35 (先輩視点) 目を疑う光景
急いでR15タグを復活させました(((((((・・;)
大嵐の回です。覚悟できる方だけどうぞ。
人と熱気を掻き分けて、俺は必死に花を探す。
屋台に並ぶ人。食べ歩きをする人。祭りの雰囲気に身を任せる人。様々に祭りを楽しむ人々が、芋の子を洗うように参道にひしめき合っていた。
「逞ぁー! 待ってよー」
背中にかけられた声と同時に、俺の横にぴったりと杏が並ぶ。ごく自然に絡ませられた腕を外し、さりげなく距離をとった。
「足が痛いんじゃなかったのか?」
「えーとねぇ、もう治ったみたい! あのときは痛かったんだけど、おっかしーなぁー」
素朴すぎる疑問を口にすると、杏は悪びれもせずに人懐っこい笑みを浮かべた。
杏に恋愛感情はまったくないが、彼女は同じ部活の仲間。テニスプレイヤーにとって大切な足が、何ともなかったことに安堵して、気がつけば優しく声を掛けていた。
「何ともないなら良かったな」
「え……あ、うん。心配してくれて、ありがと……」
気まずそうに礼を言った杏の顔に、一瞬だけ影がさす。しかしそれも束の間のこと。
「やっぱり……子に……は……渡さないから……」
彼女の呟きは、徐々に大きくなる祭り囃子にかき消され、俺にはよく聞こえなかった。
それにしても、屋台がまもなく途切れるのに、花が全然見つからない。
(まさか、もう帰ったとか? でも、相手を待たせていると言っていたから、すぐ帰ることはないはずだ。もしかすると見逃したか……?)
この群衆では見逃すのも仕方がない。それでもどうしても花を見つけたかった。
おそらく花が今日「待たせている相手」とは、終業式の日に顔を合わせたポニーテールの「亜未ちゃん」だろう。
俺に告白紛いの日記を渡したくらいだから、遠距離恋愛の彼氏とは別れたに違いない。
(女子2人が行きそうなところ……か)
せっかくだからひっついている杏に役に立ってもらおうと、女子にしては高い位置にある茶色の頭を見下ろした。
ところが杏は明後日の方向を睨んでいる。まるで暗闇に瞳をギラつかせる野生の猫のように。
その視線の先にいたのは、屋台の切れ目から抜け出す1人の男。わたあめを2つもった藍色の浴衣を纏うあの男に、俺ははっきりと見覚えがあった。
(あいつ、前に花に電車で絡んでいた奴だ。名前はたしか『飯尾』……)
「杏。あのわたあめもった浴衣の男と知り合いなのか?」
「え?!」
杏の過剰な反応に胸が騒ぐ。杏が『飯尾』という男を見ていたことではない。そうではなくて、2つのわたあめが意味することが気になった。
俺は人混みに詰めれない距離に苛立ちながら、早足で去ろうとする彼を追う。
辿り着いた先は、提灯の灯りがまばらな少し遠くて薄暗い場所。そこで大きな石を分け合うように、花と飯尾は座っていた。浴衣姿の2人は暗がりでの逢瀬を楽しむ恋人どうしにも見えて、嫌な予感に胸がざわつく。
(花……)
そのとき。
ちょうど俺の正面の位置に飯尾が回りこみ、膝まづくように花の前に屈みこんだ。そうしてその大きな手を、彼女の白い頬に伸ばす。
そして……。
重なりあって離れた距離。再び覗いた花の顔は、可愛らしくはにかんでいた。
俺の身体から一気に血の気が引く。
「あ、ヤバっ! ラブラブじゃん。キスシーン見ちゃったね……?!」
まだそばにいた杏が、俺に容赦なく止めを刺した。面白そうに様子をうかがう杏が、また腕を絡めたことにも気づけないくらい、俺はショックを受けていた。
キスはしてないので安心してください。角度の問題です(-∀-;)
飯尾くんのことはあっさり呼び捨てする先輩(笑)
そして先輩が思いっきり誤解したところで、花のターンです(鬼畜)




