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17 先輩に「彼氏」のふりを頼んでみる?

「私はあなたの彼女じゃないっ!」


 勢い良く置いたグラスから、黒烏龍茶が少しだけ零れて手にかかる。でもそんなことを気にしてはいられなかった。


「弟よ。彼女は彼女じゃないと言っているが?」


 周りの女子たちは興味津々といった様子で眺めているだけだったのに、飯尾くんのお兄さんだけが、私にちゃんと確認をしてくれて、少しだけホッとする。

 ストーカー疑惑で大暴落していたお兄さん株が、一気に高騰した瞬間だった。


「彼女は彼女ですよ。彼女は僕の彼女になりたいってお願いしてきましたから」


 飯尾くんは肩をすくめると不満げに唇を尖らせた。「彼女」という単語が飛びい過ぎて、私は訳がわからない。


「そんなお願いなんてしてないよ」

「いーや、したね。『お願い』って言った。僕は聞いたぞ!」

「まさか……あのこと? だってあれは、手を離してほしいって意味で!」

「文脈から彼女にしてください『お願いします』としか思えないだろ」

「違うってば!」


 私と飯尾くんの不毛な争いを見ていた亜未ちゃんが、間に割って入ってくれた。


「飯尾もいい加減にしなさいよ。あんまり花をいじめないで。花には今、ちゃんと彼氏がいるんだから」

「か、彼氏?」


 私には生まれてこの方彼氏はいない。逞先輩のことは好きだけど、まだ絶賛片想い中なのだ。

「彼氏」という単語に動揺する私と、そんな私を胡乱うろんな目で見る飯尾くん。


 そのとき机の下の見えない位置で、亜未ちゃんに軽く脇腹を小突かれた。


(話を合わせなさいよ)

(……そ、そうだね)


 せっかく出してくれた救いの舟に、危うく乗り損ねるところだったことを知り、私は慌てて亜未ちゃんと話を合わせた。


「飯尾くん。私、実は彼氏がいるの」

「誰だ。この学校のやつか?!」

「えぇーっと。違う学校の人かな」

「認めない! 僕は認めないぞ!」


 飯尾くんは私の方が先に恋人ができたことを、ひどく悔しがっているようだった。頭を抱えて苦悩する彼を見ていると、嘘をついてしまった罪悪感が半端ない。


 しかし飯尾くんは唸ったり叫んだり、一通りの顔芸を披露した後、とんでもないことを言い出した。


「咲谷、僕にその彼氏を紹介しろ! お前にふさわしい男か見極めてやる!」


 それは困る。だって私には「彼氏」なんかいないのだから。


(どうしよう……。先輩に彼氏のふりをしてもらうか、それとも……)


 私がある決断をするのに、それほど時間はかからなかった。

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