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30 あの日見た言葉

昼ドラ展開です。

スキル《ストレス耐性》と《広い心》をセットしてください(T▽T;)

不快になっても責任は負えません……。

 近づいてくる闇は徐々に存在感を増していた。

 曖昧な昼と夜との境界線。その境界線が意味をなさなくなった時、私たちの関係に名前がつく。


「友人」であることは、私もギャルも受け入れられない。だから今夜、私と逞先輩の間には、きっと新たに「他人」という名の切れかけの糸のような関係が結ばれるはずだ。


 東港大社の敷地に脚を踏み入れた。


 紺色に撫子柄の浴衣。それに合う朱色の帯。いつもは下ろしている髪をアップにして、私は先輩に会いに行く。

 浴衣は呉服屋をいとなむ祖父母からもらったもので、今日のような日こそふさわしいと思った。私にとって、勇気を必要とする大切な日に。


 時計を確認すると、時刻は午後6時45分を回っていた。


(……まさか……もう来ているなんて)


 大きな大きな鳥居の下。人混みの隙間から先輩が見えた。


 先輩はTシャツに綿のパンツ、足元はスニーカーと、いつも通りの格好だったので、遠くからでもすぐわかる。


 しかし急いで駆け寄ろうとした私の脚が、途中で勢いを失っていく。


(そっか、そうだよね、彼氏が他の女子に呼び出されたら、心配になるよね……)


 ピンクの花模様の浴衣。光沢のあるパステルの帯。ダリアのような大輪の花がついた帯締め。華やかな現代風の浴衣を着たギャルが先輩にうっとりと何かを話しかけていた。


 私と先輩を隔てる、およそ3メートルの距離。

 それはあまりにも近くて遠い。


「花?」


 先輩がギャルを置いてこっちに来る。


 泣いちゃダメだ。

 泣いたら先輩が困る。

 私は懸命に笑顔を作った。


「今まで……ありがとう……ございました。一緒に勉強したり、バレーを教えていただいたり、とても楽しかったです」

「何……言ってるんだ……?」


 なぜか呆然とした様子の先輩の顔。その後方に、ギャルの勝ち誇った顔が見えた気がした。


「私も相手を待たせているので……。先輩も彼女と楽しんでください……ね? 本当に……お世話に……なりました……」


 言うまでもなく私は1人で来たけれど、気を遣わせないように嘘をついた。


「さよならっ……」


 これ以上話していると襤褸ぼろが出る。投げ捨てるような別れの言葉を吐き出して、きびすを返したそのときだった。


「待てよ!」


 いつの間にか縮まっていた距離に面食らう。先輩の大きな手が私の腕を強く掴んで、真剣な眼差しに心が揺れた。


「あの言葉、俺は見た……」

「え?」

「花が日記にかいて消した言葉だ……! 俺は……」


 先輩が何かを言いかける。


「ちょっと逞! その子、嫌がってるからやめなさいよ」

あん、今は構わないでくれ!」


 先輩が「杏」というギャルの名前を呼んで、彼女の手を払いのけた時だった。


「きゃ!」

「「!」」


 彼女が大きくバランスを崩し、石畳に崩れ落ちる。ハイビスカスの花がついたサンダルが脱げ、少し遠くに転がった。


「あーんっっ! いったぁーい……ひねっちゃった……。起きれない、たくまぁー……」


 先輩の腕が緩んだその瞬間。私は祭りの喧騒に紛れるように、この場から逃げ出した。

花はあざとい女に勝てるのか?!

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