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27 繋がる希望

 先輩の家の近くの電柱で、具合が悪くなってしまった私。


(ん、冷たい……。ここは……逞先輩のおうち……?)


 50インチほどの大型テレビに、スプリングの効いた革張りのソファー。クーラーがガンガンに効いたリビングで、私は氷枕と氷嚢ひょうのうに挟まれて寝かされていた。


 壁にかけられた時計を見ると、時間はほとんど経っていない。

 それでも頭の中は驚くほどクリアになっていて、むくりと上体を起こしてみれば、真剣な顔でスマホを睨んでいる先輩のお母さんと目が合った。


「花ちゃん!? 起き上がって大丈夫? 救急車を呼ぼうかと思って……」


 先輩のお母さんは小走りでやって来ると、私の顔やら手やら、ともかく露出している肌という肌のすべてをペタペタと撫で回した。

 色んな意味でくすぐったい。柔らかい手の感触も、「お母さん」がもう1人いるかのような温かい気持ちも。


 でも迷惑をかけてしまったことを自覚していた私は、首が胴体にめり込みそうなほど恐縮する。

 情けない自分が許せなくて、氷嚢を強く握りしめた。指先が冷えてピリリと痛いけれど、不甲斐ない自分には必要な痛みに違いなかった。


「大丈夫です。ご迷惑をおかけして、本当にすみませんでした」

「そう……ならいいけど……」


 安堵の息を吐く先輩のお母さん。先輩とよく似たすっきりとした目元を和らげたところを見ると、どうやら多少は安心させられたのかもしれない。


 そこでようやく私は、先輩がいないことに思い至った。


(そういえば、先輩にお姫様抱っこしてもらったような……。気のせいだったかな?)


 恋しい人を求めてわずかに視線を動かした私を見て、先輩のお母さんが敏感に察知する。


「逞を探しているの? ……ごめんなさいね、今は出掛けているの。ちょっと……その用事で……。ね?」


 言いにくそうに口ごもり、それから先輩のお母さんは思い出したかのように、冷たい麦茶を持ってきてくれた。


「本当はスポーツ飲料とかの方が良いんでしょうけど、家になくて」

「いえ、ありがとうございます。……おいしいです」


 砂漠に水が吸い込まれるように、身体の隅々に染み渡る。

 そして私はゆっくりと立ち上がった。久しぶりに地に足がついたような不思議な感覚。うん、大丈夫。自分の足で帰れそうだ。


「逞に用があったんでしょう? ご家族にお迎えに来てもらうか、逞に送ってもらったら?」

「身体はもう大丈夫です! あ……でも……」


 私はそばに置いてあった交換日記の入った封筒を差し出した。


「これを先輩に渡していただけたら……」

「この封筒、何が入ってるの?」


 先輩のお母さんは小首をかしげた。


「ノートです。家に誰もいらっしゃらなかった場合はポストに投函しようかと思っていたので、封筒にいれてきました」

「ああ、そういえば図書館にテスト勉強をしに行くって、逞が言っていたわね。あれは花ちゃんとだったの。わかったわ、きちんと返しておくから」


 どうやら勉強のノートを借りたと勘違いしてくれたようで、私もこれ幸いと、敢えて交換日記だとは言わなかった。やっぱりちょっと恥ずかしい……。


「ありがとうございます!」


 私は告白への道筋が開けたことで、うっすらとした希望を見出みいだしていた。夏祭りの日、先輩が来てくれるかはわからない。でももしかしたら、来てくれるかもしれない。


 頼りない針の穴ほどの希望でも、私は賭けてみたかった。

次回、びっくりな展開ですΣ(-∀-;)

「そ、そんな! 先輩にまさか!!」


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