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2 人買いの館と宿屋でのこと

 気が付くと、レイラたちは村から遠く離れた「人買いの館」と呼ばれる場所に到着していた。

 周囲は森に囲まれており、人気はまるでない。

 しばらくそこで衣食住を世話されることになったが、衰弱したまま死んでしまう子もいた。

 レイラも両親が亡くなり、生きる希望は皆無に等しい。

 なんとか生きている「だけ」の日々だった。


 やがて、一人の男が「人買いの館」にやってきた。


 ひどく目つきが悪い男だった。

 病的なほど痩せていて、身なりもあまりよろしくない。

 意地の悪そうな笑みを浮かべているのを見た時、レイラはこの人にだけは買われたくないと思った。

 しかし、金払いが良かったのか、人買いは上機嫌で子供たちを紹介する。男は並みいる子供たちの中から、よりにもよってレイラを選んだ。


 レイラは男が乗ってきた馬の背に乗せられ、山を二つ越えた北の街へ連れていかれた。

 そこは大きな川が中心地を流れる、リバーウォークという街道沿いの都市だった。


「おい、もうすぐ着くぞ」


 男の声に顔を上げると、町はずれの川のほとりに、一軒の宿屋があった。

 男はそこの主だった。

 宿屋では、男の妻と二十歳になる息子も働いていた。

 妻は主に接客や帳簿づけの仕事をしており、息子は厨房で鍋をふっていた。


「お前は脱走するんじゃないよ」

「脱走……?」


 妻はレイラに、自分を「おかみさん」と呼ぶように言った。

 なんでも以前働いていた下働きの娘が脱走したので、レイラはその代わりだという。

 レイラは「なぜ前の下働きがいなくなったのか」を疑問に思ったが、働きはじめるとそれはすぐにわかった。


 まず、作業量が半端なく多い。

 朝五時に起床したあと、休む暇もなく仕事が続く。

 宿屋の共用部分の掃除、食堂での朝食の準備、食堂の後片付け、各部屋のベッドメイキング、客が使ったシーツの洗濯、昼食の準備、片付け、洗濯物の取り込み、共同浴場の掃除、夕食の準備、片付け。

 すべてが終わってから床に入るのはだいたい日付が変わる頃で、レイラは毎日クタクタになった。

 それに加えて、なにか少しでも失敗すると宿屋の連中からひどい叱責が飛ぶ。

 これではどんな使用人も逃げ出したくなると思った。


 レイラは何度も投げ出したくなった。

 しかし、もう自分には行くところはない。

 おそらくここで死ぬまで働く運命だ。そう悟ったレイラは、すべてを諦め、せめて真面目に働くことを決意した。


 幸い、お客さんたちはみな親切だった。

 幼いながらも懸命に働くレイラにみな好意的だった。


 レイラは客たちとの交流だけを支えに、何年も頑張ってきた。

 しかし、それもレイラが十五になると……様子が徐々に変わってきた。


 レイラはもともと美しい銀髪と空色の目を持っていたが、やせぎすでいつも薄汚れていたので、ただのみすぼらしい子供だと思われていた。

 しかし徐々に成長して肉付きがよくなってくると、声をかけてくる客が現れた。


「こんなところでいつまでもこき使われてないでさ、そろそろ俺の嫁に来いよ」


 そんな場面を見た宿屋のおかみさんは、氷のように冷たく言い放った。


「この子はいずれ息子のジェフの嫁にするんだ、誰にもやる気はないよ!」


 それを聞いたレイラは息が止まるほど驚いた。

 なぜならジェフのことはそれまでなんとも思っていなかったからだ。むしろひどい言葉をしょっちゅう言わていたので嫌っているほどだった。

 しかし、ジェフの方は違った。

 前々から母親にそう言い含められていたようで、最近ではレイラを変な目で見ることが多くなっていた。

 そのことに思い至ったレイラはぞっとした。


「……安心しろ、十六になるまでは手は出さねえよ。おふくろとの約束だからな」


 意地の悪そうな笑みを浮かべられて、「この男はやはり宿屋の主の息子だ」とレイラは思った。

 これ以上の絶望はない。

 こんな性格の悪い男と、夫婦になんかなりたくなかった。


 ただでさえ笑顔の少なかったレイラは、それ以降めっきり笑えなくなってしまった。

 どんなにおかみさんに「客の前では愛想よくしろ」と言われても。

 なんのために生きているのかわからなくなってしまったのだ。

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