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29 実らない恋の花

 7月最後の週末。夕方からは少し遅い午後6時半。


 東港大社へと続く道には、浴衣を纏う人たちで溢れていた。

 笑みを交わす家族や仲間、恋人たち。まだ先にある祭りの興奮に当てられたのか、既に酔ったような人もいる。


 そんなざわつく真夏の夜。私は1人、緊張した面持ちで赤い大鳥居を目指して歩いていた。


 あの日、私はどうやって家まで帰ったのか、不思議なほど覚えていない。気がつけば自室の狭いベッドの上で、迷子の子どものように膝を抱えてうずくまっていた。


『私? 私は逞の彼女よ』


 あの言葉が私を苦しめるための呪詛じゅそならば、彼女は確実にほくそ笑んでいるだろう。

 穿うがたれた胸は今だって止まらない血を流し続け、呪わしい文言が鬱陶しい羽虫のように纏わりついて離れない。


(逞先輩……彼女がいたんだ。ううん、たぶん最近できたんだ……)


 先輩の真面目な性格からして、恋人がいたら私に交換日記を申し込んだりはしないだろう。


(いつから付き合っているのかな……? テスト勉強は一緒にしてくれたから、その後……?)


 きっと私は遅すぎたのだ。気持ちを伝える機会なんて思えばいくらでもあったのに、私はいつでも躊躇していた。


 そんな失恋確定の私が夏祭りに来たのには理由がある。


 私との接触を断とうとしていた先輩を、交換日記を押し付けるという形で、強引に誘ってしまったのは私。呼び出した私が現地にいないとなれば、人としての仁義にもとる。

 たとえ夏祭り前に恋の答え合わせが終わっていても、やはり私は行かなければならなかった。


(彼女のいる人に告白はしちゃいけないよね……。だから……せめて……)


 私は決心した。


 実りもしない徒花あだばなならば、せめて美しく散らせよう。今までお世話になったお礼と精一杯の祝福を、真心込めて贈れば良い。そして最後はとびきりの笑顔でお別れするんだ。


 遠い未来。私という存在をいつか彼が思い出してくれたそのときに、懐かしく温かい気持ち、そしてほんの少しの後悔を、彼に与えられるように。


 それが私の意地だった。

次話で先輩と対面です。

おや……先輩の様子が……?

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