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25 同じ穴の狢

 終業式の夜、私は泣きながら眠りについた。


 そしてその翌日。

 まぶたを腫らした私がリビングに姿を見せた途端、細い糸が弾かれたようなピンとした緊張感が、咲谷家を支配した。


 いつもは仔犬のようにくっついてくる弟が、その日はやけに遠巻きにしていたし、母は大好物のプリンを私に気前よく譲ってくれた。

 更に父からは「花は昔、お父さんと結婚するって言ってたよな? 家にずっといたっていいんだよ」というありがたいのかよくわからない謎の言葉を贈られる始末。


 そんな風に家族全員に気を遣われて、とても申し訳ない気持ちになったけれど、その深い愛情は私を充分に元気づけた。

 悲しい結末になったとしても、きっと家族の存在が救いになってくれるはず。そう心から信じられたから。


 でも、世の中は上手くはいかないもので……。


 その後も交換日記は、涼しげな顔で私のところに居座り続けていた。


(どうしよう! 早く渡さないと……)


 園芸部の水やりのために終業式後も既に2回は登校していたのに、結局先輩には会えていない。

 先輩だってテニス部の練習があるはずだから、ニアミスくらいはできると高をくくっていたのがいけなかった。


(未だに会えないってことは、やっぱり避けられているんだよね……。先輩はもう会わない方が良いって思っているみたいだし、当たり前か……)


 ため息ばかりの毎日が過ぎて、気がつけば東港大社の夏祭りまで、残すところあと2日。


 時間がない。


 そこで私は最終手段をとることにした。


  * * *


 ここは東港大社のお膝元。先輩の住む隣り町。閑静な住宅街にまばらに立つ電柱と、そしてその影にいる「私」。


(ついに私もここまで……)


 私は、飯尾くんのお兄さんと同じ穴のむじなに成り下がっていた。

 亀のように首だけ出して、10メートルほど先にある「桐島」という表札を確認する。


 私はこの日のために、脳内でシミュレーションを済ませてきた。準備はたぶん万端だ。


 基本的には玄関チャイムを鳴らしての真っ向勝負の予定だけど、もし会えなかったり、会うことを拒否されたら、ポストインするなり何らかの方法で交換日記を押し付けたうえ、夏祭りにすべてを賭けようと決めていた。

 最悪、夏祭りに待ちぼうけというパターンもあるけれど、そうなった場合はそれが何よりも雄弁な答えだから、いさぎよく諦めるしかない。


 私は封筒に入った交換日記を、はやる鼓動ごと抱きしめた。


 ドキドキドキドキ……


 電柱にへばりついて呼吸を整える。緊張のせいか、暑さのせいか、こめかみや背中にじんわりと汗が滲んだ。


(うう……覚悟していたとはいえ、緊張する……。深呼吸しようかな……)


 スーハー スーハー スー……


「こんなところで何をしているの?」


(ハゥア!?)


  ゴクリ……


 慌てて呼吸を飲み干して、おそるおそる振り返る。私の目の前には、青い空と白い日傘を背景にした見目麗しい女性が立っていた。

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