の厚紙で作られた箱がマトリョシカの様に出てくる。
「重たっ……!?」
中から出てきた黒い箱を抱えて段ボールから出そうとしたが、思ったより重量があった。仕方が無いので諦めて段ボールの側面部分を切り開き、中の箱を滑らせるようにして取り出してみる。
持ち出してみると、黒い厚紙の箱の中にはさらにアタッシュケース型の箱が入っていた。かなりしっかりとした材質で作られているように見える。
アタッシュケースもどきの箱の表面には『八重樫社』という文字が直線的な格好いい書体で書かれていた。
「何々……?」
ケースを開くと、中にはバイク乗りが使うような形状をしたVRヘッドセットと思われる物とリストバンドのような形をした周辺機器、取扱説明書、それに加えて故障時対応用の保証書等が入っていた。
取扱説明書を手に取る。こういうのはちゃんと読むタイプなのだ。こういう電子機器は思わぬタブー操作があったりするし。後で保証書の登録とかもしておこう。
暫くトリセツを読んだらいよいよ電源を入れる作業に移る。ヘッドセットだけでも動かす事自体は可能なようだが、より安定して機器を動かすにはPCが必要らしい。
丁度、大学入学時に買っていた無駄にハイスペックな物を持っていた為問題無い。猫に小判だったPC君もいよいよ本領発揮出来ると心なしか喜んでいるようにも見える。
「あぁ、もうこんな時間か。」
ヘッドセットを持ちながらふと、時計を見れば時刻は午後6時に至ろうとしている。このタイミングなら先に夕飯を食べた方が良い気がする……が。
「まぁ良いか。」
ヘッドセットとPCの接続設定を行い、手と足首に付属していた周辺機器を取り付ける。説明書いわく、どうやらこの機器で体を流れる電気信号を受け取り、動きをゲーム内に反映させているらしい。
「じゃあ行くぞ……!」
布団に横になりヘッドセットの電源を入れ、被る。直後、俺は猛烈な眠気に襲われ、意識を手放す事になる。
* * *
目を覚ませば白を基調とした空間。既に自分は何かしらの共通スペースに居るようで、辺りには見知らぬ人間の物と思われるのアバターがちらほら見えている。
「すげぇ……!」
目の前に広がるバーチャルな技術によって作り出された景色に、思わず感嘆の声を漏らす。
『ようこそお越し下さいました。ゲスト様。』
突如、視界の外から声を掛けられる。
「えっ、誰?」
『私はこの空間内でゲスト様のお手伝いを行うサポートAI、シエラです。サポート不要である場合は視界右下の設定より……』
声のする方を見るとそこには白基調、女性的なフォルムをデフォルメしたような見た目の人型のロボットが立っていた。いや、仮想空間な訳だからロボットの風貌をアバターに持つAIか。
ただ俺の関心はそこでは無かった。
「凄い。音が違和感なく聞こえる。」
サポートAI、シエラと名乗ったこのロボットの発した音声はタイムラグ無く己の耳に現実とほぼ変わらない音質で届いた。
『フルダイブ技術ですから。現実世界で感じうる体感は全てほぼ完璧に再現可能となっております。』
シエラは擬音を付けるならばまさにドヤ!といった表情と共に胸を反らす。何故コイツが自慢気なんだ?
「マジか。」
現実世界で感じうる体感全てがほぼ完全再現可能とはびっくりした。とんでもない技術だな。
『という事でゲスト様、まずはアカウントの登録等の設定から始めるのがよろしいかと思います。』
「あぁ、それやらなきゃですか。」
ハイテクな空間といえど、メールアドレスの登録等の若干面倒な手続きは変わらず残っているらしい。
結局数分間、メールアドレスの認証手続きやなんやの登録に時間を取られる事となった。
途中、『仮想空間内でスムーズにお買い物が出来るようになります。』と銀行口座の登録も提案されたが今回のように衝動的に買い物をしてしまったらたまらないと思い、とりあえずは辞めておいた。自制心が大事だと思う。
『それでは最低限必要な設定は以上になります。何かお困りの際は画面右下のヘルプより……』
登録手続きが終わるとシエラは事務的な内容を伝えるとお辞儀をしながら俺の視界から消えていった。
仮想空間内に一人ぽつんと取り残される俺。一応周囲に赤の他人は居るが。
「じゃあいよいよ本命のゲームへ手を付けますか……!」
俺はそう独り言を呟き、手を空中で右から左へ撫でるようにしてメニュー欄を開く。説明書いわく、メニュー欄表示の為の動きは個人で設定できる上、意図せず動作を行った時にメニュー欄が開いてしまうといった誤動作も防げるように作られているらしい。凄い。
開いたメニュー欄からゲームを選び、選択する。
エルドラドオンライン。昔から続く人気ゲームシリーズであり、〝エルオン〟等といった愛称で呼ばれている。今回からプレイしていくのはエルオンシリーズの最新作。
プレイヤー達は伝説上に存在するという黄金郷を目指し、障壁となる猛者達と戦う事になる……、といった背景ストーリーが存在するらしいのだが、それはエルオンではあまり語られないらしい。
別枠で存在するエルドラドRPGシリーズではストーリーがメインらしいが。
エルオンは多くの場合、プレイヤー同士が一対一で戦う、いわゆる格ゲー色の非常に強いゲームであるが、使用できるキャラクターのカスタマイズ要素が非常に大きい為、多彩な戦闘スタイルが生み出されるゲームであった。
「とはいえ俺数回しかやった事無いんだけどね。」
エルオンは正月の親戚一同が集まるような機会にゲーム好きのいとこに誘われて何度かプレイした程度の記憶しか無い。当然いとこはゲームを持っている側の人間な為強い。ボコボコにされたのを覚えている。
ゲームを開いた直後、オープニングムービーが流れ始める。フルダイブ形式のゲームという事もあり全方向から音と映像が流れ込んでくる。大迫力だ。
オープニングムービーが終わるとそのままキャラメイク画面へと誘導された。かなりキャラメイク要素も凝っているらしく、骨格から弄る事が可能となっているようだ。
ただあまりにも現実の体型と乖離したキャラを作ってしまうと操作に慣れるまでに時間が掛かる傾向があるのだという。
そういう事情もあり、身長と体重は現実の物と同じ170㎝の72㎏に設定した。ゲーム内でのステータスには一切関係が無いとの事なので気軽に設定できる。
「キャラの顔……は万が一知り合いに合った時とかにあんまり元と違った顔だと恥ずかしいから現実寄りで良いか。」
ヘッドセットのセキュリティシステムである顔認証を流用した機能を使い、現実の顔と殆ど同じ顔面データを生成する。後は若干自分の好み寄りに弄くるだけにしておいた。髪型も現実と同じ、若干目にかかるか程度の短髪のままで良いだろう。
体型と頭を設定し終わった後はゲーム内に直接影響を与えてくるキャラメイクを行っていく。ここからがキャラメイク本番といった所だろう。
「まずは職業決めですか。キャラメイク後もいつでも変更可能らしいから色々使ってみてからメインを決めるのも悪くないかな。」
エルドラドオンラインには職業システムが存在する。各職業にはそれぞれ決まった技が割り振られており、プレイヤー達は状況に応じて割り振られた様々な技の中から有効であると判断した物を使い、勝利を目指すのである。
各職業の固有の技はジャンケンのようにあっちには強いがこっちの技には弱い、といった相性が存在し、一概にどの技が強い、とは明言しにくい構図となっているらしい。
何故こういった基礎知識をまともにエルドラドシリーズをやった事の無い俺が知っているのかと言ったら、ヘッドセットを注文した直後からシリーズの攻略動画を時間のある限り見ていたからである。お陰で既に何となくの概要が理解できていると思う。
「何の職業にするかなぁ。シリーズ未経験者は戦士を最初に触るのがオススメって結構な数の動画が言っていたけど……。」
何の職業にしようかな、と目の前に現れていたパネルをスライドする手がふと止まる。
視線の先には俺がこのゲームを始めるきっかけとなった大会動画の中でリオン選手が使っていた職業。
「重騎士……。」
* * *
ずしり、と己の足が普段よりも重たい事を実感しながら地面を踏みしめる。
全身を鋼で作られた分厚い装甲に覆われ、己の胴体程はあろうかという大きさのこれまた鋼で出来た盾を掴む。
鋼鉄の兜のような物を被っている筈だが、何故か視界は開けている。
リオン選手への憧れに引っ張られ、重騎士を選ぶ事にした。強豪選手が使うくらいなのだから、強力な職業だろうとは思うから後悔は無い。
現在は仮想空間内に生成されたグラウンドのような場所に一人立っている。ここは一人練習用のステージらしい。
「さて、じゃあ武器を選ぶか。」
武器選び。エルドラドシリーズ特有のシステムと言っても過言では無いシステムであり、シリーズの格言として『武器が9割』という物すらあると言う。
職業は全て重量級、中量級、軽量級の三つの階級に割り振られており、それぞれの階級ごとに使用可能な武器が用意されている。
職業によっては複数武器の使用が可能……や特定職業のみ使用可能な武器があったりと例外はあるが、基本的には武器は戦闘の場へ一つしか持ち込めない。
「沢山あるなぁ。」
練習ステージの端の方にずらっと立てかけられた武器を見て志那は呟く。
重騎士が使用可能な階級は重量級の武器。重たい武器が持てるのなら軽い武器も持てるだろう、と言いたくなるが、そこはゲームのバランス上駄目なのだろう。
ふと、武器が目にとまる。2mはあるかといった長さを持つ槍の先端の方に斧のような形状をした刃物が付いている武器。
「ハルバード……ってまんまリオン選手の使ってる武器じゃんか!職業に武器まで合わせたらそれはもうファンなんよ……。」
視界に止まるのはリオン選手の使っていた武器。しかし、志那はこれまでにYouTubeで見た動画を思い出す。
「リオン型。」
重騎士とハルバードを合わせた組み合わせが、すでにリオン選手の名を冠した型として、強力な組み合わせであると広く知られている。確かエルオンのランクマッチでは上位帯の方で多く使用されていると言っている動画もあった。
「強いなら、しょうが無いよね?」
憧れのプロ野球選手の物に似たグローブを買う野球少年のような気恥ずかしさを感じながらも、志那は立てかけられたハルバードを掴む。
ここから数時間、志那は練習場で一人ダミーの人形に向けて夕飯も食べ忘れたまま夢中でハルバードをひたすら振り回す事となる。
こうして志那はエルオンの世界へ足を踏み入れる事になった。いずれ志那と戦う事になる猛者の誰しもが、まだ彼の気配には気付かない。
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