19 告白の舞台
土曜日に続いて日曜日も、私たちは夕方まで勉強した。
まだ明るいうちに帰るアスファルトの道は、火からおろしたてのフライパンのようで、角度を落とした太陽もまた、執念深く私たちを追いかけてくる。
「先輩、あれは?」
商店の壁に貼られた紙が、暑さに参る私の目を、運命的に惹き付けた。
「東港大社の夏祭り……」
白い紙に力強い達筆。私がそれを読み上げると、先輩は私の関心を拾い上げ、すぐに説明してくれる。
「それは地元では有名な祭りで、町中の人が集まるんだ。毎年7月最後の土日にやってる」
(浴衣、お祭り、非日常……。これはチャンスかもしれない……!)
私はさりげなくリサーチを開始した。
「東港大社はここから近いんですか?」
「近い。花がまだ歩けるなら行ってみるか?」
「はい! 行ってみたいです」
「……わかった。なら、ちょっとそこの日陰で待ってろ」
「?」
そう言うと先輩は角を曲がって、姿を消してしまった。
* * *
間もなく戻ってきた先輩の手には、お茶のペットボトルが2本握られていた。差し出されて受け取ると、ヒンヤリとした感触と滲み出る水滴が気持ち良い。
「これ……もしかして買ってきてくれたんですか?」
「ああ。あの角のところにある自動販売機で」
慌ててお財布を出そうとすると、先輩は「俺の町まで来てくれたお礼」と爽やかに笑った。
水分補給をした私たちは、東港大社に足を向ける。目的地には徒歩15分くらいで到着した。
「すごい立派ですね。それに心が洗われるような……」
見上げるほど立派な赤い鳥居を前に、私は感動していた。
東港大社は山の麓にあり、参道脇の木々は鬱蒼としている。地面を影に染めるほどの深緑が静謐な空間を作り出し、人ならざる存在が見えても可笑しくない気がした。
(神様に見守ってもらって、夏祭りに告白できたら……)
先輩とは2週間連続で会っているし、2日に1回は一緒に通学し、こっそりと交換日記も続けている。もしかしたら他人の目には、私たちは既にカップルに見えているのかもしれない。
それはそれで嬉しいけれど、でも私は、この曖昧な関係に名前を付けたかった。
(先輩、私と夏祭りに行きませんか? 先輩、私と夏祭りに行きませんか? ……うん、頑張って言わなきゃ!)
脳内で何度も練習し、大きく息を吸った。
「せ……」
「予定がないなら、ここの祭りに来ないか?」
「え」
先輩に言葉の先を奪われて、私は情けなく戸惑ってしまう。
「……嫌か?」
「あ! いえ……とんでもないです。夏祭り、楽しみですね!」
先輩の瞳が少しだけ揺れるのを見てしまい、私は自分から誘えなかったことを何だかとても後悔した。