15 魔王は話が通じない
飯尾くんは強烈なキャラです。
生理的に無理だと思ったら、速やかにバックしてくださいΣ(-∀-;)
「まさか、咲谷があんなに成長してるとは……。つまらん」
飯尾くんは渋面で文句を言うものの、私たちのためにせっせとお肉とお野菜を焼いてくれる。うん、実に爽快な気分。
「僕にできなくて残念でした」
得意気に胸をそらす私を流し見ながら、肉奉行の飯尾くんは忙しなくトングを動かしていた。至高の焼き肉が焦げ付くことは、彼の矜持が許さないらしい。
「僕って?」
「何の話?」
網からこぼれる油に、炭火がパチパチと音を立てた。テーブルを囲んだ女子たちが予想外に話に食いついたので、私はその音をBGMに、飯尾くんの横暴について訴える。
「実はね……」
かくかくしかじか。魔王の悪行をぶちまけて少しスッキリしたところで、エースの子がとんでもないスパイクを放ってきた。
「相変わらず仲が良いよねぇ。飯尾と花」
私は首が取れそうなほど横に振る。私はそんな冗談は受け止めきれない。
「仲良くなんてないよ! 私がいじめられてるだけで」
「照れなさんなってー」
必死に否定する私を、エースの子はニヤニヤしながら茶化してきた。それに他の女子も便乗する。
「付き合っちゃえば?」
「そうだね、飯尾って変だけど、顔は良いし、頭も良いし。このダサいエプロンを着こなせる男は滅多にいないよ」
それを聞いていた飯尾くんは『炭火焼肉いいお』と書かれた真っ赤なエプロンを見せびらかした。
「そうだろう、そうだろう。咲谷以外は僕の魅力に気がついているのだな。咲谷よ、友を見習え!」
「見習いませんっ」
牛がいたら突撃しそうな、その赤さが憎らしい。私は軽く飯尾くんを睨み付けた。
「飯尾くんと花って、意外とお似合いじゃない? まぁ、飯尾ファンクラブとクラスの男子は泣くかもしれないけどさ」
クラスの男子が泣かれる意味はよくわからないけど、「変人」と名高い飯尾くんとお似合いと言われたところで、微妙な気持ちにしかならない。
「それって私も変ってこと?」
それに魔王の彼女になってしまったら、魔王の僕になるよりも状況的には悪化しているような……。
「だってさ、花って心広いじゃん。どんな変人が相手でもイケるでしょ。それに飯尾と花のやり取りっておもしろいんだよねー。花が困ってオロオロしてる感じが微笑ましいというか。痴話喧嘩にしか見えないというか。ね、みんな?」
「「「うん」」」
エースの子の問いかけに、亜未ちゃんと私以外が力強く頷いた。そんな風に面白がられて、勝手にカップル認定されても困ってしまう。私はもう1人の当事者である飯尾くんに助けを求めた。
「飯尾くんだって困るでしょ? 僕にするつもりの私が、彼女になるなんて! はっきり言ってよ、咲谷なんか興味ないって」
飯尾くんは見事なトング捌きで肉を皿に配り終えると、麗しの魔王スマイルを口元に刻む。
「うむ。苦しゅうない。咲谷、近う寄れ」
「怖いから近づきたくないよ」
警戒してむしろ遠ざかろうとする私の肩を、飯尾くんにがっちりと掴まれた。
「そんなに泣いてすがるなら、考えてやらないこともない」
上から目線の飯尾くん。私には泣いてすがった記憶など、1ミクロンだってありはしない。
相変わらず話が通じない魔王様に、私はクラリと目眩を覚えた。
花は先輩一筋なので、安心してお読みください。