表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/46

26 幸せな白昼夢

 電柱にへばりつく私を見つけてしまったのは、あろうことか先輩のお母さんだった。


「まぁ、花ちゃんじゃない! こんにちは」

「こ、こんにちは……」


 女優顔負けの美麗な笑顔を前にして、私の鼓動が一足とびに駆け上がる。激しい動揺を抱えながら、私は電柱を背後にづいた。


(まさか好きな人のお母さんに見られるなんて……。危ない女だと思われたかも……)


 飯尾くんのお兄さんが電柱の影から、好きな子をスト……ゴホン……もとい見守っていることを知ったとき、私は正直ドン引きした。でもあれは、一般的な女子としては至極真っ当な反応だと思う。


 だとすれば先輩のお母さんも、ニコニコ笑顔の裏側で、盛大に後退あとずさりしているかもしれない。

 深々と下げた頭に、真夏の日射しと先輩のお母さんの視線が突き刺さっているような気がした。


「逞に用かしら?」

「はい……! あれ……?」


 急に頭を上げたらフラついた。血がめぐっていないような、酸素が足りていないような不思議な感覚。身体の芯に熱がこもって、頭が痛い。降り注ぐ蝉の声が静かに私から遠ざかる。


(力が入らない……)


 先輩のお母さんがさしている白い日傘。それが私の視界に広がって、カメラのフラッシュのような真白い光に包まれた。そして忍び寄る漆黒の暗闇……。


 平衡感覚を失って、足元が揺らいだ。


「花ちゃんっ?!」


 先輩のお母さんの焦った声を聞きながら、私の意識は氷よりも速く、夏の暑さに溶けていった。


 * * *


 私は熱に浮かされて、都合の良い夢を見た。


 壁にもたれる私を覆う白い日傘。その淡い光の向こうから私の王子様が現れる。心配そうな表情が愛おしい。それからすぐに力強い腕に囲われて、お伽噺とぎばなしのお姫様のように大切に抱っこされるのだ。


 そんな幸せな白昼夢。揺りかごのように揺蕩たゆたって、このまま身を任せたかった。


(「好きです」って、せっかく書いたのに消しちゃったな……)


 夢とうつつ彷徨さまよう私は、そんなことを回らない頭で考えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ