3 今どき交換日記?!
私は家に帰るとすぐに、鞄から大学ノートを取り出した。
その表紙の水色はブルースター(和名 瑠璃唐綿)の優しい色によく似ていた。
スーハースーハー
深呼吸してページを捲る。そこに見えたのは、真面目そうな角々した文字。書かれているのはほんの数行。
『初めまして。北高校2年の桐島逞と言います』
県立北高校は私の高校の最寄り駅の、さらにもう1つ先の駅にある学校で、私の通う緑高校よりも偏差値が少しだけ高い。
2年生ということは先輩なんだ。たしかにクラスの男子より背も高そうだったし、大人っぽかった。
「きりしま……たくま……。桐島先輩……」
初めて知る名前を反芻する。なんだか口にするだけで、頬の辺りが落ち着かない。こそばゆくて、声が掠れた。そして続きを読んでみる。
「えっと、なになに……俺と交換日記をしてくれませんか?」
ん? 交換日記? こうかんにっき?? コンカンニッキ???
衝撃的な一文に、私の思考は動きを止めてしまった。
「って、ええー!!」
とりあえず告白じゃなかったけど、もっと重い。交換日記って。交換日記って! 交換日記って!!
SNS全盛のこの時代になぜ? でも私も緑色のアプリしかやっていない。小鳥も、カメラのも、顔の本も何もやっていない。だってお友だちもそんなにいないし、何だか怖いから。
そもそも私はアナログな通信手段を愛している。中学校のお友だちにも、敢えて手紙で連絡を取っているくらいだ。
……あれ? ということは、もしかしたら私たち、気が合うのかもしれない。
私は早速ペンをとった。でも相手の人となりがよくわからない。何を書けばいいんだろう。とりあえず返事は最低限にとどめておいた。
『私の名前は咲谷花です。緑高校の1年生です』
こんなに緊張して字を書くのは、入試のとき以来かもしれない。高鳴る鼓動に手が震え、呼吸さえも忘れるほどに集中する。
ようやく書き終えて息を吐けば、階下から母が夕食に呼ぶ声がした。