41 ギャルの悪行
「あ、ああ、わかった」
先輩が意外にもすぐに納得してしまったことに、私はお面男の底知れぬ力を体感した。そしてなんだか脱力する。
たしかにこの場の空気は一種異様で、カリスマ監督E-O演出の舞台にあげられた者たちは、不思議なほど彼に逆らえない。
(先輩、雰囲気に飲まれてる……。ちょっと、ううん。だいぶ助かったかも……!)
この勢いで告白をしたら、お面男の魔法が解けた後も大丈夫かもしれない。私は慌てて「せ」の形に口を作った。
「せん……」
「キスはどう説明するのよ?!」
でもそうは問屋が卸さない。ギャルはやはり手強かった。
「だからキスなんてしてませんっ!」
必死に言い返す私を尻目にお面男は悠然としていた。私が泣いたときに見せた動揺は本来の彼ではない。この傲岸不遜な態度こそ、紛うことなき彼の本領だ。
「あれは間抜けなこの女がわたあめを前髪につけていたから、イケメン王子が取ってやっただけだ」
今なら自分のことを「イケメン王子」と自称するのも菩薩の心で見守れそうだ。それにひどく曲者ではあるけれど、彼がイケメンであることは間違いない。
「百歩譲ってそうだとしても、そんなこと、狙わなきゃできないわ! きっとキスをおねだりしてやったのよ。ろくでもない女ってことには変わりはないんだから! 逞は騙されてるわ」
「ふ、騙されているだと? どの口がほざくか」
お面男が小馬鹿にしたようにせせら笑う。表情は見えないのに、残念ながら彼のことはよくわかる。
「そういうことを計算なしにできるのが、この咲谷花という女なんだ。ちなみに潤んだ瞳での上目遣いは抜群の破壊力を誇る。な? センパイ?」
先輩を見ると真面目な顔で頷いていた。悪い女だと言われたみたいで泣けてくる……。
「松原杏。そもそも貴様に咲谷を責める資格はない」
お面男がギャルのフルネームを知っていたことに、私は衝撃を受ける。
「まさか……! 2人は知り合いなの?」
私の方をチラ見して、それからお面男はギャルを勢い良く指差した。それはそれは指先からビームが出せそうなほどキレッキレの動きで。
「僕はすべてを知っているんだ! 貴様の不埒な悪行三昧をな!」
桃太郎侍、知っていますか(*´∀`)? でも何のことか、わからない人も多いかな。最後のセリフです。




