44 新たな扉
頭を空っぽにしてお読みください。
お面男もとい飯尾くんの言葉に誘われて、ギャルとお兄さんの方に目を向ける。ちなみに彼らの側には、大人の話し合いに圧倒され、石像と化している先輩がいた。
「……ふん! そこまでお願いするなら、また付き合ってあげてもいいけどっ。でも! 満足させてくれなきゃ、次こそはもう絶対に許さないんだからねっ!」
ギャルが叫んで。
「ツンデレか」
飯尾くんが遠くから、小さな声で突っ込んだ。
恥ずかしそうにそっぽを向くギャルと、その足元に恭しく跪くお兄さん。まるでわがままなお姫様と、彼女に忠誠を誓う家臣のようだ。
「はい。必ずや期待に応えて見せます」
なんだか、お兄さんの口調がおかしい。
「杏さま」
(杏さま?!)
「い、飯尾くん! お兄さん、キャラ変わってるよ?!」
「そうらしい。どうやら兄さんは新たな扉を開いたようだ」
「新たな扉……?」
飯尾くんは腕を組み、1人満足そうに頷いた。
「罵倒やヒール、緊縛……。未知の刺激によって開かれためくるめく官能の世界。兄さんは勇敢なる第一歩を踏み出して、あちらの世界の住人になったのだろう。松原杏と兄さんの間にあった障害は、最早完全に消え去ったのだ!」
「よくわからない……って、あ! 足にキスしてる! 汚なくないの?!」
私が焦って飯尾くんのお面の紐を引っ張ると、バチンと弾かれる音とともに、某キャラの顔がこちらを向いた。
「フッ。花ちゃんには理解できなかったかな。2人が満たされているなら、良いではないか」
飯尾くんと私は、暗闇にしけこむギャルとお兄さんの後ろ姿を見送った。
「終わったな……」
飯尾くんが言う。
「うん、飯尾くん……。 ありがとう」
私はお礼を返した。
「礼なんて要らない。……おい、センパイ!」
飯尾くんが石化している先輩を、よく響く声で偉そうに呼びつけた。
「!」
先輩がハッとして、私たちの方を見る。
「ビシッと決めることだな。咲谷を狙っている男は、実は相当多いんだぞ?」
「……ああ、わかった」
「ではな、アデュー!」
そして飯尾くんは、お面のまま去っていった。2本指の、無駄にカッコいい敬礼を残して。
魔王飯尾くんもSなので、お兄さんがMになれば、ますます兄弟としてのバランスはとれることでしょう。
次でいよいよ……です♪(/ω\*)




