その出会いは、突然に。
日が沈み切り、宵のうちの駅前。
線路を駆けようと、じわじわ音を鳴らしながら
電車が前進する。
人が行き交う出入口を過ぎ、
ホテルやビル群がズラっと立ち並ぶ大通り……
車やバス、タクシーなどが颯爽と駆け抜けていく。
街灯やネオンの光を受け、
身に付けていた指輪がほんのり光った。
駅から少し歩き、人気の無い路地裏に入る。
ズボンのポケット、微かに震え光が点った。
足を止め、スマホを取り出し通知を確認する。
『彪~? サバイバーウォーズ10時からで… …』
(へいへい……)
ゲームの誘いだ。
了承を返事をしようとロック画面をスワイプすると、
小さく弾く音が鳴り、
「 … あれ?反応しねぇ 、あぁ……」
吐いた息が白く目立つ時期だ、
手袋をしていたのを忘れていた。
(めんどーだなぁ)とか思いながら外し、
上着のポケットにしまい今度こそ。
無事に返信を完了すると、スマホを握った手ごと
ポケットに入れ再び歩きだす。
ビルとビルの間に挟まれた、少し窮屈さを感じる
この通路は、自宅がある住宅街への近道だ。
ナビで案内されるようなちゃんとした道で行くより、
5分早く着く。信号も無いしね。
「うぃ~ 寒っ……」
声が漏れてしまう程の気温の低さを感じながら、
目を細めゆっくりと前へ進む。
( …ん?)
あれはなんだろうか?
端に置かれたダンボールが目に止まった。
朝には無かったものだ。
眉をひそめ近づいていく。
薄暗くてはっきりは見えないが、これは…
「 白い…猫?…だ……」
しゃがんでスマホの明かりで照らす。
(この猫やけに小さくねぇか?)とも思ったが、
動物関係は疎い。こーゆー種類も居るのかね?
「なんかあげたいんだけどなぁ……」
背負っていたショルダーバッグの中身を探りながら猫が
食べれそうなものが無いか確認する。
「ガムなんて食べる訳ねぇしな…持ってる飲食物
ガムとカフェオレしかねぇ俺……」
どうしようかと悩んだがどうしようも出来ない。
けど妙にその猫に魅了されているように感じた。
(コンビニかスーパーでなんか買ってくるか)
そう思い立ち上がろうとした時、
『その指輪……、何処で拾ったの?』
突然、脳内にその言葉が反響した。
(女の子の声……?)
強烈に入り込んで来る感じ、聞く事を拒否できない感じ、不思議な感覚だった。
「こ、これはじいちゃんの形見だけど……」
自分の意思でこの言葉を発した訳では無い。
何かに口を動かされた。
訳の分からない状況から、ハッと我に返る。
バッグから白猫へずらした視線の先、あれ?
「靴……? 黒い靴下……? ……脚?」
ダンボールに入った白猫は居なかった。
というかダンボールすら無くなっていた。
今、目の前にあるのは人間の足だ。
( え……? なんで……? )
疲れてるのか…幻覚を見てるのかな?と、
自分の目を疑う。
(いやいやどう見ても足だよなこれ……)
視線の先を順番に上げていく。
靴、
黒い靴下、
細い脚、
チェック柄のスカート、
さらに視線をずらしていく
( 制服……?スタイルいいな、
胸……?リボン着いてるし、 )
何となくだが、女子高生?と判断した上で、
いよいよ顔を拝見する。
「あ……」
目に映ったのは、小顔で、笑顔……
髪は雪のように鮮やかに白く、ボブだ。
気になったのは彼女の頭上だ。
カチューシャとは考えにくい自然と生えたような、
猫耳が付いていた。
彼女は怒ったり敵対してる感じでは無いが、言葉を発する事も無く、こちらをじっと見詰めている。
自分の感覚がおかしくなければこの子、
(めちゃくちゃ可愛い…)
俺も自然と体が反応し立ち上がる。
下から見上げてたから詳しく分からなかったけど、
身長は意外と低い。150cmくらい?かな?
「 君… さっきの白猫?」
先に数秒の沈黙を破ったのはこっちだった。
直感的に思っていた事が、自然と口から溢れた。
「おぉ~! 正解っ!」
今度は彼女が返事をしてきた。
(正解なの?それはそれで疑問だぞ……?)
とりあえず会話はできるっぽいなと質問しようとしたが、
「君、騎士にならないっ!?」
彼女の方が先に話し出した。
いや突然だな。
てか、彼女なんて言った?今、
「 … … え? 騎士?」
なかなか理解できなかったので聞き直す。
「 そっ!騎士!」
と言いながら猫耳の少女は、俺が来た道の方を勢い良く
指差し、つられて視線を指の先へ移す。
正確に言うと指差していたのは駅前のビルの壁にある、
電光掲示板だ。
【光の騎士団、悪夢の討伐に成功】
流れてくる画面に映っていたのは、
この文字だった。
そこで初めて騎士の意味を理解した。
【 光の騎士団 】
それは、「悪夢」という人間の悪い夢から生まれ、人間を次々と襲う化け物に対抗する為に、
日本政府が公認している悪夢討伐組織だ。
基本的には試験を受けないと騎士にはなれない。
「私の推薦だったら大丈夫よ、
の騎士は嫌な顔するだろうけどね、」
彼女はにっこにこで自信満々に答えた。
(それ苦しむの多分、俺なんだけどなぁ…)
一応お偉いさんの推薦でなれる事は知ってる。
ということはこの人、結構偉い人?
それはそうと、
「なんで俺を推薦するんですか?」
これが一番の疑問だった。
通りすがりのただの高校生である俺を
この人はなんで推薦するのか……
「直感っ!」
… … … は?
「私、人より5倍勘がいいからね … …
君、相当活躍するよ」
「それあんたの直感が外れたら、
俺ただ死にに行くだけやんけ」
「 正解ッ!」
(ビックリするぐらい軽いなおい)
悪魔がやべぇ奴なのは一応知ってるから、
心の中でツッコミを入れる。大丈夫かこの人。
「まぁ、そうならない為に今から君を試すから、」
「 着いてきてっ!」
そういいながら走り出して行った。
「え、ちょ、待て待てっ……」
(試すって何やねん~ッ)
いきなり過ぎてまだ状況把握は完璧では無いが、
自然と彼女を追いかけていた。
想像出来ないくらい凄い事がおきそうな予感、
全部分かっている、だけど不思議だ。
この状況が嫌では無かった。
心が弾むような、これから起きる事を楽しみにしている
自分がいた。
光があまり届かない路地裏で、身に付けている
指輪が小さく光り輝いているなど、気付きもしなかった。
師走の空気を切り裂き駆けていく2人の足音が、
路地裏に鳴り響いた。
第1話 .路地裏の出会い。 END