40 お面の男
(本屋さんの会話? もしかしてあのテストが終わった日のこと?)
「あの……先輩……聞いていたんですか?」
「ああ」
私が尋ねると、先輩はばつが悪そうに頷いた。そういえば1学期の終業式の日に、あそこの本屋は先輩もよく行くと話していたことを思い出す。
飯尾くんとの話を聞かれていたことにまず驚いたが、どうしてそういう帰結に至ったのかがよくわからない。
(遠距離恋愛の彼氏がいるなんて、あのとき私は,一言も言っていないはずなのに……)
でも事実はともかく、先輩たちがそう思い込んでいることの方が問題だった。
遠距離恋愛中にも関わらず先輩と親しくし、飯尾くんとも浮気をした最低な三股女。既に貼られてしまったかもしれないレッテルはこの上なく不名誉で、一般的な高校生としては極めて不健全だ。
(早く誤解を解かないと……。でもどうやって?)
既に私は、遠距離恋愛も飯尾くんとのキスも、すべてを否定し終えている。でも未だにこの場の空気は微妙だから、きっとまだ先輩の心には何かが引っ掛かっているに違いなかった。
誠心誠意を尽くして、1つずつ誤解を解いていくしか方法はないけれど、ギャルの般若の形相をみる限り、それを許してくれるとは思えない。
(どうしよう……。彼氏がいるって飯尾くんに嘘をついたのが、そもそもいけなかったのかな……)
その罰が今こういう形で下されたのだ。反省するには遅すぎて、乏しい恋愛経験値では対処法もわからなかった。
そのときだった。
「くくく……ははは……あーっははは!」
「「「!」」」
壊れた笑い袋のように、突如辺りに哄笑が谺する。人の世にこの効果音が響くとき、恐怖の魔王が現れるという。
「何?!」
「何だ?」
「……まさか」
異様な雰囲気に緊張感が鋭く走った。私はごくりと唾を飲み、揺れる植え込みを凝視する。現れたのは、某アニメのキャラクターのお面を被った怪しい男。
「待たせたな!」
待っていない。
諸悪の根源がお面の奥で笑ったのが、見えないのにわかってしまった。本当に、今までの自分の苦労を労ってやりたい。
お面は子ども用だから、残念ながら若干顔がはみ出していた。しかしお面のインパクトに押され、彼の正体についてツッコむ度胸のある者は皆無だった。
「その女は嘘などついておらぬ!」
「な、何よっ! どうしてそんなことがわかるのよ!」
あのギャルがたじたじになって押されている。
我が儘な彼女にとって、我が道を行くお面男は天敵足りうるレアな存在なのかもしれない。
「そもそもその女は遠距離恋愛なんぞしていない。彼氏がいると言ったのは、趣味の悪いその女が、イケメン王子を諦めさせるためについた下手な嘘だ!」
(イケメン王子……)
自信過剰にそう言うと、お面男がこちらを向いた。シュールな光景なのに、とんでもない圧を感じる。私は急いで首肯した。
「そう! そうなんです! 先輩、信じてくださいっ」
そんな私のお願いに対する先輩の反応は、まったく予想外のものだった。
完結に向けて一気に謎が解けていきます(*´∀`)




