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45 通じあった想い

 そして今、私は先輩と久しぶりに2人きりになっていた。


 喧騒から外れた建物の陰。他に人がいなくなってしまえば、祭り囃子の微かな音色が、私の鼓膜を揺らすだけ。


 夜の涼しさを含んだ風が、私たちの間をすり抜けた。


「花」


 先輩に名前を呼ばれ、甘い期待に胸がざわめく。自分の名前に特別な意味を与えられたような、そんな気持ちが胸の奥から湧いてきた。


「はい」


 少しだけ震えてしまった声。浴衣のたもとをきゅっと握ると、紺地に舞う撫子が恥ずかしそうに縮こまる。


 私たちの間に沈黙が落ちた。

 でもお互いを見つめる視線には、確かな熱があって……。


「好きだ。俺と付き合ってほしい」


 それは、伝えたくて、そして何よりもほしかった言葉だった。待望のものを与えられた私の喉が小さく鳴る。


 そう。返事なんて決まっていたはずなのに。けれどいざ告白されてみれば、つっかえたように上手く声すら出せなくて。


 たもとを握りしめていた手を自分の胸に押し当てる。それから呼吸をゆっくりと整えた。速いリズムで刻む鼓動が私の想いを追いたてて、手なんかじゃ、先走る気持ちを抑えられない。


「私もっ……。あの……先輩のことが好きですっ!」


 そしてペコリと頭を下げる。


「こちらこそ、よろしくお願いします!」


 私の返事を聞いた先輩が、おそるおそる私へ向かって手を伸ばした。覚悟が必要だと言わんばかりの遠慮がちな動きがもどかしい。


 もっと。もっと。こんなときくらい、強引に来てほしい。

 来て、先輩。もっと、もっと。


 待ちきれなくて、私からその胸に飛び込んだ。


「!」


 白いTシャツは爽やかな香りがして、私は先輩の背中へと腕を回す。


「先輩……大好きです……本当に大好き……」


 夏祭りの夜。今日は特別な日。

 非日常の雰囲気に助けられて、私はかなり大胆になっていた。


「俺もだ」


 先輩が照れたように返してくれて、それから額と額をコツンとぶつけて微笑み合う。


 私たちはどちらともなく手を繋ぎ、東港大社をあとにした。悲しみにくぐった鳥居を、今は面映ゆい気持ちで通り抜ける。





 初恋は波瀾万丈だった。実りもしないと思っていた恋の花。それは紆余曲折を経て、私たちに「未来」という名の大きな果実をもたらした。


 消しきれなかった私の想いを、交換日記がちゃんと伝えてくれたから……。


 交換日記。それは淡い青春の思い出。


 私たちにとっての幸せの青。


 それはきっと、あの水色の大学ノートだったのかもしれない。





** fin. **

あと1話あります。作者的には必読です( ・∇・)


ちなみに花ちゃんが熱中症で倒れたときは、先輩はスポーツドリンクを買いにいってました。それに、体を冷やすときにちょっと服をゆるめたりしたので、お母さんが追い出したのもあります。先輩のお母さんが言わなかったのは、花ちゃんに気を遣わせたくなかったからです。


ブルーは結婚式のときに身に付けるといいそうです。花嫁の清らかさを表します。指輪の後ろに刻印と一緒に水色の石を入れたりとか。さすがに交換日記はないですが……。

青は幸せの色だなっと思って。


一応この物語は、大人になった花ちゃんの回想という形をとっています。

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