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31 魔王は空気が読めない

 私は人の群れをかいくぐり、東港大社の奥へと進む。

 人いきれが満ちた参道に、ずらりと立ち並ぶ様々な屋台。提灯ちょうちんのほんのりとした橙色が、宵の入り口の空を照らし、舞台の上からは祭り囃子の音色が響いていた。


「痛っ……」


 慣れない草履で足が痛い。草履を少し足からずらすと、小指の付け根と鼻緒の当たる部分の皮が薄くめくれているのが目に入った。


(どこかで休もう。絆創膏ばんそうこうを貼りたいな……)


 家に帰るにしても、このままではとても帰れそうにない。休めそうな場所を求め、私は足を庇いながら、また静かに歩き始めた。


 と、そのとき。


 グイッ!


 私の肩を強い力で引き寄せる人がいた。まさか、まさか、この大きな手は……。

 期待を込めて、おそるおそる振り返る。


 そこにいたのは、しじら織の藍の浴衣を完璧に着こなす若い男。


「咲谷じゃないか」


 魔王飯尾くんが空気を読まずに現れた!


「ハァ……なんだ……飯尾くんか……」


 道行く女子がチラチラと頬を染めて飯尾くんを見るけれど、私には一切関係ない。とりあえず彼といると魂を高速で削られるので、こんな悲しい夜には会いたくなかった。


 落胆の色を隠さない私に、飯尾くんは不愉快そうに口を歪める。


「なんだとは、なんだ。失礼な奴だな」

「じゃあ、サヨナラ」

「待て。その間抜けな歩き方は怪我でもしたのか?」


 そう、いつだって彼は私の思い通りにはなってくれない。立ち去ってほしいと思って塩対応したのに、むしろ距離を詰めてきた彼は、私の足と顔に交互に視線を走らせた。むず痒くなるくらいじっくりと。


「もうそんなに見ないで! 大丈夫だから」


 私はプイと横を向く。飯尾くんに弱味を見せたら最後、骨の髄までしゃぶられそうだ。


「とてもそうは見えない」

「大丈夫だってば!」

「隠すな」

「隠してないもん」

「隠してる」


 顔をどんなに背けても、回り込まれて艶やかな黒い瞳に囚われる。攻防が終わらない。


(し、しつこいっ!)


 私は根負けした。


「……脚が痛くて」

「そうだろうと思った。……それにお前、そもそも1人なのか? 寂しいやつだな。幻の彼氏とやらはどうしたんだ?」

「ム。飯尾くんだって、1人じゃないの」

「僕は兄さんと来てるんだ。って、……お、おい、大丈夫か?」

「え?」

「涙出てるじゃないか!」


 私が自分の頬に手で触れると、知らない間に一筋の涙が頬を伝っていた。

もう飯尾くんでも良いじゃんΣ(゜Д゜)

……なんてね(笑)

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